旅の扉

  • 【連載コラム】こだわり×オタク心
  • 2025年4月8日更新
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コラムニスト:Tomoko Nishio

吉田都監督が手掛ける古典の名作「ジゼル」 新国立劇場バレエ団初のロンドン公演はツアーも実施

撮影:鹿摩隆司zoom
撮影:鹿摩隆司
2025年4月10日(木)~4月20日(日)新国立劇場 オペラパレスにて、新国立劇場 バレエ「ジゼル」が上演される。ドイツの農村を舞台にした物語で、2022年に吉田都芸術監督が初めて演出を手掛けた作品としても話題を呼んだ。今回はより解釈に深みを増した再演であることに加え、2025年7月にバレエ団が行うロンドン公演の演目となっていることでも注目が集まっている。




■ドイツに伝わる妖精譚をもとにつくられた物語

「ジゼル」はドイツの民間伝承をもとに、1841年にパリの王立音楽アカデミー(現パリ・オペラ座)で初演された古典の名作。19世紀半ばに興ったロマン主義では、民間伝承による妖精譚をもとにロマンティックバレエが誕生し、この「ジゼル」のほか、スコットランドを舞台とした人間と妖精の物語「ラ・シルフィード」など、現在でも上演され続けている作品がある。

「ジゼル」で取り上げられている民間伝承はドイツやオーストリアに伝わるスラヴ起源といわれる「結婚前に死んだ若い女たちが『ウィリ』という幽霊になり、若い男を捕まえて死ぬまで踊らせる」というものだ。

これをもとに書かれた物語のあらすじを簡単に説明しよう。
貴族の青年アルブレヒトは農民と偽って純粋な村娘ジゼルに近づく。しかし、アルブレヒトには高貴な身分の婚約者がいるということが暴かれ、ジゼルはショックで命を落としてしまう。後悔するアルブレヒトは夜、ジゼルの墓前を訪れるがウィリたちに囲まれ、命を落としそうになる。そこへウィリとなったジゼルがアルブレヒトの命乞いをし、絶体絶命というところで夜明けの鐘が鳴りアルブレヒトは一命をとりとめる。ジゼルは愛する人を救った思いとともに、永遠に墓の中へと消えていく――。

1841年「ジゼル」初演zoom
1841年「ジゼル」初演
■登場人物の心情をより掘り下げた演出 ロンドン公演はツアーも実施

この物語を、吉田監督は舞台設定や登場人物の心情などをより深く、わかりやすい演出で再構築した。舞台となる農村はドイツのライン地方とし、屋根からうっすらと煙が登るなど、生活感も漂う。ドイツではないがブリューゲルの絵画に描かれたような頭巾をかぶった農民なども登場する一方、貴族たちはクラナッハの宮廷絵画に描かれていそうないで立ちで登場し、「農民」「貴族」の対比が実にわかりやすい。さらに、貴族側のアルブレヒトを貧乏貴族の王子、婚約者のバチルドを大富豪の娘とすることで、貴族世界の政略結婚を匂わせているところも物語解釈の一助になる。

また、ウィリたちが登場する墓場のシーンは、リトアニアの「十字架の丘」にインスピレーションを得たという。無造作に並ぶたくさんの十字架は、それだけ多くの娘たちがはかなく命を落としていった証だ。アルブレヒトを囲み死地へ連れ去ろうとするウィリたちの姿は、幽玄の美しさとともに、その哀しさも迫り胸を打つ。演技力・表現力は非常に評判の高い新国立劇場バレエ団のダンサーによりこうしたドラマ性がより強く表現され、初めてバレエを見る人にもわかりやすい。

東京での公演は2025年4月20日まで。その後2025年7月24日(木)~7月27日(日)にはバレエ団初となるロンドン公演が、英国ロイヤルオペラハウスで行われる。鑑賞ツアーも設定されており、バックステージツアーなどの特典も用意されている。こうしたツアーを利用して、ロンドンに足を運んでみるのも一興だ。
英国舞台芸術の殿堂、ロイヤルオペラハウスzoom
英国舞台芸術の殿堂、ロイヤルオペラハウス
新国立劇場バレエ団『ジゼル』

日程:2025年4月10日(木)~4月20日(日)
会場:新国立劇場 オペラパレス
予定上演時間:約2時間15分(休憩含む)

【振付】ジャン・コラリ / ジュール・ペロー / マリウス・プティパ
【演出】吉田 都
【ステージング・改訂振付】アラスター・マリオット
【音楽】アドルフ・アダン
【美術・衣裳】ディック・バード
【照明】リック・フィッシャー

【芸術監督】吉田都
【出演】新国立劇場バレエ団
【指揮】ポール・マーフィー / 冨田実里
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

主演キャスト:
4月10日(木)19:00
小野絢子、福岡雄大

4月11日(金)14:00
木村優里、渡邊峻郁

4月12日(土)13:30
柴山紗帆、速水渉悟

4月12日(土)18:00
米沢 唯、井澤 駿

4月13日(日)13:30
池田理沙子、奥村康祐

4月18日(金) 19:00
小野絢子、福岡雄大

4月19日(土)13:30
柴山紗帆、速水渉悟

4月19日(土)18:00
米沢 唯、井澤 駿

4月20日(日)14:00
木村優里、渡邊峻郁

https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/giselle/

【ロンドン公演】
公演期間:2025年7月24日(木)~7月27日(日)
予定上演時間:約2時間15分(休憩含む)
会場:英国ロイヤルオペラハウス

https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/giselle_london25/

鑑賞ツアー
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/giselle_london25/#ticket
コラムニスト:Tomoko Nishio
旅行業界・旅&芸術文化ライター、動物好き。旅行業界誌記者・編集者を経てフリーの旅行ライターに。南仏中世と「三銃士」オタク。歴史とアートに軸を置きつつ、絵画、バレエ、音楽、物語、映画、漫画のロケ地・聖地巡り、海外旅行や小さなお散歩まで、様々な視点で旅を発信。「旅」は生活のなかにもあり。

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