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ロードマップ:このようにオーガナイズされたツアーはドイツならでは。/左は支払われたギャラの明細
かたづけをしていたら、ものすごく懐かしいモノが出て来ましたよ。
80年代に僕がヨーロッパでミュージシャンをやっていたというお話は前にもしたと思います。バンドマン。毎晩あちこちを旅して演奏して回るわけなんだけど、その時のツアーのロードマップを発見したんです。えーとね、スイスを含むドイツ一周ツアー。けっこう短いやつですね。中には3ヶ月ぐらい出っぱなしというツアーもありましたから。
で、そのロードマップを見てみるとスケジュールがなかなかタイト。12日で10都市だから、ほとんど休みなしで毎晩演奏するわけです。ただ演奏するだけじゃなくて、毎回リハーサルもあるし、ライブが終わった後は現地のクラブに繰り出すし、ファンの女の子たちといちゃいちゃしたりとか、バンドマンの1日はなかなか忙しいのです。
そんなだから観光を楽しむような時間は全くと言ってよいほどありません。街に着いたらそのまま会場に直行。ライブが終わるまでは缶詰で外には出られないからカフェでお茶するような時間もない。夜は自由だけど、はっきり言ってね、ナイトライフなんて世界中どこに行ってもたいして変わりません。色とりどりのライト、大音量の音楽、セクシーな衣装に身をつつんだ女たちと、それを取り囲む男たち。大量に消費されるアルコール。
事実、訪れたはずの街のこと、何にも憶えてないもんね。せっかく普通の人が出来ないような経験したのに何も憶えてないのでは何も経験しなかったのと一緒です。ああ、もったいないったらありゃしない。って、手にしたマップを見ながらぼんやりと当時のことなんかを考えていたら、うむ、いいアイデアが浮かんで来ましたよ。マップの行程通りにドイツの街を旅して回るんです。さっそく調べてみたら、どの街にも鉄道が走っていて、乗り放題のパスなんかも販売されています。ああ、ラブリーな彼女と電車でドイツ一周の旅、なんて素敵なんでしょう。
ねえ、お昼は何にする?
そりゃあ君、ソーセージに決まってるよ。僕たちドイツにいるんだぜ。ドイツではビールを飲んでソーセージを食べるんだ。
だって、あなた、お肉は食べないじゃない。
僕はビールを飲むからいいんだよ。
そんなのつまんないわ。ひとりで食事するなんて。あなたも何か食べなさいよ。ねえ、ドイツ人はソーセージの他に何を食べているの?
ハムとカツレツ。
それも肉じゃない。
ポテト、それからもちろんドイツパン。あと酪農が盛んだからたぶんチーズも食べる。
ふうん。なんだか素っ気ないわね。もっと楽しい食べ物はないの?
ない。楽しい食べ物がないかわりにドイツには哲学がある。
哲学?
そう、哲学。ドイツにはもう信じられないぐらい多くの哲学者がいるんだ。彼らは朝から晩までずっと哲学していて、ソーセージを食べてビールを飲む。そしてもちろんドイツパンを食べる。
哲学って楽しいの?
哲学は楽しいさ。サーフィンするのと同じぐらい楽しい。
ドイツ人はサーフィンしないの?
ドイツ人はサーフィンしない。サーフィンするための海がないからね。北には海があるけど、その海は冷たすぎるし、肝心の波がない。
それ本当?
うん。海がないかわりに川があって川でサーフィンする人はいる。でもそれはすごく少数、しょうがないから人々は哲学するんだ。
ドイツ人はサーフィンのかわりに哲学するの?
そう。ハワイの人は哲学しないだろ?あれはサーフィンに忙しくて哲学するヒマがないからなんだ。
なんてね。僕はこのように、どうでもいいような会話につきあってくれる女の子が好きです。
あれ、何の話してたんだっけ?
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ライブのスケジュール/左は楽器屋のレシート:ギャラのほとんどは楽器屋に消えていた。
追記:ミュンヘンをスタートしたツアーは国境を越えローザンヌへ。チューリッヒを経て、シュトゥットガルト→アーヘン→ブレーメン→クレーフェルト→ハルターン→デトモルト(ドルトムントではないらしい)と11日で9都市を巡り、12日めに港町ハンブルグで終了する。最近は日本人サッカー選手がドイツ各地で活躍しているせいもあって、何となく聞き覚えのある街もあるけれど、さっぱりどんなところかイメージすらわかないような街がほとんど。女の子と一緒に、ってのはまあ冗談として、この「少年パンク」の足跡を辿る旅、ぜひ実現させたいと思う。