旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2024年11月17日更新
共同通信社 経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

クリスマスツリー、照らした光が紫色の理由とは? 展示場所の宮下公園=「ミヤシタパーク」にあらず!?

△紫色に点灯した渋谷区立宮下公園のクリスマスツリー。奥がホテル「シークエンス ミヤシタパーク」(2024年11月12日、東京都渋谷区で大塚圭一郎撮影)zoom
△紫色に点灯した渋谷区立宮下公園のクリスマスツリー。奥がホテル「シークエンス ミヤシタパーク」(2024年11月12日、東京都渋谷区で大塚圭一郎撮影)

 日進月歩で街の姿が変わり続けている東京の中でも特に変化が著しいのが流行の発信地、渋谷だ。渋谷駅周辺で大規模複合商業施設「スクランブルスクエア」が順次開業し、47階建ての東棟が夜空をきらびやかに照らすようになった。かつては一等地に残る公開空地だった足元の「駅近」公園も大きく変貌し、足を運ぶと浦島太郎気分にさせられる。年の瀬を迎えて出迎えてくれたクリスマスツリーは紫色の発光ダイオード(LED)で照らしており、色合いには理由があった―。

△再開発が進む渋谷駅周辺(2024年10月29日、東京都渋谷区で大塚圭一郎撮影)zoom
△再開発が進む渋谷駅周辺(2024年10月29日、東京都渋谷区で大塚圭一郎撮影)

 ▽ミヤシタパークは宮下公園の英語名ではない!?
 「MIYASHITA PARKにお越しください」という案内メールを受領し、東京都出身者として恥ずかしい疑問が頭に思い浮かんだ。「なんで『宮下公園』と表記しないのだろうか?」
 結論から言うと、「MIYASHITA PARK(ミヤシタパーク)」と渋谷区立宮下公園は「別物」だ。ただし、これらは同じ土地にあり、「共生」している。
 そんな東京都民ならばかなり知られた知識を欠いていた理由を釈明すると、私は勤務先のワシントン支局へ異動するため2020年に渡米し、24年に本社に帰任するまで全く一時帰国しなかった。よって東京のことを最新情報にアップデートできておらず、今も基本ソフト(OS)で言えば最新情報に書き換え中というのが実情だからだ。

△渋谷区立宮下公園のクリスマスツリーと、奥の超高層ビルは「スクランブルスクエア」の東棟(2024年11月12日、東京都渋谷区で大塚圭一郎撮影)zoom
△渋谷区立宮下公園のクリスマスツリーと、奥の超高層ビルは「スクランブルスクエア」の東棟(2024年11月12日、東京都渋谷区で大塚圭一郎撮影)

 ▽なぜ「別物」なのか
 「別物」なのは、ミヤシタパークは複合施設の名称だからだ。JR山手線と明治通りに挟まれた渋谷区立宮下公園の細長い土地に建てられ、新型コロナウイルス流行中だった2020年に開業した。宮下公園はミヤシタパークの4階へ移転して〝空中庭園〟へと姿を変えたものの、同じ土地に「共生」している。
 1953年に開設された旧公園が取り壊され、跡地にできた建物は1~3階はレストランや衣料品店など計約90店が入居する商業施設だ。宮下公園は、高さ約17メートルにある屋上に整備した。公園の北側には塔屋を含めて18階建てのホテル「シークエンス ミヤシタパーク」も併設している。
 一等地にある旧公園のポテンシャル(潜在力)に目を付けた渋谷区は、官民連携のパブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)によって30年間の定期借地権で公園の建て替えを決定。開発に当たる事業主は、公募で三井不動産が選ばれた。

△「ミヤシタパーク」の建物外観(2024年11月12日、東京都渋谷区で大塚圭一郎撮影)zoom
△「ミヤシタパーク」の建物外観(2024年11月12日、東京都渋谷区で大塚圭一郎撮影)

 ▽宮下公園の英語名は?
 それでは施設名が「MIYASHITA PARK」ならば、宮下公園の英語名は何と呼ばれているのか?これは読んで字のごとしで「SHIBUYAKURITSU MIYASHITA PARK」だ。
 公営を意味する英語の「MUNICIPAL」を組み合わせた「TOKYO SHIBUYA―MIYASHITA MUNICIPAL PARK」などの名称の方が、外国人にも分かりやすいと思うのだが…。
 私が11月12日にミヤシタパークへ向かったのは、4階の宮下公園に設けたクリスマスツリーの点灯式があったためだ。クリスマスツリーと周囲の発光ダイオード(LED)に紫色の明かりが灯ったのは午後5時、曲「渋谷で5時」そのものだ。

△カフェ「バレー・パーク・スタンド」で2024年11月12日に提供が始まった、紫色をあしらったオリジナルメニュー(同日、東京都渋谷区で大塚圭一郎撮影)zoom
△カフェ「バレー・パーク・スタンド」で2024年11月12日に提供が始まった、紫色をあしらったオリジナルメニュー(同日、東京都渋谷区で大塚圭一郎撮影)

 ▽紫色で照らす理由は
 紫色に照らされたのは、これがパープルリボン運動の一環だからだ。共催する化粧品大手のコーセーが、紫色のボトルを採用した高付加価値型化粧品ブランド「コスメデコルテ」の商品「リポソーム美容液」を売り込む狙いもある。クリスマスの12月25日まで毎日午後5~11時に点灯される。
 同時に「シークエンス ミヤシタパーク」の4階にあるカフェ「バレー・パーク・スタンド」では、紫色をあしらったオリジナルメニューの紫芋ラテ(アイス、ホット各990円)、バスクチーズケーキ(990円)などの提供が始まった。期間は11月18日まで。
 コーセーのコスメデコルテ事業部販売戦略二課の福本典課長は取り組みの狙いについて「化粧品という多くの方々に影響力のあるコンテンツと、スイーツという拡散力のあるコンテンツがコラボレーション(協業)することで、今回の活動をより広い方々にお伝えできると考えた」と説明した。
 カフェの窓外に立てられた紫色に彩られたクリスマスツリーの奥では、スクランブルスクエアの東棟から窓明かりが漏れていた。夜空を照らすサーチライトのような明かりは、変わり続ける渋谷の行く末を示しているかのように映った。

△カフェ「バレー・パーク・スタンド」に展示されたコーセーの「コスメデコルテ」(2024年11月12日、東京都渋谷区で大塚圭一郎撮影)zoom
△カフェ「バレー・パーク・スタンド」に展示されたコーセーの「コスメデコルテ」(2024年11月12日、東京都渋谷区で大塚圭一郎撮影)

 【パープルリボン運動】家庭内暴力(DV)といった女性に対する暴力の根絶を目指した運動。女性に対する暴力の被害者によって1994年にアメリカで生まれた草の根運動で、日本を含めた国際的な運動に広がった。運動のシンボルとして、紫色のリボンのマークが使われている。国際連合は1999年、毎年11月25日を「女性に対する暴力撤廃の国際デー」に制定した。日本では毎年11月12~25日の2週間を「女性に対する暴力をなくす運動」の期間と定めており、政府と地方自治体、団体、企業が幅広い活動を展開している。
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社 経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月、東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月に社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。2024年9月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を積極的に執筆しており、英語やフランス語で取材する機会も多い。

日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、旧日本国有鉄道の花形特急用車両485系の完全引退、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載「鉄道なにコレ!?」と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。

本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)、カナダ・バンクーバーに拠点を置くニュースサイト「日加トゥデイ」で毎月第1木曜日掲載の「カナダ“乗り鉄”の旅」(https://www.japancanadatoday.ca/category/column/noritetsu/)も執筆している。

共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。
risvel facebook