旅の扉
- 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
- 2024年11月9日更新
- よくばりな旅人
- Writer & Editor:永田さち子
山代温泉「界 加賀」で初めての金継ぎ体験 ~伝統文化に触れる石川の旅①
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- 割れたり欠けたりした器を修復することで、新たな味わいが生まれる金継ぎ。
- 以前からずっと興味があった「金継ぎ」。割れたり欠けたりしてしまった陶磁器や漆器を修復する金継ぎは、日本の伝統技法。漆で修復した痕を金粉、銀粉などの金属粉で装飾することによって、別の味わいが生まれます。その金継ぎを体験できる工房があるのが、星野リゾートの温泉旅館「界 加賀」です。
モノを大切にする心から生まれた伝統技法
金継ぎの歴史については諸説ありますが、漆を使って道具を修復した痕跡は、古くは縄文時代の石器にも残っているのだとか。金粉を使って装飾を施し、「金継ぎ」と呼ばれるようになったのは、茶の湯文化が盛んになった室町時代以降という説が有力。高価な陶磁器を長く楽しむために生まれた手法により、美術品としての価値が上がった器もあるのだそうです。
「界 加賀」に「金継ぎ工房」が誕生したのは2023年4月。それまでも宿泊ゲスト向けに金継ぎのワークショップは行われていましたが、工房ができたことでスタッフが毎日、器の修復作業を行えるようになりました。ゲストがその様子を見学したり、作業へ参加できるプログラムが「金継ぎいろは」です。
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- この日は、金粉を蒔いて仕上げる作業を体験。2023年春の工房オープン以来、金継ぎ体験をした人は3,000に以上にのぼるとのこと。
- 金継ぎが始まったきっかけは、スタッフの“モノを大切にする心”。器と料理のマリアージュにこだわった会席料理を提供するこの施設には、九谷焼や山中漆の作家の作品など、繊細な絵柄や複雑な形状の多種多様な器があります。毎日、お客様に提供する料理に使うため、どんなに大切に扱っていてもひびや欠けなどの劣化は避けられません。その状況に蒔絵師の経験をもつスタッフが「大切な器を廃棄するのはもったいない…」と金継ぎの提案をし、技術を広めたのが始まりとのこと。現在、工房内には地元の専門家による指導を受けたスタッフが常駐し日々、修復作業を行っています。
スタッフとゲストが力を合わせて大切な器を守り伝える「金継ぎいろは」
工房内に展示された古来の道具や歴史パネルでは、金継ぎの歴史と手法を紹介しています。また、スタッフが実際に修復中の器を見せてくれ、接着剤と金属粉の種類、工程や仕上がりの違いなどを丁寧に説明してくれます。私は接着部分に金属粉を塗布して仕上げる、金粉蒔きという工程を体験させてもらいました。
金継ぎの工程には、割れた部分の研磨、接着、研ぎ、仕上げの金粉蒔きなどがあり、それぞれの工程で乾燥させたり、同様の作業を繰り返すこともあるため、完成までには最低でも1カ月以上かかります。体験できるのはその一部分ですが、破損してしまった器に新しい命を吹き込む作業はとても楽しいもの。誰かの作業を引き継ぎ、受け取ったバトンを次の誰かに渡していくような感覚でしょうか。夕食と朝食の器の一部には、実際に工房で修復されたものが使われています。それを見ると、大切な器を守り受け継いでいく過程の一部に自分も関わっていることがちょっと誇らしく、感慨深いものがあります。
施設内で金継ぎが行われるようになるまで、破損した器は廃棄されることが多かったそうですが、現在はほとんどが再利用されるようになったとのこと。伝統文化に触れる体験が、SDG'sな取り組みに繋がるなんて素敵だと思いませんか。
好みの器を選んでカクテルタイム楽しめる「べんがらラウンジ」
「界 加賀」の施設の一部、紅殻色の外壁が美しい伝統建築棟は文政年間(1818~1830年)に建てられ、国の有形文化財に登録されています。この2階に2024年3月にオープンしたのが「べんがらラウンジ」。格子窓からは、開湯以来1300年の歴史をもつ山代温泉の町並みを一望できます。
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- 紅殻色に囲まれカクテルタイムを楽しめる「べんがらラウンジ」は、1日4組だけの特等席。
- 「界 加賀」の前身は、かつて北大路魯山人も逗留したことがある老舗旅館の「白銀屋(しろがねや)」。「器は料理の着物」という魯山人の言葉もあり、食事の際には料理と器のマリアージュを楽しめます。さらに、この地で生まれた文化を感じながら贅沢なひとときを味わってほしいとオープンしたのがこのラウンジ。展示スペースには地元を中心に活動する作家たちの協力を得て小皿やグラスが集められ、それらを実際に手に取り、好みの器を選べます。
鮮やかな紅殻色の室内から見下ろす町並みは「湯の曲輪(ゆのがわ)」と呼ばれ、共同浴場を中心とした温泉街を呼ぶ北陸地方独特の名称。山代温泉の象徴でもある古総湯を眺めながら過ごすカクテルタイムに、魯山人をはじめとした文化人が集った時代に思いをはせるのはいいものです。
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- 約100種類の小皿やグラスからあれこれ迷いながら選ぶのが楽しく、お酒やおつまみが盛られるとさらに気分が盛り上がる。
- 加賀藩主も訪れた伝統建築の茶室で茶の湯体験
金沢は、京都・松江(島根県)と並ぶ日本三大茶菓子どころ。茶の湯文化が盛んな土地柄でもあり、中庭には伝統建築棟と同年代に建てられ、国の有形文化財に登録された茶室が残ります。外観は赤瓦の屋根、内部は漆塗りの格天井が特徴的な茶室で行われる「茶の湯体験」にも参加してみました。貴人口から入ると、ピンと張りつめた空気に心地よい緊張感を覚えます。振る舞われるのは呈茶(ていちゃ、略式のお茶のこと)で、茶道の心得がなくても心配ありません。和菓子とお茶を味わいながら、掛け軸や茶わん、道具類の由来について、丁寧に教えてもらいました。
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- 心地よい緊張感を味わいながらスタッフによる呈茶と季節の上生菓子を味わう茶の湯体験。
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- 季節の上生菓子は金沢の老舗和菓子店もの。この日の茶碗は、九代・大樋長左衛門作。
- 寒さに向かうこれからの季節、ゆったりと温泉を楽しみながら金継ぎや茶の湯体験を通じ、この地で今も大切に守り伝えられている伝統文化に触れてみてはいかがでしょうか。
伝統文化に触れる石川の旅
②では、「北陸の名湯・山代温泉「界 加賀」で伝統文化と美食体験」を
③では、「開湯1300年の歴史ある山代温泉街をぶらり散策」をご紹介します。
●界 加賀
石川県加賀市山代温泉18-47
TEL 050-3134-8092(界予約センター)
1泊3万1,000円から
※2名1室利用時の1名料金、夕朝食付き、税・サービス料込み
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaikaga/