皆さん、もうご覧になりましたか?
京・上野の東京国立博物館 平成館で開催中の 創建1200年記念 特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」が、8月22日に来場者10万人を突破しました。
京都の北郊、高雄山の中腹に開かれた神護寺。紅葉の名所として名高い古刹は、平安京造営に尽力した和気清麻呂(わけのきよまろ)が建立した高雄山寺が前身です。高雄山寺の時代には、天台宗の開祖となった伝教大師最澄に次いで、弘法大師空海が大同4年(809)に入山。東寺を拝領するまでの10数年間活動の拠点とし、真言密教の出発点となりました。
本展は、824年に正式に密教寺院となった神護寺創建1200年と空海生誕1250年を記念して開催。神護寺の貴重な文化財をこれだけ一度に鑑賞できる機会は、今後まずないでしょう。
1200年という長い時を経て現代に受け継がれてきた神護寺の文化財は、現在、国宝17点、重要文化財2833点。そのなかから選りすぐった約100点で展覧会は構成されています。
第1章 神護寺と高雄曼荼羅
第2章 神護寺経と釈迦如来像 ―平安貴族の祈りと美意識
第3章 神護寺の隆盛
第4章 古典としての神護寺宝物
第5章 神護寺の彫刻
どれも貴重な寺宝ですが、約230年ぶりの修復を終えた4メートル四方の大きさを誇る国宝「両界曼荼羅(高雄曼荼羅)」(現在、金剛界を展示中)は特に注目です。
弘法大師が直接制作に関わった現存最古の両界曼荼羅で、空海自身が筆を入れたと伝えられます。
金剛界と胎蔵界、密教の世界観を図示した両界曼荼羅は、高雄山神護寺に伝わったため「高雄曼荼羅」と呼ばれます。
平成28年から6年の歳月をかけて修復を行い、昨年の5月10日に神護寺にて曼荼羅の開眼法要を執行しました。
「曼荼羅の尊像が見違えるように鮮明に映るようになりました」というのが関係者の方々の話です。金と銀で繊細に描かれた仏や如来のお姿は、よく目を凝らさないと見えないところもありますが、1200年前に生きた空海という存在がリアルに伝わってきて感動的です。
高尾曼荼羅は国立京都博物館に寄託されており、この展覧会が終わると次はいつ会えるかわかりません。
見逃したくないと言えば、ご本尊の薬師如来立像もそうでしょう。
昔、紅葉の頃に神護寺で拝観した記憶がありますが、ふだんは堂内の奥に設けられた須弥壇上の厨子に安置されています。
こちらも弘法大師ゆかりの仏像で、神護寺創建以来1200年神護寺に安置され、弘法大師も日々祈りを捧げて、人々の信仰を集めてこられたと言われます。台座の修理をするにあたり、寺外での初めての御開帳となりました。
今回は360度、どこからでもお姿を拝むことができて、お寺での拝観とは違う印象です。
昔学校でならった平安時代の仏像の特徴と言えば「翻波式」の衣紋ですよね。カヤの一材から掘り出したこのご本尊の衣紋は深く波打っており、その下に透ける身体は重量感たっぷり、かつ、しっかり鍛えられているように見えます。そして、お顔の表情は厳しく唇をきゅっと結んで迫力があります。
平安時代の作とされる日光菩薩立像、月光菩薩立像(ともに重文)が左右に控え、思わず手を合わせてしまいました。
個人的に後期展示の白眉は、国宝・釈迦如来像(平安時代・12世紀 京都・神護寺蔵)です。
期待が大きすぎて、思っていたより少し小ぶりな仏画でしたが、正面に立って、しばらく動けなくなるほど穏やかな美しさでした。
「赤釈迦」の愛称があり、深く鮮やかな朱色の衣が印象的です。衣の表面に繊細な截金(きりかね)による幾何学文様と小さな花文が彩色されています。
光背の宝相華文の透かし彫りのような繊細な模様も優美です。
図録によれば、「最高の材料と技術をもって、能う限り手の込んだ優美華麗な造形をなすことが信仰上の徳を積むことになると考えられた」という12世紀後半の平安貴族の信仰と美意識を表しているそう。
繊細な「截金」という純金箔などで仏画や仏像に文様を描き出す加飾技法は、元々は6世紀に仏教とともに大陸より伝えられ、最古のものは飛鳥時代の法隆寺金堂の「四天王像」にも見られるそうです。今は日本にしか残っていない優美な装飾。そうした意味からも感慨深い仏画でした。
現存最古の「五大虚空蔵菩薩坐像」も美しいお像です。
虚空蔵菩薩の徳を五方に分けた菩薩で、法界虚空蔵・金剛虚空蔵・宝光虚空蔵・蓮華虚空蔵・業用虚空蔵。 一説に金剛界五智如来の所変ともいわれるそうです。
鎮護国家を願い、空海の後を継いだ真済(しんぜい)の代に安置されましたが、日本でつくられた作例のうち5体が揃う現存最古のもので、寺外で5体揃って公開されるのも初めてのこと。
それにしても、平安時代の仏像仏画は、なんと品の良い顔立ち、そして均整の取れた美しい造形なのでしょうか。見惚れるばかりの展覧会でした。
展覧会を見終えて、神護寺のホームページを見てみました。
すると、やはり大切な寺宝はそんなにしばしば拝むことはできないようです。
参考:
□宝塔特別拝観 五大虚空蔵菩薩像
2024年秋季御開帳 10月12日(土)~10月14日(月・祝)
2025年春季御開帳 5月13日(火)~5月15日(木)
□ 大師堂特別拝観 板彫弘法大師像
御開帳 11月1日~11月7日
□ 宝物虫払い行事
国宝 源頼朝像、平重盛像、釈迦如来像ほか約70点を展示
※足利義持像(重文)を修理後初公開
日 時 5月1日~5月5日
場 所 神護寺書院にて
あと1週間余り。東京がお近くなら、ぜひお出かけになることを心からおススメします。
【開催概要】
会期 2024年7月17日(水)~9月8日(日)
会場 東京国立博物館 平成館 特別展室(上野公園)
毎週金・土曜日は~19時00分(注)ただし8月30日・31日は除く
(入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日
※会期中、一部作品の展示替えを行います。
※本展は事前予約不要。
詳細は、https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=2649 で要確認。