旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2024年3月23日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

船舶免許なしで操舵できる「水上の家」 カナダの世界遺産でクルーズ体験【12】

△リドー運河を航行中の「ル・ボート」の船舶(2023年10月、カナダ東部オンタリオ州スミスフォールズで筆者撮影)zoom
△リドー運河を航行中の「ル・ボート」の船舶(2023年10月、カナダ東部オンタリオ州スミスフォールズで筆者撮影)

(シリーズ「「カナダの世界遺産でクルーズ体験」【11】」からの続き)
 カナダ東部オンタリオ州の世界遺産に指定されているリドー運河はアメリカ(米国)の侵攻に備えて造られたのとは裏腹に、今や通行するのは娯楽用の船舶だけという「平和の象徴」となっている。航行している船に多いのが、「水上の家」のように寝泊まりできる部屋や台所も備えたモーター付きの船舶「ハウスボート」だ。2階部分もある立派な船だが、驚くことに出発前に講習を受ければ船舶免許を持たずに舵取りをできるという。

△カナダの首都オタワ中心部の八つ並んだ閘門を通行する船舶(23年9月、筆者撮影)zoom
△カナダの首都オタワ中心部の八つ並んだ閘門を通行する船舶(23年9月、筆者撮影)

 【リドー運河】カナダ東部オンタリオ州にある首都のオタワと、五大湖の一つのオンタリオ湖畔の都市キングストンを結ぶ全長202キロの運河。2007年に世界遺産(文化遺産)に登録された。現在のオンタリオ州の一部を植民地化していたイギリス(英国)軍が米国との戦闘が起きた場合に備えて軍事物資や兵隊を輸送するために建設した。ジョン・バイ大佐が工事の指揮を執り、1826年に建設を始めて1832年に完成させた。人工的に運河を敷設したのは全体の約1割の約19キロで、他の区間は川や湖を活用している。
 カナダ国立公園局(パークス・カナダ)によると、水位が異なる区間を船舶で航行できるようにするためのゲート「閘門(こうもん)」は45(テイ運河の入り口を含めると計47)ある。うちオタワ川に面したオタワ中心部では名門ホテル「フェアモント・シャトー・ロリエ」の脇に8つの閘門が集中しており、それらを開閉しながら船舶が24・1メートルの高低差を行き来した場合には通常約1時間半かかる。

△「ル・ボート」が貸し出している船舶「ホライゾン」シリーズの1階の室内レイアウト。右下がホライゾン4(同社提供)zoom
△「ル・ボート」が貸し出している船舶「ホライゾン」シリーズの1階の室内レイアウト。右下がホライゾン4(同社提供)

 ▽出発前の講習後は「好きな場所へ」
 日本では推進エンジンがない手こぎボート、全長が3メートル未満で付けられている推進用エンジンの出力が1・5キロワット(約2馬力)未満の船舶を除くと小型船舶操縦免許が必要だ。
 これに対し、リドー運河を航行するためのハウスボートを貸している企業、ル・ボート(Le Boat)は「出発前にスタッフから操縦方法などの講習を受ければ、好きな場所へ航行できる」と説明する。ル・ボートの公式ホームページから予約することができ、その際に船舶の種類と出発地、返却場所を指定する必要がある。

△VIA鉄道カナダの列車から見たオタワ近郊のリドー運河(24年2月、カナダ東部オンタリオ州で筆者撮影)zoom
△VIA鉄道カナダの列車から見たオタワ近郊のリドー運河(24年2月、カナダ東部オンタリオ州で筆者撮影)

 ▽全長13・5メートルの船舶
 私たちはオタワから約78キロ離れたスミスフォールズを発着する3日間の予約だった。船舶はポーランドのデルファイ製で、全長13・5メートル、全幅約4・4メートルの最大9人乗りの「ホライゾン4」だ。1階には四つの寝室と洗面所、台所、居間があり、2階は操縦席を含めたデッキがある。
 2024年3月下旬時点では、同じタイプのスミスフォールズ発着で24年5月後半に1週間借りた場合は2213米ドル(約33万円)に設定している。

△パークス・カナダがリドー運河沿いの景勝地に置いたいすでくつろぐ筆者(23年9月、カナダ東部オンタリオ州)zoom
△パークス・カナダがリドー運河沿いの景勝地に置いたいすでくつろぐ筆者(23年9月、カナダ東部オンタリオ州)

 ▽書籍やゲームを置いている理由
 スミスフォールズ出発を予約した場合、リドー運河沿いにある白い小屋のような事務所に立ち寄って受付で鍵を受け取る。
 傍らには書籍やカードゲーム、ボードゲームが置いてある。眺めていると、女性係員が「船上で読書をしたり、ゲームを遊んだりするために貸し出しているので、好きなのを持って行って」と教えてくれた。

△カナダ東部オンタリオ州スミスフォールズに停泊した「ル・ボート」の船舶(23年10月、筆者撮影)zoom
△カナダ東部オンタリオ州スミスフォールズに停泊した「ル・ボート」の船舶(23年10月、筆者撮影)

 ▽立派な船体に怖じ気づく
 持参した手荷物や、受付で借りたゲームなどは自分で手押し車を使って運ぶ。船舶「ハウスボート」と呼ぶだけあって、まるで宿泊用のロッジを借りるような感覚だ。
 手押し車を道連れに歩道を進むと、青い文字で企業ロゴの「le boat」を船体に記した船舶が10隻余り並んでいた。予約した「ホライゾン4」にたどり着いた時、想像していたのを超える立派な船体を目の当たりにして怖じ気づいた。
 こんな立派な船を、水上では手こぎボートしかこいだことがない自分が操縦できるのだろうか…。
(シリーズ「シリーズ「カナダの世界遺産でクルーズ体験」【13】に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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