(シリーズ「「カナダの世界遺産でクルーズ体験」【11】」からの続き)
カナダ東部オンタリオ州の世界遺産に指定されているリドー運河はアメリカ(米国)の侵攻に備えて造られたのとは裏腹に、今や通行するのは娯楽用の船舶だけという「平和の象徴」となっている。航行している船に多いのが、「水上の家」のように寝泊まりできる部屋や台所も備えたモーター付きの船舶「ハウスボート」だ。2階部分もある立派な船だが、驚くことに出発前に講習を受ければ船舶免許を持たずに舵取りをできるという。
【リドー運河】カナダ東部オンタリオ州にある首都のオタワと、五大湖の一つのオンタリオ湖畔の都市キングストンを結ぶ全長202キロの運河。2007年に世界遺産(文化遺産)に登録された。現在のオンタリオ州の一部を植民地化していたイギリス(英国)軍が米国との戦闘が起きた場合に備えて軍事物資や兵隊を輸送するために建設した。ジョン・バイ大佐が工事の指揮を執り、1826年に建設を始めて1832年に完成させた。人工的に運河を敷設したのは全体の約1割の約19キロで、他の区間は川や湖を活用している。
カナダ国立公園局(パークス・カナダ)によると、水位が異なる区間を船舶で航行できるようにするためのゲート「閘門(こうもん)」は45(テイ運河の入り口を含めると計47)ある。うちオタワ川に面したオタワ中心部では名門ホテル「フェアモント・シャトー・ロリエ」の脇に8つの閘門が集中しており、それらを開閉しながら船舶が24・1メートルの高低差を行き来した場合には通常約1時間半かかる。
▽出発前の講習後は「好きな場所へ」
日本では推進エンジンがない手こぎボート、全長が3メートル未満で付けられている推進用エンジンの出力が1・5キロワット(約2馬力)未満の船舶を除くと小型船舶操縦免許が必要だ。
これに対し、リドー運河を航行するためのハウスボートを貸している企業、ル・ボート(Le Boat)は「出発前にスタッフから操縦方法などの講習を受ければ、好きな場所へ航行できる」と説明する。ル・ボートの公式ホームページから予約することができ、その際に船舶の種類と出発地、返却場所を指定する必要がある。
▽全長13・5メートルの船舶
私たちはオタワから約78キロ離れたスミスフォールズを発着する3日間の予約だった。船舶はポーランドのデルファイ製で、全長13・5メートル、全幅約4・4メートルの最大9人乗りの「ホライゾン4」だ。1階には四つの寝室と洗面所、台所、居間があり、2階は操縦席を含めたデッキがある。
2024年3月下旬時点では、同じタイプのスミスフォールズ発着で24年5月後半に1週間借りた場合は2213米ドル(約33万円)に設定している。
▽書籍やゲームを置いている理由
スミスフォールズ出発を予約した場合、リドー運河沿いにある白い小屋のような事務所に立ち寄って受付で鍵を受け取る。
傍らには書籍やカードゲーム、ボードゲームが置いてある。眺めていると、女性係員が「船上で読書をしたり、ゲームを遊んだりするために貸し出しているので、好きなのを持って行って」と教えてくれた。
▽立派な船体に怖じ気づく
持参した手荷物や、受付で借りたゲームなどは自分で手押し車を使って運ぶ。船舶「ハウスボート」と呼ぶだけあって、まるで宿泊用のロッジを借りるような感覚だ。
手押し車を道連れに歩道を進むと、青い文字で企業ロゴの「le boat」を船体に記した船舶が10隻余り並んでいた。予約した「ホライゾン4」にたどり着いた時、想像していたのを超える立派な船体を目の当たりにして怖じ気づいた。
こんな立派な船を、水上では手こぎボートしかこいだことがない自分が操縦できるのだろうか…。
(シリーズ「シリーズ「カナダの世界遺産でクルーズ体験」【13】に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)