旅の扉

  • 【連載コラム】こだわり×オタク心
  • 2023年6月29日更新
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コラムニスト:Tomoko Nishio

牧阿佐美バレヱ団の人気作「三銃士」再び。ダルタニヤンと冒険の旅へ

撮影・鹿摩隆司(2014年)zoom
撮影・鹿摩隆司(2014年)
2023年7月1日(土)・2日(日)に牧阿佐美バレヱ団「三銃士」が上演される。原作はフランスの小説家、アレクサンドル・デュマ原作の人気作品。国王の銃士を志し、南仏のガスコーニュを旅立ったダルタニアンがパリで出会ったアトス、ポルトス、アラミスらの「三銃士」や、王妃の侍女コンスタンスらとともに国王ルイ十三世の王妃アンヌに敵対する勢力に立ち向かう冒険活劇だ。女性主人公が多いバレエ作品にあって、男性が大活躍するバレエでもあることから、男性ダンサー達がここぞとばかりに剣を片手に弾けまくるのも見どころのひとつだ。日本では牧阿佐美バレヱ団だけがレパートリーとしている作品でもある。(文章中敬称略)
パリのアレクサンドル・デュマ像の背中を護るダルタニアンzoom
パリのアレクサンドル・デュマ像の背中を護るダルタニアン
■多様なメディア化がさらにファンを生む。170年を経ても人気の王道ストーリー

アレクサンドル・デュマが新聞の連載小説として「三銃士」の執筆を開始したのは1844年。人気を博したこの小説は同年単行本化され、さらに主人公ダルタニアンらのその後を描いた「二十年後」や「ブラジュロンヌ子爵」といった続編も書かれた。「三銃士」は、いわばダルタニアンの長い人生を描いた三部作の、その第一部に当たるものなのだが、テンポのいいストーリーと彼を取り巻く魅力的なキャラクターなどが読者やクリエイターらの心を引き付けるのだろう。誕生以来170年余を経た現在に至るまで、さまざまな脚色を加えながら(時には原作の痕跡も見当たらないようなものも含め)映画や芝居、ミュージカル、アニメなど多様にメディア化され、それによりさらに新たな三銃士ファンを生み出しているという、実に息の長い魅力を持つ作品なのだ。
撮影・山廣康夫(2014年)zoom
撮影・山廣康夫(2014年)
今回牧阿佐美バレヱ団が上演するバレエ「三銃士」は1990年にオーストラリア・バレエ団で初演されたものを、1993年にレパートリーとして取り入れたもので、今年がバレエ団初演から30年目を数える。物語は初演時のものに若干の手直しが加えられてはいるものの、アンヌ王妃の首飾りを巡る策謀と冒険という王道ストーリーがベースとなっている。テンポの良い物語展開に、迫力満載(そして生き生きと楽しそうな)の男性舞踊とソードファイト、女性同士のパドドゥ、ミレディの踊りには、バレエファンならくすっとするパロディも用いられているという遊び心もある作品だ。音楽は「三銃士」が描かれた19世紀半ばに舞台――いわば当時の舞台シーンを席巻したヴェルディの音楽が使われている。一度聴いたらいつまでも耳に残る軽快な音楽もぜひ楽しんでいただきたい。
撮影・鹿摩隆司(2014年)zoom
撮影・鹿摩隆司(2014年)
■ダルタニアンをはじめ、フレッシュなキャストに期待

今回ダルタニアンを踊るのは水井駿介(1日)と清瀧千晴(2日)。いずれもバレエ団の公演では主演を踊るダンサーで、ダルタニアンとしては初役。水井はシャープな切れ味と表現力が持ち味で、ダルタニアンははまり役。清瀧は古典の王子役などノーブルな魅力が持ち味で、「三銃士」はこれまでも出演を重ねているが、実はダルタニアンは初役。満を持しての登場ともいえ、実に楽しみだ。
ダルタニアンが敵対する謎の美女・ミレディには青山季可(1日)と光永百花(2日)が挑む。繊細な女性や透明感のあるプリンセス役などを主に踊ってきた2人が、色気と茶目っ気を併せ持つ悪女をどう演じてくるか、こちらも注目である。


三銃士は、リーダー格のアトスにダルタニアンを演じる清瀧(1日)・水井(2日)がそれぞれ別日に努める。ポルトス役の大川航矢、アラミス役の正木龍之介(いずれも両日)、王妃の侍女コンスタンス阿部裕恵(1日)、米澤真弓(2日)らも初役で、過去にこの「三銃士」を見たことがあっても、フレッシュな気持ちで楽しめるキャストとなっている。
撮影・山廣康夫(2014年)zoom
撮影・山廣康夫(2014年)
なお、「三銃士」の登場人物であるダルタニアンや、アトス、ポルトス、アラミスには実在のモデルがいるということはあまり知られていないかもしれない。ダルタニアンの故郷、南フランスのルピアック村では毎夏にダルタニアン祭り「D'Artagnan chez d'Artagnan」が開かれ、銃士隊のコスプレをした人々などらとともに土地のワインを楽しみながら17世紀へのタイムトリップ感が味わえる。近郊にはポルトスのモデルとなった人物が住んでいた城館ホテルやアラミスのモデルとなった人物の故郷「アラミッツ村」もあるので、作品に興味を持ったらぜひ、「ダルタニアン」の物語の聖地巡りなども楽しんでみてはどうだろう。
撮影・山廣康夫(2014年)zoom
撮影・山廣康夫(2014年)
三銃士

日時:2023年7月1日(土)16:00、7月2日(日)15:00
会場:新国立劇場 中劇場
演出・振付 アンドレ・プロコフスキー
原作 アレクサンドル・デュマ
音楽 ジュゼッペ・ヴェルディ
編曲 ガイ・ウールフェンデン
美術・装置デザイン アレクサンドル・ワシリエフ
出演
ダルタニヤン:水井駿介(1日)、清瀧千晴(2日)
コンスタンス:阿部裕恵(1日)、米澤真弓(2日)
ミレディ:青山季可(1日)、光永百花(2日)
三銃士 ポルトス:大川航矢(両日)
三銃士 アトス:清瀧千晴(1日)、水井駿介(2日)
三銃士アラミス:正木龍之介(両日)
ほか 牧阿佐美バレヱ団


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コラムニスト:Tomoko Nishio
旅行業界・旅&芸術文化ライター、動物好き。旅行業界誌記者・編集者を経てフリーの旅行ライターに。南仏中世と「三銃士」オタク。歴史とアートに軸を置きつつ、絵画、バレエ、音楽、物語、映画、漫画のロケ地・聖地巡り、海外旅行や小さなお散歩まで、様々な視点で旅を発信。「旅」は生活のなかにもあり。

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