旅の扉

  • 【連載コラム】こだわり×オタク心
  • 2023年6月22日更新
arT'vel -annex-
コラムニスト:Tomoko Nishio

田園風景がモチーフ。英国で生まれた名作バレエ『シンデレラ』、英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23

©2023 Tristram Kentonzoom
©2023 Tristram Kenton
映画館で英国ロイヤル・オペラ・ハウスのバレエやオペラを楽しむら英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23。2023年6月16日から上映のバレエ『シンデレラ』は、英国ロイヤル・オペラ・ハウスで生まれた名作のひとつだ。1948年にバレエ団の振付家フレデリック・アシュトンによって生み出されたこのバレエは2023年で75周年。英国ロイヤル・バレエ団ではこの節目の年に衣装やセットを新たに刷新し、十数年ぶりに上演した。モチーフとなっているのは英国の田園風景。例えばウイリアム・モリスのテキスタイルに描かれた草花や鳥のモチーフに代表されるように、英国人が愛してやまないエッセンスをふんだんに盛り込んだ、英国風の夢世界が繰り広げられている。(文章中敬称略)
©2023 Tristram Kentonzoom
©2023 Tristram Kenton
■ミステリアスな音楽に彩られた大人のおとぎ話

『シンデレラ』の物語はあまりに有名でもはや説明の必要はないだろう。夢物語の代表格ともいえるおとぎ話がキラキラのバレエで上演される――と聞くと、ちょっとむずかゆくなるようなイメージを抱きそうだが、バレエ『シンデレラ』の音楽は、ロシアのプロコフィエフが1944年に作曲した、20世紀のクラシック音楽と、ちょっと新し目。曲の持つ妖しくミステリアスな雰囲気が、このおとぎ話の甘さを中和して、大人の世界に一歩足を踏み込んだかのような味わいを醸しているのだ。アシュトン振付による『シンデレラ』は、そうした音楽とともに、踊りは繊細かつ高度な振付で、しかし愛らしくロマンティック。さらに英国演劇の伝統を盛り込むことでコミカルな味わいも加えたメリハリが魅力となっている。初演以来英国ロイヤル・バレエ団の主要レパートリーとなり、さらにはバーミンガム・ロイヤル・バレエ団をはじめ、日本の新国立劇場バレエ団でもレパートリーとするなど、世界中で愛され上演される作品となっているのだ。
©2023 Tristram Kentonzoom
©2023 Tristram Kenton
またこの作品は意地悪な2人の義理の姉を男性がドレスを着て踊ることが大きな特徴のひとつだ。先に触れた「コミカル」な部分を担当するのが彼ら――もとい彼女たちで、初演時のバージョンでは付け鼻に不細工なメイクで、ギョッとするけれど愛らしくもある姉たちだったが、十数年ぶりの今回もその2人の姉たちは健在。さらに男性2人のペアに加えて、新たに女性の姉たちも誕生しているのが現代の風潮といえようか。今回のシネマではバレエ団屈指の名優ギャリー・エイヴィスと、日本出身のアクリ瑠嘉による男性シスターズがドタバタ喜劇を演じている。あまりのドタバタっぷりに、シンデレラ(マリアネラ・ヌニェス)もついおおらかな気持ちで温かく見守ってしまう、そんな姉たちなのだ。
©2023 Tristram Kentonzoom
©2023 Tristram Kenton
■英国のフットパスを散策するかのような自然世界へ

大きく変わった舞台セットは、ミュージカル『千と千尋の神隠し』で舞台美術を担当したトム・パイが手掛けている。時を司る四季の精の衣装にはキンポウゲやタンポポ、バラ、紅葉やクリスマスローズ、雪や氷があしらわれ、舞踏会の舞台となる王宮庭園などにはトネリコや楡を思わせる木々など、英国の公共散策路「フットパス」、あるいはロンドン郊外のコッツウォルズ、バイブリーやストウ、ボートンなどで目にするような、のどかな自然世界が描かれている。
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©2023 Tristram Kenton
そこで踊るダンサー達にも注目したい。シンデレラや義理の姉たちに加え、王子は気品あふれるワディム・ムンタギロフ。義理の姉役のアクリ瑠嘉に加え、仙女に金子扶生、秋の精に崔由姫、道化に中尾太亮など、日本出身ダンサーも数々名を連ね、それぞれに好演している。

英国ならではのエッセンスがたっぷりと詰まった『シンデレラ』、ぜひ楽しんでいただきたい。
©2023 Tristram Kentonzoom
©2023 Tristram Kenton
■英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23
『シンデレラ』


■振付:フレデリック・アシュトン
■音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
■舞台美術:トム・パイ
■衣装デザイン:アレクサンドラ・バーン
■照明デザイン:デヴィッド・フィン
■映像デザイン:フィン・ロス
■特殊効果:クリス・フィッシャー
■振付指導:ウェンディ・エリス・サムズ、ギャリー・エイヴィス
■指揮:クン・ケッセルズ
■演奏:ロイヤル・オペラハウス管弦楽団
■出演:
シンデレラ:マリアネラ・ヌニェス
王子:ワディム・ムンタギロフ
シンデレラの義理の姉たち:アクリ瑠嘉、ギャリー・エイヴィス
シンデレラの父:ベネット・ガートサイド
仙女:金子扶生
春の精:アナ
ローズ・オサリヴァン

の精:メリッサ・ハミルトン
秋の精:崔由姫
冬の精:マヤラ・マグリ
道化:中尾太亮


■2023年6月26日(月)18:30よりトークショー開催
出演:ギャリー・エイヴィス


公式サイト
http://tohotowa.co.jp/roh/movie/?n=cinderella2022
コラムニスト:Tomoko Nishio
旅行業界・旅&芸術文化ライター、動物好き。旅行業界誌記者・編集者を経てフリーの旅行ライターに。南仏中世と「三銃士」オタク。歴史とアートに軸を置きつつ、絵画、バレエ、音楽、物語、映画、漫画のロケ地・聖地巡り、海外旅行や小さなお散歩まで、様々な視点で旅を発信。「旅」は生活のなかにもあり。

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