旅の扉

  • 【連載コラム】こだわり×オタク心
  • 2023年5月3日更新
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コラムニスト:Tomoko Nishio

4年振りの開催!フランス・ナント生まれの人気音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2023」

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(c)teamMiura
世界的なクラシックの音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ(熱狂の日)/LFJ」がコロナ禍の中断を経て、2023年5月、4年振りに復活する。フランスのブルターニュ地方の主都・ナントで生まれたこのイベントは、「クラシックを身近に、気軽に、手軽に楽しむ」をモットーとしたもので、フランスやヨーロッパで人気を博し、2005年に日本に上陸。またたくまに東京のゴールデンウイークのイベントとして定着する。2011年東日本大震の年でも規模を縮小して開催したものの、コロナ禍により2020年から中断することとなったが、このほどついに復活に至ったのである。

2023年5月4日~6日、東京・有楽町の国際フォーラムで「Beethoven ― ベートーヴェン」のテーマのもと、50の有料公演や、同広場、周辺の丸の内、大手町、日本橋などで無料公演が行われる。今回はLFJの魅力と、このイベントを生んだ街ナントについて紹介しよう。
今年のテーマは「Beethoven ― ベートーヴェン」zoom
今年のテーマは「Beethoven ― ベートーヴェン」
■今年のテーマは「ベートーヴェン」。「気軽に手軽に音楽を楽しむ」がコンセプト

このLFJは先にも記したとおり、コンセプトは「クラシック音楽を身近に、気軽に、手軽に楽しむ」こと。「敷居が高い」「ご高尚」と思われがちなクラシック音楽は、実はそうじゃない、もっと気軽に楽しんでいいんだよ、というナント生まれのアーティスティック・ディレクターのルネ・マルタン氏の思いから生まれたものだ。

「気軽に、手軽に」だからこそ、公演は1時間程度とし、チケットの価格も1500~3000円と一般的なクラシックコンサートに比べて安価なレベルとする。公演は東京であれば有楽町の国際フォーラムなど、複数の会場が設定できるホールとし、数百人から4000人まで、さまざまな規模のコンサートを行う。コンサートプログラムは「ベートーヴェン」「モーツァルト」あるいは「旅」など毎年設けられたテーマに基づき組まれるわけだが、先の通り複数のホールで多様な規模の公演が設定できるからこそ、演目は誰もが知っているメジャーなものから、一般的なコンサートではまずめったに聞くことができないレアな演目まで、いわばビギナーからマニアまでの、多様なラインナップが揃うのである。


音楽が彩るGWzoom
音楽が彩るGW
また、安価で手軽とはいえ、演奏家は国内外を含めたプロフェッショナルばかり。「この値段でこの人の演奏が聴けるの?」というアーティストから、マルタン氏の慧眼で選ばれた若手演奏家など、こちらもバラエティに富んでいる。

LFJのファンは聞きたい演目や演奏者が重ならないようタイムテーブルとにらめっこをしながら、スケジュールを組み、チケットを購入する。もちろんふらりと訪れ、チケットのある演目を購入してもいいし、広場に並ぶワゴン車の料理やワインをいただきながら、無料コンサートに耳を傾けてもいい。こうした音楽を軸とした自在な楽しみ方が、マニアックなクラシックファンからクラシックを体験してみたい人たちまで、幅広い層を捉えてきた。さらに柔軟に進化していくのもLFJの魅力の一つで、回を重ねるごとに和太鼓との共演やポップスアレンジしたプログラムも加わり、中断前の2019年は5月3日~5日の3日間で約42万5000人の来場者を集めるに至ったのである。

なお、2023年のテーマ「Beethoven ― ベートーヴェン」は、本来ベートーヴェン生誕250年に当たる2020年に実施されるものだったが、コロナ禍による中止で実施に至らなかったもの。今回のLFJ東京再開のテーマとして、改めて取り上げられたのだが、実はこの「ベートーヴェン」というテーマは2005年、LFJが初めて東京で開催された時のものでもある。LFJの「再開」「再スタート」に、実にふさわしいと言えよう。

0歳の子どもも入れる「0歳からのコンサート」は東京でのLFJで生まれ、ナントに「逆輸入」されたという (c)teamMiurazoom
0歳の子どもも入れる「0歳からのコンサート」は東京でのLFJで生まれ、ナントに「逆輸入」されたという (c)teamMiura
■LFJを生んだナントは「フランス人が暮らしたい街」

ではそのLFJを生んだ街ナントをざっとご紹介しよう。
ナントはフランスの南西部、ロワール川の河口に位置し、最初にこの地に歴史を刻んだのはブルトン人(ケルト人)たちであった。10~16世紀にはブルターニュ公国が築かれ、ナントはその首都として栄えるも、16世紀にフランスに併合。大航海時代の主要な港町の一つとなり、貿易港としての役目を担い、近代に入ってからは造船業をはじめとする工業都市となる。現代は芸術や文化の育成に力を入れており、とくにモダンアートを軸としたまちづくりはナントだけでなく、ロワール川沿いの近郊地域にも広まっている。コンパクトな町の規模に治安の良さなども加わり、「フランス人が住みたい街」ナンバーワンに選ばれたこともある。
マシン・ド・リルの象 ⒸJean-Dominique Billaudzoom
マシン・ド・リルの象 ⒸJean-Dominique Billaud
ナントの観光スポットとして最もキャッチ―で有名なのが「マシン・ド・リル」の巨大な象だろう。この「マシン・ド・リル」はロワール川の中州にある島につくられた機械仕掛けの象やナマケモノ、鳥など空想世界の動物が闊歩するアミューズメントパーク。しかも木彫風をベースとした色彩は温もりがあり、実にセンスが良くアーティスティックなのだ。機械仕掛けの象が鼻から水を吹きながら広場を闊歩する姿は圧巻で、一見の価値ありだ。

またこの街は『海底二万里』『八十日間世界一周』などの冒険小説で知られる作家、ジュール・ヴェルヌの出身地であることから、海底の冒険をテーマにしたカルーセルもある。意匠がとてもユニークでファンタジックなので、こちらもぜひ見ていただきたい。
19世紀のパサージュ Ⓒ Philippe Pironzoom
19世紀のパサージュ Ⓒ Philippe Piron
ナントの街中には、先にも少しふれたが、あちこちにモダンアートのオブジェが見られる。こうしたオブジェを巡る散策ルートも整備されているので、のんびり辿ってみるのもいいだろう。また、アールヌーボー様式が見事な有名なレストラン「シーガル」やガラスのパサージュなど、19世紀末の経済発展を偲ばせるスポットも見られる。「暮らしやすい街」だからこそ、住んだつもりでのんびりするのが、最もナントらしい過ごし方。パン屋さんでバゲットやクロワッサンを買ったり散策を楽しんだりしながらロワール川のほとりで一休みをすれば、大西洋からの風が感じられるかもしれない。

なお、ナントでの本場LFJが開催されるのは大体1月末~2月頃。2024年は1月31日~2月4日に予定されており、しかもこの年はLFJ誕生30周年にあたることから、非常に盛大な催しになることが予想される。会場となるナントのコンベンションセンター(Cité des congrès de Nantes)はナント駅からは徒歩圏内。市街地からはトラムでアクセスできるので便利だ。ぜひ機械仕掛けの象の運行スケジュール(笑)も確認のうえ、本場のLFJを訪れてみてはいかがだろう。

LE VOYAGE A NANTES
https://www.levoyageanantes.fr/
コラムニスト:Tomoko Nishio
旅行業界・旅&芸術文化ライター、動物好き。旅行業界誌記者・編集者を経てフリーの旅行ライターに。南仏中世と「三銃士」オタク。歴史とアートに軸を置きつつ、絵画、バレエ、音楽、物語、映画、漫画のロケ地・聖地巡り、海外旅行や小さなお散歩まで、様々な視点で旅を発信。「旅」は生活のなかにもあり。

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