旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2023年2月25日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

雲仙地獄のエネルギーと、異国情緒あふれる温泉宿「界 雲仙」

源泉かけ流しの「あつ湯」と、リラックスできる「ぬる湯」のふたつの浴槽がある大浴場の内湯。外に岩風呂風の露天風呂もあります。zoom
源泉かけ流しの「あつ湯」と、リラックスできる「ぬる湯」のふたつの浴槽がある大浴場の内湯。外に岩風呂風の露天風呂もあります。
長崎県・雲仙天草国立公園内にある雲仙温泉。雲仙地獄の噴気と湯気、温泉らしい硫黄の匂いが漂うこの地に2022年11月22日、誕生したのが星野リゾートの温泉旅館「界 雲仙」です。オープンから3カ月が過ぎたばかりのお宿で、1泊2日の“地獄パワー”と異国情緒にふれる旅を楽しんできました。
前回のコラムでご紹介した映画『湯道』の宿泊体験に続き、施設の魅力をご紹介します。

圧巻の地獄ビューとステンドグラス輝く大浴場
長崎といえば、日本が鎖国をしていた江戸時代に唯一、西欧に開かれていた出島があった地。標高約700mの高原にある雲仙温泉は、出島に置かれていたオランダ商館医のシーボルトらを通じて海外諸国に紹介されていました。明治以後は「西の雲仙、東の軽井沢」として、外国人や身分の高い日本人の避暑地として賑わった歴史があります。
「和」「華」「蘭」のテイストがミックスし、長崎らしい異国情緒を感じるロビー。窓の外には雲仙地獄が迫ります。zoom
「和」「華」「蘭」のテイストがミックスし、長崎らしい異国情緒を感じるロビー。窓の外には雲仙地獄が迫ります。
軽井沢が海外に広く知られるようになったのが明治以降のことですから、雲仙は日本の高原リゾートの発祥といえるかもしれません。古くから海外諸国と歴史的なつながりがある土地らしく、館内には「和(日本)」「華(中国)」「蘭(オランダやポルトガル)」のテイストが混ざり合った設えが随所にあり、目を楽しませてくれます。
ロビーに入るとまず前に飛び込んでくるのは、一面のガラスの向こうで地面から立ちのぼる噴気。ステンドグラスをイメージした3本の照明はそれぞれ模様が異なっていて、直線的な格子柄が「和」を、幾何学模様は「華」を、ポルトガルタイルを思わるダマスク風の模様は「蘭」を表しているのだそうです。

大浴場の内風呂や客室のパーテーションに取り入れられた色鮮やかなステンドグラスも、これまでの温泉旅館にはない華やかさ。壁の一面をそのステンドグラスが覆う大浴場は、朝日が差し込む時間帯の入浴をぜひ楽しみたいもの。色とりどりの光が湯面や浴室全体に映り込み、うっとりと見惚れてしまいます。雲仙のお湯は硫黄分と鉄を含む酸性の単純温泉。ぬるめのお湯でもよく温まりますが、長湯をすると疲れてしまうので注意して。野趣あふれる露天の岩風呂でほてりを冷ましたり、入浴後にはシャワーで温泉成分をさっと洗い流すのが、肌の潤いを保つ秘訣とか。湯上りはいつまでも体がポカポカとして、心地よい温かさが続きます。
ロビーに隣接するトラベルライブラリーでは、南蛮文化の香り漂う伝統工芸品やお土産を探しながらくつろいで。zoom
ロビーに隣接するトラベルライブラリーでは、南蛮文化の香り漂う伝統工芸品やお土産を探しながらくつろいで。
全室、地獄ビューの客室。「客室付き露天風呂」でまったりと温泉三昧
日本全国に現在22施設ある「界」の客室は、地域の伝統文化を取り入れたご当地部屋が特徴。ここでは「和華蘭の間」と名づけられ、51室ある客室すべてが“地獄ビュー”。部屋に居ながらにして地獄パワーを感じられるつくりになっています。なかでもおすすめしたいのが、16室ある「客室付き露天風呂」です。
上/「和華蘭の間」のパーテーションやスタンドライトは、オランダから伝わったステンドグラスをモチーフにしたもの。下/ベッドが4台置かれた1室だけの特別室は、家族連れやグループでもゆったり過ごせます。zoom
上/「和華蘭の間」のパーテーションやスタンドライトは、オランダから伝わったステンドグラスをモチーフにしたもの。下/ベッドが4台置かれた1室だけの特別室は、家族連れやグループでもゆったり過ごせます。
あえて「客室付き露天風呂」としているのは、滞在スペースの半分以上が露天風呂スペースだから。ベッドルームと露天風呂の境界に設けられた「湯上がり処」がリビング代わりになっていて、入浴と休憩を好きなだけ繰り返しながら過ごせます。雲仙地獄を眺められる湯上がりチェアが居心地よく、肌ざわりのいいガウンにくるまって日がな一日、ここでずっと過ごすのもいいかもしれません。
スペースの半分以上が露天風呂スペースの「客室付き露天風呂」。湯上がりチェアの心地よさとともに、ガウンの着心地も申し分なし!zoom
スペースの半分以上が露天風呂スペースの「客室付き露天風呂」。湯上がりチェアの心地よさとともに、ガウンの着心地も申し分なし!
半個室の食事処で長崎の食文化を感じる会席料理を
食事処はすべて半個室で、プライベート感を保てるのもうれしいところ。日本料理と西洋料理を取り入れ、長崎発祥の宴会料理・卓袱料理をイメージした会席料理は食材、調理法、器に至るまでバラエティ豊か。豚角煮のリエットを、温泉水を使用して焼いた「湯せんぺい」に付けて食べる前菜に始まり、酢の物・八寸・お造りを盛り合わせた華やかな「宝楽盛り」と続きます。メインの台の物は、長崎をはじめ九州で親しまれてている、あご(トビウオ)の出汁に和牛や伊勢エビ、フグなど、旬の魚介をくぐらせて味わう「あご出汁しゃぶしゃぶ」。酸味が爽やかなだいだい酢、コクのあるゴマダレの2種類のタレに、アクセントとして柚子の香りが特徴的な「ゆべし」を途中から加えていただくと、ひと味違う楽しみ方ができます。〆は、ツルンとした喉ごしとコシの強さが持ち味の島原名産「紅椿麺」。お腹いっぱいでも、あご出汁の最後の1滴まで飲み干したくなるおいしさです。
夕食を堪能したところで部屋に戻り、露天風呂に浸かって湯上がりベッドにゴロリ。夕闇の中にうっすら見える雲仙地獄の噴気と、ほのかに漂ってくる硫黄の香りを感じながら過ごす時間は贅沢そのもの。これぞ、客室付き露天風呂ならではの楽しみ方といえるでしょう。
波佐見焼きをパーテーションに取り入れた半個室の食事処。「特別会席」は、卓袱料理の円卓をイメージした「宝楽盛り」(右上)、あご出汁で味わうしゃぶしゃぶ(下)など、長崎の豊かな食材と食文化を堪能できる内容。※入荷状況で食材が変わります。zoom
波佐見焼きをパーテーションに取り入れた半個室の食事処。「特別会席」は、卓袱料理の円卓をイメージした「宝楽盛り」(右上)、あご出汁で味わうしゃぶしゃぶ(下)など、長崎の豊かな食材と食文化を堪能できる内容。※入荷状況で食材が変わります。
雲仙では、約100年前から源泉とともに雲仙地獄の地熱を利用した給湯設備が人々の暮らしに活かされてきたのだそうです。ここ「界 雲仙」でも給湯や温泉の加熱、館内の空調に取り入れられています。自然からもたらされた大地のパワーを感じながらひと晩過ごすと、そのエネルギーを全身にチャージできそうです。
※次回のコラム、「界 雲仙」ならではのアクティビティ「ご当地楽(ごとうちがく)」に続きます。

◆界 雲仙
長崎県雲仙市小浜町雲仙321
TEL 050-3134-8092(界予約センター)
1泊25,000円~(2名1室利用時の1名料金、税・サービス料込み、夕朝食付き)全51室
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaiunzen/
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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