(「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【29】」からの続き)
カナダにある北海道より大きな島、ニューファンドランド島での1週間の滞在を終え、主要都市のセントジョンズ国際空港から乗り込んだエア・カナダグループの旅客機はモントリオール国際空港の滑走路に定刻に降り立った後、誘導路を旅客ターミナルとは異なる方向へ誘導路を進んで駐機場で羽ならぬ“翼”を休めてしまった。アメリカ(米国)の首都ワシントンに向かう最終便の搭乗締め切り時刻は45分後で、広いターミナルの移動に加えて米国の入国審査も待ち受けているため綱渡りの展開となった―。
▽「しばらく駐機」とアナウンス
セントジョンズを定刻の午後5時45分に出発したエア・カナダグループが運航するエンブラエル(ブラジル)のジェット旅客機「E175」は現地時間午後7時ごろ、モントリオールの滑走路に滑り込んだ。これならば午後8時発のワシントン行きの搭乗ゲートに締め切りの午後7時45分までに到着できるとの算段だった。
ところが搭乗機はなぜか旅客ターミナルから離れていき、駐機場で止まった。「ターミナルが混雑しているため、しばらくここで駐機します」という機長のアナウンスに目が点になった。
▽降機は午後7時半?
周囲の乗客からも「また遅れか」といらだつ声や、ため息が聞こえる。出勤を翌日に控え、ワシントンへの最終便に乗らなければならない私も全く同じ心境だ。既にモントリオールに到着しているため往路のように2時間半も遅延が起こることは想定しがたいが、ターミナルの到着ゲートが空くまでの所要時間は見通せない。
気をもんでいると、再び機長のアナウンスが聞こえてきて「あと10分ほどでゲートへ向かうことができそうだ」と知らされた。ただ、10分後に駐機場を出てターミナルへ向かうとなると、到着ゲートに乗り付けるのは早くても午後7時25分ごろだろう。出口に優先して案内されるのはビジネスクラスの利用客になるため、エコノミークラスの私が機体から降りるのは午後7時半ごろになると予想した。
▽“障害物競走”の制限時間は15分
目算は当たり、私が到着ゲートに降り立ったのは午後7時半ごろだった。乗り継ぐワシントン行きの79番搭乗ゲートまで制限時間15分の“障害物競走”に挑むことにし、他の利用客らに気をつけながらも星条旗のイラストの横にフランス語と英語で「米国便乗り継ぎ」と記した看板の矢印に向けて早足で進んだ。
待ち受けていたカナダの出国審査はあっさりと通り抜けたが、次は米国の入国審査が待っている。有効なパスポートがあり、問題のある手荷物もないため堂々と通り抜ければ良いのだが、米国のセキュリティーチェックは厳しい。ハイジャックされた旅客機がニューヨークの世界貿易センタービルに突っ込むなどの大惨事となった2001年の同時多発テロの発生後に「再発防止を徹底するため格段に厳しくなった」(航空会社関係者)とされる。
私は機内で準備し、身に着けていた腕時計などの金属類を手荷物に押し込んでいたつもりだった。しかしながら、金属探知機を通った時に「ポーン」という音が勢いよく鳴った。
▽閉まった搭乗ゲートの扉
上着をまさぐったところ、ポケットに入れていたボールペンが金属探知機に反応したことが分かった。ボールペンを手荷物と一緒にエックス線検査に通してもらい、もう一度金属探知機をくぐったところ事なきを得た。
だが、想定外のロスタイムが発生してしまった。このためワシントン行きのエア・カナダグループの航空便の79番搭乗ゲートに着いたのは午後7時43分になっていた。
なんとか滑り込みセーフの展開になりそうだと思いきや、搭乗ゲートの扉が閉まっているではないか。
しまった、早々と出発してしまったか、あるいは間違えたゲートに来てしまったかと恐る恐る出発案内画面を眺めた。航空便の行き先は「ワシントン Ntl(ナショナル空港)」と合っており、便名も予約したエア・カナダの「AC8825」で間違いない。
不思議になって隣に表示された出発時刻を確認すると、「20時25分」になっている。出発時刻が40分遅れたのだ。
▽冬のカナダ行きで出ばなをくじかれる…
制限時間が一気に40分間も延びたモラトリアムを活用し、私は免税店のワイン売り場へ急いだ。ブドウが樹上で凍結した状態の時に収穫し、凍ったまま圧搾して造る甘口ワイン「アイスワイン」を買い求めるためだ。「アイスワインに興味を示すのは中国人や日本人が多い」(ワイン業界関係者)というだけあり、中国系カナダ人の女性販売員がワイン売り場に飛んできて商品を説明してくれた。
アイスワインを3本とメープルシロップ、そしてカナダ国旗などをデザインしたキーホルダーを総額約1万5千円で購入。悠々と搭乗ゲートへ戻ると、機内への誘導が始まろうとしているところだった。
乗り込んだ後もなかなか出発せず、ワシントン到着後もゲート到着まで待たされた。機長が「ゲートが空きましたのでこれから向かいます」と放送すると、拍手する乗客がいたのに笑ってしまった。到着は午後11時20分過ぎとなり、定刻より約1時間40分遅れた。
預け入れ荷物を受け取ったのは午後11時45分ごろとなり、ワシントン首都圏交通局地下鉄のワシントン中心部へ向かう最終電車には乗り遅れてしまった。
ただ、私はもはや悲壮感のかけらもなかった。というのもニューファンドランド島で学ぶことが多く、素晴らしい方々と出会い、とても有意義な滞在となったからだ。
帰路も無事に乗り継ぎ、航空便への預け入れ荷物もきちんと出てきた。元気にワシントンへ戻ることができ、翌日から予定通り出勤できる。「上々の出来ではないか」と圧倒的な満足感に浸っていた。
本シリーズが30回に及ぶほど話題盛りだくさんな旅行となったのだから、航空便の遅れなど痛くもかゆくもない。思い出と余韻に浸りながら、空港からの帰宅のために配車アプリ「リフト」で車を手配した。
そして私は2022年冬も極寒のカナダへ向かうことにしたが、出ばなをくじく事態が待ち受けていた。それはまた別のお話…。
(シリーズ「北海道より大きいカナダの島」【完】)
※シリーズ「北海道より大きいカナダの島」最終回の第30回までご高覧いただきましてありがとうございました。また、2022年も本コラム「“鉄分”サプリの旅」をお読みいただきまして厚く御礼申し上げます。皆様におかれましてはどうぞ良いお年をお迎えください!
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)