旅の扉

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  • 2013年8月3日更新
リスヴェル編集部トピックス
Editor:リスヴェル編集部

写真家の杉本淳氏レポート「自然と一体になる Yukon River Quest 2013」

今年は凪いだラバージ湖。見渡す限りでかいユーコンの自然zoom
今年は凪いだラバージ湖。見渡す限りでかいユーコンの自然
715キロを人力だけでたった3日で移動するユーコンリバークエスト。毎年開催される世界最長距離の河を漕ぐカヌーレース。
カナダ、ユーコン準州都ホワイトホースの夏。世界中からアウトドアファンが集まる。ここでは河を下る事をリバートリップ=河旅と呼ぶ。なかでもユーコン河のホワイトホース〜ドーソンシティ間は最もポピュラーなルート。この河を下る多くの人々は約2週間を掛けてキャンプをしながらゆっくりと下る。自然の中にゆっくりと流れる時間を旅するのはとても心地がよい。そんな時間のなかでの野生動物との出会い、自然と一体になれる感覚を人々は楽しむ。自然も動物も人も全てがひとつに繋がっていると感じる人も少なくないだろう。
同じコースをほぼ不眠不休で誰にも会わず移動するレーサー達は何を感じるのだろう?と疑問に思いこのレースを追った。
スタート直後レーサー達は自分の艇を目指して走り、乗り込むzoom
スタート直後レーサー達は自分の艇を目指して走り、乗り込む
6月26日正午、レースがスタートした。夏至の直後で太陽が沈んでも夜は日の出まで明るい。
河の流れはおよそ時速10キロ。日本の洪水と同じくらいの早さ.
しかしここは川幅が場所によっては何百メートルもある北米の大河。快晴のもと穏やかな河面を多くの観客が見守るなか、世界中から集まった全67チームがスタート。各艇に乗り込み漕ぎ出した。
午前2時過ぎ。難関ファイブフィンガーラピッズを漕ぎ抜けるzoom
午前2時過ぎ。難関ファイブフィンガーラピッズを漕ぎ抜ける
このレースには2ヶ所の難所がある。ひとつめはスタート直後のラバージ湖(全長約60キロ)。河と違い流れがとても弱い。漕がないと前に進めないだけでなく、ひとたび風が吹くと風と波が行く手を阻む。酷い時は転覆を避けて上陸し、波風が止むのを待たないと命の危険に繋がる事も。しかし幸運にも今年は風も波もなく各チームが「ラバージ越え」を無事に終えた。
ふたつめはファイブフィンガーラピッズ。カーマックスチェックポイント(以下CP)直後の大きな瀬だ。湖で起る波とは違う流れの早い大波の中を下る。ここでは天候に関係なく転覆の危険が伴う。ゴールドラッシュ時代にホワイトホース〜ドーソンシティ間を往復する動力を持つ蒸気船ですら往来が難儀したという。
カーマックスCPで仮眠を取る日本チームSUNRISEのレーサー達zoom
カーマックスCPで仮眠を取る日本チームSUNRISEのレーサー達
途中各CPや難所を通過し辿り着くカーマックスCPとカークマンクリークCPではそれぞれ7時間と3時間の休憩が義務づけられている。
丸一日以上同じ姿勢で漕ぎ続けるため、エコノミー症候群で上陸時に人の助けが必要になるレーサーも少なくない。そんなレースでサポートメンバーの存在は必要不可欠。
各チームのサポートメンバーは先回りをして数少ない河の見渡せるポイントに向かい声援を送る。人気の無いところで受ける声援にレーサーは元気づけられると言う。
カーマックスは唯一陸からアクセスできるCP。サポートメンバーはここで食事や仮眠用テントを用意する。日本チームの食事はカレーライスだった。さぞ力が湧いたに違いない。次に彼らに会えるのはゴール地点だ。
ボイジャーチームは仲間達とひたすらゴールを目指すzoom
ボイジャーチームは仲間達とひたすらゴールを目指す
不思議な事に多くのレーサーがカークマンクリークCP手前で幻覚を見ると言う。見る物は人によってそれぞれだが、森の木々が家族や恋人といった人間関係に見えたり、森の木々が色んな動物に見えて地球に住む生き物全てが繋がっているんだなぁという感覚を覚えたという話を聞いた。
ボイジャー(最大10人乗りの大型カヌー)部門で出場した日本人チームSUNRISEのメンバーは「昔憧れた風景に似た景色を見つけるとその景色をずっと眺めていたかった」「一緒に漕ぐ仲間と普段はなかなか出来ない深い話しが出来てよい時間だった」と語ってくれた。
また「憧れのレーサー(写真:ジョー・エバンス氏)や名前も知らないレースボランティアの人々との再会もこのレースの良さのひとつ」と今年四度目の出場を果たしたシングルカヌー部門の今井宏宗氏はそう話してくれた。
写真上:ゴールの喜びを人文字で! 写真下:完漕後の今井氏とエバンス氏zoom
写真上:ゴールの喜びを人文字で! 写真下:完漕後の今井氏とエバンス氏
6月29日午後6時過ぎ。最後のレーサーが無事ゴールした。
世界最長距離を漕ぐ鉄人レースは一般的な河旅とは対局的な3日という凝縮された時間のなかで2週間の河旅と同じユーコンの景色の中を通り抜けるだけでなく、得られる感覚までが同じだった。そして出会い、再会、仲間との時間。実際にそれはレースだが、そこには「旅」で得られる時間が間違いなくあった。
体力に自信のある人も、のんびりと時間を過ごしたい人も、仲間と最高の時間を分かち合いたい人もユーコン河に訪れてみてはいかがだろうか?レース完漕後のビール。のんびりカヌーを漕いだ後にたき火を囲んで飲むビール。どちらの味も格別だ!

杉本淳(すぎもとあつし)プロフィール
写真家。極北に棲む野生動物やその土地の人々の生活をテーマに撮影活動を行う。2011年全国巡回写真展「YUKON –larger than life-」、地元新聞、雑誌、インターネットなどで作品を発表。現在ユーコン準州在住。
ホームページ:www.apl-as.com
フェイスブックページ:Arctic Photo Laboratory

《協賛クレジット》
資料提供: ユーコンリバークエスト大会事務局
ロゴ提供: ユーコン準州政府観光局
取材協力: クロンダイクカヌーイングレンタルス
Editor:リスヴェル編集部
リスヴェル編集部では、各国観光局や旅行関連企業のニュースリリースやプレスルームからの情報を中心に、旅先で見つけたちょっとした面白いモノ、意外と知らないホテルの中の興味深い事、ビジネスで特定の国に行く人の話など、ちょっと変わった切り口で情報を提供して参ります。
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