旅の扉

  • 【連載コラム】こだわり×オタク心
  • 2022年11月10日更新
arT'vel -annex-
コラムニスト:Tomoko Nishio 旅行業界・旅&芸術文化ライター、動物好き

モンテカルロ・バレエ団 「じゃじゃ馬ならし」で感じる"モナコ"の風

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2022年11月11日から上野の東京文化会館で、いよいよモナコ・モンテカルロバレエ団の公演が始まる。フランスのパリ・オペラ座、英国のロイヤル・バレエ団と同様、モンテカルロバレエ団はモナコを代表する芸術の殿堂の一つ。その国の芸術文化を象徴するバレエ団で、日本人ダンサーの小池ミモザがプリンシパルを務めていることも話題の一つである。


演目はバレエ団の芸術監督、ジャン=クリストフ・マイヨー振付「じゃじゃ馬ならし」。ボリショイバレエ団の依頼でつくられ、2014年に同バレエ団で初演され好評を博したものだ。今回はマイヨーの本拠地であり、彼の意図を深く理解している、いわばホームのダンサー達による上演となる。またこの「じゃじゃ馬ならし」、原作はシェイクスピアが1594年に書いたとされる戯曲。ジェンダーの問題がよりデリケートになったこの現代にあっては、上演するにはなかなかの難しさもあるこの作品を、マイヨーは舞台を現代に置き換え、洒脱な大人の恋愛コメディに読み替えた点も注目だ。
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■物語は「似た者同士が反発し合う」現代の恋愛模様に


まずはざっとシェイクスピア「じゃじゃ馬馴らし」の原作を紹介しておこう。


主人公は気性の荒いはねっかえり、資産家の娘キャタリーナ。妹のビアンカは「結婚には理想的」と言われる女性で求婚者は後を絶たないが、父親は世間体からか「まずは姉を片づけてから」と考える。ビアンカと結婚したい3人の求婚者は、ペトルーチオを「キャタリーナと結婚すれば持参金が手に入る」等々とそそのかし、ペトルーチオはならばとじゃじゃ馬キャタリーナと結婚。怒り炸裂のキャタリーナを食べさせない、眠らせないなど、今なら完全DV的手段で「調教」し、従順な妻とする……という物語だ。


400年以上も前の価値観で書かれたとはいえ実にひどい話だなと、改めて文字に起こして思うのだが、しかしこれを洒落たバレヱにしてしまうのがマイヨーの腕の見せどころと言おうか。
マイヨーによると、気が強くともすれば凶暴なキャタリーナと、豪快でパワフルなペトルーチオは「似た者同士。だから出会った瞬間から恋に落ちている」という。
いわば似た者同士であるからこそ、互いに素直になれない2人が小競り合いを繰り返しながら、いかに似合いの夫婦として一つのさやに納まるか、という物語。これなら納得がいくというものだ。
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■「誰にでも愛し、愛され、幸せになる権利がある」


しかもマイヨーはキャタリーナとペトルーチオという主人公カップルだけでなく、妹ビアンカと3人の求婚者にも思いやりのまなざしを向ける。


ビアンカには、グレミオ、ルーセンシオ、そしてホーテンシオという3人の求婚者がおり、彼女が選ぶのは最も紳士的(かつ自分が手綱を取りやすそう)なルーセンシオ。グレミオ、ホーテンシオは残念ながらビアンカには振られるのだが、マイヨーは彼等にもとっておきの顛末を用意しているのだ。そのココロは「誰にでも愛し、愛され、幸せに生きる権利がある」ということ。物語のラストを飾るショスタコーヴィチ編曲の「二人でお茶を」が、そのハートフルな顛末を彩るのである。
シンプルな舞台に洒落た衣装にも注目。「こんなバレエもあるんだ」という、そんな印象を抱く方も、きっといるに違いない。
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■洗練された大人の芸術を生む「モナコ」という国


こうした小粋なバレエを生み出すのは、もちろん芸術監督マイヨーの才によるところもあるのだが、そうしたバレエ団を育み受け入れ楽しむことができるという、モナコならではの洗練された文化土壌や気風も忘れてはならない。


モナコは20世紀初頭、バレエ界に革命をもたらしたディアギレフ率いる「バレエ・リュス」がパリとともに1911年に本拠地の一つとした地である。「バレエ・リュス」は「ロシア・バレエ団」とも言い、1909年にパリ公演で一世を風靡し、ディアギレフ死去後の1929年に解散するまでの間、パリやモナコで活動した。今なお「伝説」「カリスマ」と言われるニジンスキーはバレエ・リュスの看板ダンサー。ドビュッシー、ラヴェル、サティ、ストラヴィンスキーといった革新的な音楽家を起用し、マティス、ルオー、ピカソなどの画家を舞台美術に取り込むなど、総合芸術としてのバレエを築き上げた一団でもある。モナコはそうしたバレエ団を受け入れる土壌がある地だった。
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バレエ・リュス自体は復活の機運もあったが、第二次大戦後に姿を消す。しかしモナコに再び舞台芸術の灯をともそうと、1985年に設立されたのがこのたび来日するモンテカルロ・バレエ団だ。かつての「バレエ・リュス」とは無関係ではあるが、バレエに理解を示したグレース公妃の遺志を継いだカロリーヌ公女により設立されたのだ。

ちなみにグレース公妃が設立した「モナコ王立グレースバレエ学校」は世界有数のダンサーを輩出する非常に有名なバレエ学校のひとつで、上野水香(東京バレエ団プリンシパル)、渡邊峻郁(新国立劇場バレエ団プリンシパル)、永久メイ(マリインスキーバレエ団ファーストソリスト)など、日本人の出身者も多い。



国土面積わずか2平方キロ。しかしながら国の起源は12世紀にさかのぼるという、長い歴史を持ったモナコは世界のセレブリティが集まる国際都市。舞台からはぜひ、そんなモナコの息吹も感じていただきたい。
■公演情報
モナコ公国 モンテカルロ・バレエ団 2022年日本公演
「じゃじゃ馬馴らし」


2022年
11月11日(金)19:00
11月12日(土)13:00
11月12日(土)17:00
11月13日(日)13:00
会場:東京文化会館(上野)


「じゃじゃ馬ならし」
https://www.nbs.or.jp/stages/2022/montecarlo/index.html


モナコ観光会議局
https://www.visitmonaco.com/ja
コラムニスト:Tomoko Nishio 旅行業界・旅&芸術文化ライター、動物好き
旅行業界誌記者・編集者を経てフリーの旅行ライターに。南仏中世と「三銃士」オタク。歴史とアートに軸を置きつつ、絵画、バレエ、音楽、物語、映画、漫画のロケ地・聖地巡り、海外旅行や小さなお散歩まで、様々な視点で旅を発信。「旅」は生活のなかにもあり。

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