旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2022年9月14日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

ティーカクテルと創作料理、華麗なパフォーマンスにも酔いしれる隠れ家バー   ~お茶を識る、駿河の旅⑤~

バーテンダーとして20年以上のキャリアを持つ店主の井谷さん。zoom
バーテンダーとして20年以上のキャリアを持つ店主の井谷さん。
「お茶を識る、駿河の旅」も今回で最終回を迎えます。第5回は、ディナータイムに訪れたいスポットのご紹介。住宅街の一角にある「NO’AGE concentré(ノーエイジ コンセントレ)」は独創的なティーカクテルと、手の込んだ創作料理のペアリングを味わえる店。目の前で繰り広げられるマスターの華麗なパフォーマンスにも、うっとり見惚れること間違いなしですよ。

静岡のお洒落エリアにある6席だけの隠れ家バー
「NO’AGE concentré」があるのは、静岡駅から徒歩で10分ほど離れた鷹匠エリア。この辺りにはレストランやカフェの名店が集まることから、地元の人から“静岡の代官山”と呼ばれているのだとか。
店内はカウンター6席だけ。リキュールやウイスキーのボトルが並ぶさまは、オーセンティックバーそのものですが……。その中で異彩を放つのが、茶釜とずらりと並んだ茶器、さらにカウンター内には鉄板焼きのスペースも!

店主の井谷匡伯(いたに まさみち)さんは、袋井市や静岡市内で20年以上にわたりオーセンティックバーを経営し、バーテンダーとしてカウンターに立ち続けてきました。そして2021年10月、新たに立ち上げたのがこの店。
井谷さんによると、お酒とお茶は古来よりどちらも薬として用いられてきたもの。バーテンダー(=調酒師)のルーツも、薬剤師にあるのだとか。これまでの経験と出会いをぎゅっと凝縮して調合し、従来のバーという枠組みにとらわれず、料理とお酒、お茶の組合せを楽しめる店を目指したといいます。

静岡の食材をふんだんに使ったコースメニューとカクテルのペアリングを楽しむ
この夜、いただいたのは、静岡産の食材を中心にした料理に合わせてペアリング・カクテルを楽しめる「カクテル・ペアリング・ディナーコース」(16,500円)。お酒とお茶と、井谷さん自ら腕を振るう料理をぜ~んぶ楽しめるセットメニューです。
夏が旬の食材を取り入れた前菜3種と、ビールカクテルの組合せからスタート。zoom
夏が旬の食材を取り入れた前菜3種と、ビールカクテルの組合せからスタート。
前菜に合わせて登場したのは、ビールのカクテル。お茶を浸して真空抽出した自家製の緑茶ジンをビールで割り、レモンジュースを加えたモヒート風のカクテルです。お料理は、トウモロコシのムース、稚鮎と枝豆のパテ、赤舌平目のマリネの3種類。訪れたのは7月の猛暑の日。冷たいムースが昼間の疲れを癒してくれ、鮎のワタの苦みがアクセントのパテが、カクテルにぴったり。玉露の茶葉をあしらったマリネも、涼しさを演出しています。
本格的なレストラン顔負けの料理とともに、バーテンダーとしての本領発揮。鱧のコンソメジュレ寄せと、マスの中は桃のカクテル。zoom
本格的なレストラン顔負けの料理とともに、バーテンダーとしての本領発揮。鱧のコンソメジュレ寄せと、マスの中は桃のカクテル。
続いて、夏が旬の鱧のコンソメジュレ寄せが登場。
「カクテルはお客様のお好みをお聞きしてからおつくりしますが、桃を使ったものはいかがですか?」と井谷さん。その日の気分や好みに合わせ、カスタマイズしてもらえるのも、この店の魅力です。
升に注がれたカクテルは、桃の果汁に濁り酒を加えたもの。飲み口にあしらわれているのは、西京味噌と穂紫蘇。これが、カクテルの甘さとよく合うのです。
「西京味噌をちびちびとなめながら、いくらでも飲めるね」。のん兵衛ぞろいのこの夜のメンバー、そんな会話を交わしているうちに、カウンター内では次のお料理の準備が進んでいきます。

シェイカーをコテに持ち替え、華麗なパフォーマンスに目はくぎ付け!
そしてここから、鉄板焼きが登場。
「以前からカクテルとともに鉄板焼きの料理を振る舞うのが夢だったんですよ」と、いたずらっぽく笑う井谷さん。この店をオープンするにあたり、バーカウンターでフレンチを提供するスタイルをイメージし、茶釜とともに鉄板スペースにもこだわったそう。
シェイカーをコテに持ち替えて繰り出される料理は、甘鯛の鱗焼き。ペアリングは緑茶とぬる燗の純米酒を合わせたカクテルです。
「東西南北に広い静岡はそれぞれの土地でテロワールが異なり、その土地の味わいがお茶にもしっかり出ています。食材にも力があって、組み合わせを考えるのが楽しいですね」(井谷さん)
甘鯛の鱗焼きには、すっきりとした味わいの緑茶と純米酒のカクテルを合わせて。zoom
甘鯛の鱗焼きには、すっきりとした味わいの緑茶と純米酒のカクテルを合わせて。
鉄板上の華麗なコテさばきは、まだまだ続きます。肉料理は、土佐の赤牛ランプ肉を自家熟成させたもの。番茶とアズキ茶にダークラムとトリュフスピリッツを合わせたペアリングカクテルは、赤ワインのようにふくよかで、余韻がいつまでも続きます。
〆のご飯は、鮎のおこげの冷や汁風お茶漬け。鮎とご飯も、鉄板上で焼き上げます。料理とカクテル、それぞれ緩急の組合せが絶妙で、するするとお腹に収まっていきます。
ここは鉄板焼きレストラン!? 華麗なコテさばきから繰り出される料理の数々。zoom
ここは鉄板焼きレストラン!? 華麗なコテさばきから繰り出される料理の数々。
デザートのスイーツももちろん自家製。3~4種類のバリエーションから選べます。ペアリングにはデザートカクテルをリクエストしてもいいし、お抹茶で〆るのもいいですね。
「この店主には、いったいどれだけの引き出しがあるのかしら……」。そんなことを考えながら、料理とペアリングカクテルを堪能し、井谷さんのパフォーマンスに見惚れながらおしゃべりをしているうちに、気が付いたらすっかり夜が更けていました。
デザートもすべて自家製。土曜と日曜の午後はスイーツとカクテルを楽しめるので、アフタヌーンティー気分で訪れるのもいい。zoom
デザートもすべて自家製。土曜と日曜の午後はスイーツとカクテルを楽しめるので、アフタヌーンティー気分で訪れるのもいい。
お茶がもつ、新たな可能性に引き込まれる店
「お茶には“葉力”みたいなものがあり、そこに新たな可能性を感じています。日本中のお茶が集まる静岡だからこそ、できるカクテルがあると思うのです」と話す井谷さんは、自ら茶畑に足を運び、農家さんの話を聞き、厳選した茶葉だけを使っています。カクテルのバリエーションの豊富さは言わずもがな。本格的なフレンチレストラン顔負けの料理とのペアリングを楽しめる「NO’AGE concentré」。お店のドアを開けると、今まで知らなかったお茶の新しい世界が広がり、ますます引き込まれてしまいますよ。

●「NO’AGE concentré(ノーエイジ コンセントレ)」
静岡市葵区鷹匠2-5-12
TEL 054-253-6615
月曜・第3日曜休
https://www.barnoage.com/

撮影/伊東武志 協力/するが企画観光局
駿河の旅の情報「VISIT SURUGA」 https://www.visit-suruga.com/
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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