トラベルコラム

  • 【連載コラム】イッツ・ア・スモール・ワールド/行ってみたいなヨソの国
  • 2022年5月29日更新
夢想の旅人=マックロマンスが想い募らず、知らない国、まだ見ぬ土地。
プースカフェオーナー/DJ:マックロマンス

ロサンゼルス 音楽とドーナツと

CRUEL WORLD FESTIVAL 会場zoom
CRUEL WORLD FESTIVAL 会場
ロサンゼルスのフェスティバルに出演するよ。というお話をしましたので、どんなだったかお伝えしておきますね。

L.A.の印象に残ったことを何かひとつだけ提示せよ。と言われたら、うーん、、ドーナツかな。街のあちこちにドーナツ屋さんがあって、どこも列ができてるぐらい盛況。日本で見かけるような上品なドーナツはあまりなくて、どいつもこいつもお相撲さんのげんこつぐらいあるどデカい砂糖と粉の塊。絵の具を塗りたくったようなド派手なカラーも凄くて、まあ何と言うか、ある種のカルチャーショックではありました。みんな箱買いしててね。おみやげに持って帰るのかと思いきや、その辺のベンチとかに座ってモグモグ。見てるだけで頭が痛くなってきそうだけど、真似してテイクアウトしたドーナツ、1個食べ終わると不思議にもう1個食べたくなってきます。結局、短い滞在の中でずいぶんたくさんのドーナツを食べました。もともと好きなんだけどね。ドーナツ。穴があいててさ。かわいいじゃんね。
ステージの僕(普段からは想像できないでしょ?)zoom
ステージの僕(普段からは想像できないでしょ?)
もちろん、ドーナツを食べるために、わざわざ飛行機に乗ってロサンゼルスを訪れたわけではありません。ロウズボウルスタジアムで開催されたクルエルワールドフェスティバル。ブロンディ、DEVO、P.I.L、モリッシー、、、80年代に大活躍した音楽界のレジェンドらが集結する夢の大イベントです。会場はスタジアムそのものを使用するわけではなく、周辺の公園やゴルフ場などエリア一帯を大きく使った、まあいわばフジロックスタイル。代々木公園や駒沢公園全体を貸切にしてイベント会場にした感じ。と言えばイメージは伝わるでしょうか。ステージは3箇所。お客さんはマップとタイムテーブルとにらめっこしながら会場内を自分の足で移動してイベントを楽しみます。連日の真夏日和で日陰も少なく、参加するのも体力勝負だね。

出演者の平均年齢は60歳を越えているはず、当然、お客もそこそこ高齢になるんじゃないかと予想していたのですけど、ゲートが開いてみたらびっくり、来場者の中心は2〜30代でしょうか。つまり、他のフェスティバルと同じ。80年代ニューウェイブ、ポストパンク系の音楽は今やノスタルジーに浸るおじさんたちのものではなく、普通に「かっこいい音楽」として、現代の音楽シーンの中にしっかりとポジションを得ているようです。古い音楽を聴いているから人も古いという考えはもう大間違い。

いろんなランクのアーティストが出演したわけなんだけど、一部を除いて楽屋はみな同じ。広場に並べられたトレーラー、各バンドに1台づつあてがわれ、テント付きのソファやカフェテーブルなんかは共有。トレーラーにこもりっきりで全く出てこないチームがいれば、ジョンライドン(P.I.L /元セックスピストルズ)なんかは「オレ様がジョンライドンや!」ってな感じで、いちばん目立つど真ん中に席を取って存在をアピール?

10代の頃に憧れだったジョンライドンと同じ場所(同じ出演者として)にいる自分、この感動、どうやったら人に伝えることができよう。しかし、豪華な顔ぶれの出演者たち、あまりにも風貌が変わりすぎていて、ほとんど誰が誰なんだかさっぱりわからないという現実。前回の記事でご紹介したミッシングパーソンズのデイルポジオさんも絶対にすれ違ったりしているはずなんだけど、結局最後まで認知することができませんでした。まあ、いちおう僕も演者のはしくれとして現地にいたわけで、他の出演者のことをそこまで気にかけていられなかったというのもあるけれど、もう二度とないだろうこの出会いのチャンス、ヒーローたち誰一人とも言葉を交わすこともできず、残念。
ドーナツ。。これだもんzoom
ドーナツ。。これだもん
楽屋エリアには、スタッフと出演者専用のレストランテントがあり、みんなそこでお茶や食事をするのだけど、メニューの全てがヴィーガンで統一されていました。まあ、昔からミュージシャン連中にはベジタリアンが多くて、その影響で僕自身も牛や豚などの肉を食べないのですけど、ヴィーガン料理しかない。というのは音楽フェスのあり方としては極端すぎるんじゃないかなと正直思いました。音楽は自由で、自由とは多元的であるべきだと僕は思うのですよね。まあ個人的にはとても助かりましたけど。そしたらね。このヴィーガンメニューのリクエストはヘッドラインを務めたモリッシーさんのリクエストだったそうな。「ヴィーガンメニューにしないと出ない」と言ったとか言わないとか、僕が主催者なら「じゃあ出なくていいよ。」と言うけどね。あくまで噂なんでね。僕の知る限りではモリッシーさんは温厚でそのような高圧的な性格の人じゃないように思います。

あと、来るはずだったけど直前で出演がキャンセルになったバンドやアーティストが何人かいたんだけど、コロナワクチン接種を拒否したのが原因。みたいな噂もまことしやかに囁かれていました。僕もワクチンは受けましたけど、それ以外にもコロナの陰性証明書というのを取得しなくてはならず、これに2万円(往復なので2倍)程度の費用がかかりました。最近は街角で無料でPCR検査を受けられる場所も多い中、法外とも思える料金には閉口しました。他にも帰国(入国)のために専用アプリをスマホに入れなくてはならなかったり(スマホ持ってない人は強制的にレンタルさせられる。)、誓約書のようなものを提出させられたり、コロナの影響で普段の旅行ではなかったような面倒な手続きがいくつかあるので、現在海外旅行を企画中の方はよく調べておいた方がよいと思います。実際、書類不備で予定のフライトに乗れず、チェックイン後に荷物をおろされている旅行者の方がいました。(おかげで乗り継ぎのフライトに乗り遅れそうになりました。)

出演者たちのライブの様子などは、YouTubeなどにもたくさん上がっているので、興味のある方はチェックしてみて下さい。僕は自分も出演者ということもあって、他のバンドの演奏はあまり観ることができなかったのですけど、いくつか観たバンドのパフォーマンスがどれも超絶素晴らしくて度肝を抜かれました。若い頃活躍したアーティストが歳をとってステージに戻って来て、、って、だいたい想像がつくじゃないですか?ああ、おじいちゃん、おばあちゃん、がんばってるなあ、、みたいな。全然そんなことないんです。80年代当時を遥かに超えるキレっキレのパフォーマンス。重厚な存在感。テクノロジーと融合し現代ヴァージョンまでアップデートされた演出。いやあ、人間とは死ぬまで進化し続ける生き物なんだと言うことを目の当たりに理解しました。感動しすぎて落ち込んでしまいましたよ。自分が何だかちっぽけな存在に思えてきて。
Uberの窓からパチリ どこを見ても絵になるzoom
Uberの窓からパチリ どこを見ても絵になる
タクシーをほとんど見かけず、Uberが主流になっていたり、支払いのほとんどがタッチ決済だったり、まあ今やスマホなしで旅行はできない時代になってしまったと思います。紛失したり壊れてしまったら大惨事ですね。でもそれも数年のうちにはもっと便利になって、スマホ本体は持たなくてもよくなるかもね。

フェスの会場からダウンタウンのホテルに戻るためにUberを呼んだんですけど、運転手の人がいかにも音楽好きなドレッドヘアの黒人でね。ヒップホップとか、もしかしたらソウルとかファンクが好みかと思いきや、車内に大音量でフランクザッパが流れていて。その次の曲も古いプログレで、何だろう、改めて音楽に人種は関係ないよねって、音楽って本当に自由だよなって思いがしみじみと込み上げて来ました。「いい音楽だね。」と言ってしまったのが運の尽き、そこからダウンタウンまでの道中、ずっと運転手の「音楽うんちく」を聞かされる羽目になりました。まがいなりにも巨大ロックフェスの会場から楽器を背負って出て来た、いかにも「ミュージシャン」な乗客者を相手に「音楽とは何ぞや?」みたいな講釈。ええ度胸しとるやんけ、という感じではありましたけど、ま、そういうのがいいんだよね。旅の記憶なんて、そのうち日々の喧騒の中に溶けて消えて無くなっていくもの。でもこのUberの運転手と交わしたフランクザッパの会話は、ずっと消えずに墓場まで付いてくるような気がします。
プースカフェオーナー/DJ:マックロマンス
マックロマンス:プースカフェ自由が丘(東京目黒区)オーナー。1965年東京生まれ。19歳で単身ロンドンに渡りプロミュージシャンとして活動。帰国後バーテンダーに転身し「酒と酒場と音楽」を軸に幅広いフィールドで多様なワークに携わる。現在はバービジネスの一線から退き、DJとして活動するほか、東京近郊で農園作りに着手するなど変幻自在に生活を謳歌している。近況はマックロマンスオフィシャルサイトで。
マックロマンスオフィシャルサイト http://macromance.com
risvel facebook