旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2022年5月3日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

これぞアメ車!懐かしのマッスルカー

△米GMの「シボレー」ブランドの3代目「コルベット」(米メリーランド州で筆者撮影)zoom
△米GMの「シボレー」ブランドの3代目「コルベット」(米メリーランド州で筆者撮影)

 アメリカ(米国)車らしい大きな車体に、大排気量エンジンを積んだ「マッスルカー」の1960~80年代のモデルが、米国の首都ワシントン近郊のメリーランド州の中古車ディーラーに並んでいた。米国自動車最大手のゼネラル・モーターズ(GM)が「シボレー」ブランドで展開する「コルベット」の代表的なモデルの一つ、3代目が入り口に止まっている。鋼鉄製車体の“鉄分”の磁力に引き寄せられて観察した―。

△米GMの「シボレー」ブランドの3代目「コルベット」(米メリーランド州で筆者撮影)zoom
△米GMの「シボレー」ブランドの3代目「コルベット」(米メリーランド州で筆者撮影)

 ▽ロングランの人気モデル
 コルベットの中でも象徴的なモデルの一つとなっている3代目は、1968年型から82年型まで約15年間にわたって生産された。1954年に生産が始まって以来、約68年間造られてきたロングラン製品の中でも、3代目はマイナーチェンジをしながら長く続いた人気モデルだった。
 正面デザインは、左右に二つずつある円形の前照灯を点灯させる際にボンネットからせり上がるのが格好いい。車体前後のフェンダーが膨らんだ形状と相まって独特のスポーティーな外観を形成している。

△米GMの「シボレー」ブランドの3代目「カマロ」(米メリーランド州で筆者撮影)zoom
△米GMの「シボレー」ブランドの3代目「カマロ」(米メリーランド州で筆者撮影)

 ▽73~77年型と特定
 中古車店にあったオレンジ色のモデルの特色を見ると、3代目のうち1973~77年型のいずれかなのかが分かる。というのも、備え付けた前後のバンパーは車体と同じ色に塗られたウレタン製で、後部の窓ガラスが垂直にはめ込まれている条件に当てはまるのはこの期間だからだ。
 73年生まれの私は同世代で、初対面のはずながらも同胞意識をおのずと抱いた。この時期のモデルは「コルベット・スティングレイ」と呼ばれ、アカエイを意味する「Stingray」の名称が付けられた。

△米フォード・モーターの「マスタング」の初代型後期(米メリーランド州で筆者撮影)zoom
△米フォード・モーターの「マスタング」の初代型後期(米メリーランド州で筆者撮影)

 ▽排気量5733cc
 搭載しているのは排気量5733ccのV型8気筒エンジンで、標準の最高出力は190馬力だった。この日はエンジンをかけた音は聞けなかったが、ハンドル奥の鍵穴にキーを差し込んでエンジンをかけると「グオーン」というマッスルカーらしい迫力のあるエンジン音を響かせるはずだ。
 このモデルは計器類が全て円形のアナログ式で、運転席の正面には左に速度計、右にエンジン回転数を示すタコメーターの二つがあるだけ。ガソリンの残量を知るための燃料系や、エンジンの熱を吸収する冷却水の温度を表す水温計、バッテリーの状況を示す電圧計など計五つが中央部に並んでいる。うち一つは円形のアナログ時計だ。

△米フォード・モーターの現行型「マスタング」(右)と初代型後期(フォード提供)zoom
△米フォード・モーターの現行型「マスタング」(右)と初代型後期(フォード提供)

 ▽シボレーの双璧も
 あまりにも食い入るように眺めていたためか、通りかかった店主の男性が「良かったら店を案内するよ」と声をかけてくれた。お言葉に甘えて奥の駐車場へ案内してもらうと、シボレーブランドでコルベットと双璧をなすマッスルカーの「カマロ」の3代目が止まっていた。
 82~92年型がある3代目は、キュービズムの美を織りなしている。正面にある左右に二つずつのヘッドライトは角形で、後部のテールランプも四角く、幼少期に眺めた時は非常に未来的なデザインに見えた。

△店内には米フォード・モーターの3代目「マスタング」も(米メリーランド州で筆者撮影)zoom
△店内には米フォード・モーターの3代目「マスタング」も(米メリーランド州で筆者撮影)

 ▽マスタングは“原点回帰”へ
 一角には米国フォード・モーターを代表するマッスルカーの「マスタング」の69~73年型の初代型後期のクーペも鎮座していた。美しいメタリックブルーに塗られているが、店主は「これはオリジナルの色ではなく、いったん塗装をはがして内外装をレストアして元の姿に戻そうと考えているんだ」と“原点回帰”の計画を教えてくれた。店内には93年型の3代目マスタングの中古車もあり、2万7690ドル(約360万円)で売られていた。
 日本自動車輸入組合(東京)によると、コルベットやカマロの現行モデルなどが輸入されているGMのシボレーブランドの2021年度の乗用車販売台数は760台、既に撤退して並行輸入が続いているフォードは503台にとどまる。シボレーの21年度の輸入乗用車に占める割合(シェア)は0・3%、フォードは0・2%とごくわずかだ。
 日本では希少なアメ車、それも輝かしい60~80年代のモデルが本場で健在なのを見るのはうれしいことだ。次に案内してもらった店内では、さらに珍しいアメ車に驚愕する展開が待ち受けていた―。
(次号へ続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
risvel facebook