旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2022年4月5日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

名残り雪と太古の湯に癒される、とんがり湯小屋の宿「界 ポロト」

3月末の残雪に覆われた「界 ポロト」。ポロト湖を引き込んだ池にはシラサギの姿も。zoom
3月末の残雪に覆われた「界 ポロト」。ポロト湖を引き込んだ池にはシラサギの姿も。
温泉+雪景色といえば、冬旅の最強コンテンツ。
「冬らしい旅をしないまま、春を迎えるのは心残り……」、そんな思いから、東京で桜の花が咲き始めた3月の終わりに、名残り雪と温泉を求めて北海道を訪れました。

目的地は、白老(しらおい)温泉に2022年1月14日、開業したばかりの「界 ポロト」。星野リゾートが全国に展開する温泉旅館ブランド「界」の北海道初となる施設です。

ポロト湖の懐にひたる、とんがり湯小屋の宿
「界 ポロト」がある白老町(しらおいちょう)は、太平洋に面した北海道中南部に位置し、登別と苫小牧のちょうど中間あたり。アイヌ語の「シラウオイ」が地名の由来といわれています。道内としては冬の積雪が少なく、穏やかな気候とともに海と山、森と湖に囲まれ、四季折々の景色を楽しむことができる環境です。到着した日はとても穏やかな晴天。ポロト湖から引き込んだ水辺にはシラサギの姿がありました。

このあたりには、古くから先住民族であるアイヌ民族が暮らし、現在も文化や伝統を継承しているのだそうです。アイヌ語で“大きな湖”を意味するポロト湖畔にせり出した「界 ポロト」は、そんなアイヌ民族と文化をリスペクトし、異なる民族との共生を体験できる施設を目指したといいます。
館内に使われた天然の白樺丸太は約650本。ラウンジやライブラリーで過ごしていると、白樺林に囲まれているよう。zoom
館内に使われた天然の白樺丸太は約650本。ラウンジやライブラリーで過ごしていると、白樺林に囲まれているよう。
アイヌ民族の集落「ポロトコタン」から着想を得た湯小屋をはじめとした建物の設計は、建築家の中村拓志(なかむらひろし)氏。地域の歴史や文化、産業や素材を取り入れた建築を得意とする中村氏らしく、ロビーラウンジ、レストラン、湖に面した客室など、施設のどこにいてもポロト湖の懐に抱かれる気分を味わえる造りになっています。

アイヌ民族の集落から着想を得たとんがり湯小屋と、化粧水レベルの美肌の湯
この宿の温泉は、太古の植物由来の有機物を含んだ「モール温泉」と呼ばれるもの。世界的にも珍しく、茶褐色のお湯とスモークを思わせる匂いが特徴です。古い角質を落とし肌の新陳代謝を高める弱アルカリ性の泉質は、化粧品にも使われる成分を含んでいることから「美肌の湯」と呼ばれているのだとか。

そのお湯を存分に楽しめる大浴場は2カ所あります。「△湯(さんかくのゆ)」があるのが、ロビーや客室からも見える、とんがり屋根の湯小屋。アイヌの建築の特徴である「ケトゥンニ」と呼ばれる三脚構造を基本構造にし、内部のいたるところに古代の人が最も神聖視した形といわれている三角形のモチーフが取り入れられています。
「△湯」には源泉かけ流しの「あつ湯」と、リラックス効果が高い「ぬる湯」があり、ポロト湖にせり出した露天風呂も。zoom
「△湯」には源泉かけ流しの「あつ湯」と、リラックス効果が高い「ぬる湯」があり、ポロト湖にせり出した露天風呂も。
開放的な「△湯」に対して、ドーム天井の丸い穴から柔らかな光が差し込むのが、「〇湯(まるのゆ)」。お湯の中からその光を見上げると、洞窟の中から空を見上げているよう。
「ここは昼間より、夜のほうがおすすめですよ」とスタッフのおすすめどおり深夜に訪れてみたら、心地よいほの暗さに包まれた浴室内をひとり占め。差し込む光が満月の月明かりのように見え、心身ともに浄化される気分を味わえました。

ご当地部屋「□の間(しかくのま)」)でアイヌ民族の生活様式と文化に触れる
「界」といえば、地元の文化や伝統を継承した“ご当地部屋”も楽しみのひとつ。ここでは「チセ」と呼ばれるアイヌ民族の伝統的な民家の造りを取り入れています。客室へと続く廊下の壁が波打っているのですが、これは集落に民家が連なる様子をイメージしたものなのだとか。また、4タイプあるすべての客室に置かれているのが、チセの中央にある四角い炉をイメージしたテーブル。訪れた人がこのテーブルを囲み、団らんしてほしいとの思いが込められているとのことでした。

室内にはアイヌ民族の生活から着想を得たアート作品が壁を飾り、壁紙やクッションにもアイヌ模様が施されています。これらに囲まれた部屋の中から窓の外に広がるポロト湖を眺めていると、北海道の雄大な自然に溶け込むアイヌの人々の暮らしが思い浮かびます。
アイヌ民族の伝統民家の造りと、アイヌ模様のモチーフを取り入れたご当地部屋「□の間」の特別室。露天風呂からもポロト湖を一望。zoom
アイヌ民族の伝統民家の造りと、アイヌ模様のモチーフを取り入れたご当地部屋「□の間」の特別室。露天風呂からもポロト湖を一望。
北海道の食材を存分に味わう会席料理
北海道を訪れたら、海の幸を中心とした食も楽しみたいもの。夕食は、その食材をふんだんに盛り込んだ会席料理です。この日のメニューは、じゃがいものすり流しにイクラとウニをのせた先付けに始まり、アイヌ民族の丸木船をモチーフに、酢の物・八寸・お造りを盛り合わせた豪華な「宝楽盛り」と続きます。「特別会席」で味わえるのが、毛ガニやホタテをブイヤベースソースで味わう「毛蟹と帆立貝の醍醐鍋」。濃厚なスープに、チーズをたっぷり散らして食べるのがおすすめです。
夕食の会席料理(一部)。先付と一緒に登場するクマの焼き物はひとつずつ表情が異なり、どのコが出てくるかはお楽しみ。zoom
夕食の会席料理(一部)。先付と一緒に登場するクマの焼き物はひとつずつ表情が異なり、どのコが出てくるかはお楽しみ。
北の大地にも少しずつ春の気配が感じられた、1泊2日の「界 ポロト」滞在。「春は待ち遠しいけれど、名残り雪を見ながらもう少し冬の余韻も感じていたい」、そんな私のわがままを叶えてくれるかのように、翌朝はうっすらと雪化粧した景色が広がり、この冬最後の雪と温泉を堪能した2日間でした。
未明に降った雪にうっすらと覆われたとんがり湯小屋。zoom
未明に降った雪にうっすらと覆われたとんがり湯小屋。
今回はひとり旅でしたが、次はポロト湖が新緑や紅葉に染まる季節に、家族や親しい友人を連れて訪れたいと思っています。「界 ポロト」には、ぜひとも連泊プランで訪れてみてください。そして、1日は施設内のアクティビティや、隣接する「民族共生象徴空間 ウポポイ」を訪れてアイヌ民族の文化にもっと深くふれ、もう1日はな~んにもしないでポロト湖を眺めながらお湯に浸かって過ごす……。せっかくなら、そんな贅沢な旅がおすすめです。

◆「界 ポロト」の湯治体験は、こちらから。

リラックス&美肌効果がアップする! 「界 ポロト」の湯治体験

■界 ポロト
北海道白老郡白老町若草町1-1018-94
TEL 0570-073-011(界予約センター)
1泊2万8,000円~(2名1室使用時の1名あたり、税・サ込み、夕朝食付き)
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaiporoto/
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
risvel facebook