旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2021年10月10日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

米首都動物園で子パンダ公開、百獣の王は“集団欠席”の理由

△スミソニアン国立動物園の子パンダ「小奇跡」(9月19日に筆者撮影)zoom
△スミソニアン国立動物園の子パンダ「小奇跡」(9月19日に筆者撮影)

 東京都の上野動物園で生まれたジャイアントパンダの双子の赤ちゃんが注目を浴びている中、アメリカ(米国)の首都ワシントンにあるスミソニアン国立動物園では20年8月に生まれた子パンダが一足先に公開されて人気を集めている。客寄せパンダに魅せられてワシントンの地下鉄「ワシントンメトロ」のレッドラインで現地入りすると、米国の代表的な動物園の一つにいるべき動物が“集団欠席”していたのに首をひねった。

△ツインブルック駅に停車中のワシントンメトロの車両「3000系」の車内で(9月19日に筆者撮影)zoom
△ツインブルック駅に停車中のワシントンメトロの車両「3000系」の車内で(9月19日に筆者撮影)

 ▽旧型車両が入線
 ワシントンメトロは西側の始発駅であるメリーランド州のシェイディーグローブ駅と、南隣のロックビル駅が駅舎の大規模改装中のため21年9月11日から12月4日まで閉鎖中だ。この間は地下鉄の電車がロックビルの南隣のツインブルック駅で折り返しており、代行バスがシェイディーグローブ、ロックビル両駅と結んでいる。
 日曜日の9月19日、スミソニアン国立動物園へ向かうために妻子とともにツインブルック駅のプラットホームで電車を待っていたところ1987年に登場した旧型車両3000系が滑り込んできた。ワシントンメトロは川崎重工業が製造して15年に運転が始まった7000系が748両と全体の6割弱を占めており、3000系に出くわす確率はそこまで高くない。

△ウッドリー・パーク・ズー・アダムス・モーガン駅に停車中の3000系(9月19日に筆者撮影)zoom
△ウッドリー・パーク・ズー・アダムス・モーガン駅に停車中の3000系(9月19日に筆者撮影)

 ▽「もう1枚撮るか」
 ワシントンメトロは日立製作所グループが受注した次世代車両8000系の納入が2024年に始まり、運行するワシントン首都圏交通局(WMATA)によると25年に営業運転を始める予定だ。3000系は置き換えられて廃車になるため、息子が車両の外側に立って写真を撮影していると男性係員に「もう1枚撮るか?」と尋ねられた。
 電車に乗り込もうとしているものの、写真を撮るのを邪魔しないように気を使ってくれているのかと思って「どうぞ通ってください」と言った。ところが、車内で同じことを聴かれて「一緒に写真を撮ろうか?」と申し出てくれているのに気付いた。「お願いします」と頼み、車内で息子と一緒に撮らせてもらった。2人とも良い表情だ。

△マスクをかぶったスミソニアン国立動物園の入り口にあるライオン像(9月19日に筆者撮影)zoom
△マスクをかぶったスミソニアン国立動物園の入り口にあるライオン像(9月19日に筆者撮影)

 ▽ライオン像がマスク
 ワシントンメトロに乗り込んでウッドリー・パーク・ズー・アダムス・モーガン駅で下車し、コネチカット通りを北へ約10分歩くとスミソニアン国立動物園の入り口が右手にあった。新型コロナウイルス感染拡大防止のために屋内では2歳以上の入園者全員にマスク着用を義務付けており、入り口のライオン像もマスクをかぶって“手本”を示していた。これが思っていたより重要な意味を持っていたことを、私は後に知ることになる…。
 スミソニアン国立動物園に入るのにインターネットで入場券を取得したが、入園は無料だ(マイカーで訪問する場合には駐車場代が必要)。390種を超える動物が計約2700頭いる一大動物園をタダで見学できる利点は大きい。ワシントンは他にも名所となっているスミソニアン協会が運営する博物館や美術館といった施設がいずれも入園は無料のため、観光にかかる料金を抑えられるのは新型コロナ禍後の旅行者拡大に向けて有利に働くのは間違いないだろう。

△パンダ舎で横たわる子パンダ「小奇跡」(9月19日に筆者撮影)zoom
△パンダ舎で横たわる子パンダ「小奇跡」(9月19日に筆者撮影)

 ▽近寄って来た「小奇跡」
 上野動物園で21年6月23日に生まれた双子の赤ちゃんパンダは名前の募集に19万件余りの応募があり、オスが「シャオシャオ」(暁暁)、メスが「レイレイ」(蕾蕾)に決まった。22年1月に予定されている公開時には、ひと目見ようと長蛇の列ができるのではないだろうか。
 これに対し、20年8月に誕生したスミソニアン国立動物園のオスの子パンダ「小奇跡」(シャオチージー)がいるパンダ舎の建物にはあっさりと入場できた。ガラス越しにパンダの飼育施設を眺めるとササを食している大人のジャイアントパンダがおり、その傍らでまだ体が小さい「小奇跡」が歩いてガラスのほうへ近寄って来た。
 見物客が歓声を上げながらスマートフォンなどで撮影すると、男性の職員が「先に進んでください」と呼び掛けた。新型コロナ感染拡大防止のため、同じ見物客を長居させないようにしているのだ。横たわって昼寝の態勢に入った「小奇跡」が再び起き上がる、そんな小さな奇跡を目の当たりにすることはかなわずにパンダ舎から退散した。

△オスのライオン「ルーク」(Photo courtesy of Smithsonian's National Zoo)zoom
△オスのライオン「ルーク」(Photo courtesy of Smithsonian's National Zoo)

 ▽百獣の王が不在だった理由
 動物園と言えば百獣の王のライオンを忘れてはならない。そう思って6頭のライオン、2頭のアムールトラ、1頭のスマトラトラが生息する屋外飼育施設へ向かった。見学者が入れ代わり立ち代わり訪れて目を皿のようにして探しているが、1頭もいない“集団欠席”状態なのは自明だ。
 あきらめて帰路に就いたが、帰宅後に動物園のウェブサイトを調べたところ理由が判明した。ライオンとトラがせきや鼻づまり、倦怠感、食欲不振といった症状を示したため9月中旬に新型コロナの検査を受けさせたところ、陽性と診断されたため来場者から隔離していたのだ。このような経緯を踏まえると、入り口のライオン像がマスクを着用していたことが一段と説得力を持っていたことが分かる。
 スミソニアン国立動物園の10月8日の発表によると、9月30日に再度検査したオスのライオン「ルーク」は再び陽性となったものの、ほかは10月4日の検査でいずれも陰性だったという。新型コロナの脅威は決してひとごとではなく、ルークを含めた全てのライオンとトラの体調が回復して「快気祝い」を兼ねて再訪できる日を楽しみにしている。
 (連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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