旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2021年8月28日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

東京メトロ東西線の初代型車両に再会!? 「米国屈指の犯罪都市ボルティモア」最終回【15】

△ボルティモアの地下鉄(筆者撮影)zoom
△ボルティモアの地下鉄(筆者撮影)

 (「米国屈指の犯罪都市ボルティモア【14】」からの続き)
 アメリカ(米国)の東部メリーランド州ボルティモア市を走る公共交通機関で路線バス、次世代型路面電車(LRT)とともに3本柱をなす地下鉄に乗るため、私は米国の人口2万5千人以上の都市で凶悪犯罪発生率4位のボルティモアに再び乗り込んだ。プラットホームに滑り込んできた電車を眺めると、東京メトロ東西線の初代型車両に再会したような懐かしい気分に包まれた―。

△ボルティモア地下鉄の車内(筆者撮影)zoom
△ボルティモア地下鉄の車内(筆者撮影)

 ▽見慣れた車両のよう
 ボルティモアの地下鉄は、中心部のジョンズ・ホプキンス・ホスピタル駅と北西部の住宅地にあるオーウィングスミルズ駅の24・8キロを結んでいる。私は利用するため、オーウィングスミル駅の南隣にあるオールドコート駅のプラットホームで電車を待っていた。
 目当てのジョンズ・ホプキンス・ホスピタル行き電車がホームに滑り込んだ。銀色の車体にスカイブルー色の装飾をしたステンレス製車両は、かつて見慣れた車両のように映った。

△ボルティモア地下鉄のミルフォードミル駅前の様子(筆者撮影)zoom
△ボルティモア地下鉄のミルフォードミル駅前の様子(筆者撮影)

 ▽まるで東京メトロ5000系?
 その車両の外観は、前回の東京オリンピック(五輪)が開かれた1964年に登場した営団地下鉄(現東京メトロ)東西線の初代型車両「5000系」を想起させてくれるのだ。東西線の路線色がスカイブルーなのが一因だが、先頭の貫通扉を挟んで左右に丸い前照灯と丸いテールランプが並び、中央の上部に行き先表示があるのも共通している。
 5000系は2007年に東西線から姿を消した。だが、緑色の帯をまとった車両が千代田線の綾瀬(東京都足立区)―北綾瀬(同)の支線で14年まで走っていた。

△ボルティモア地下鉄のレキシントンマーケット駅のプラットホーム(筆者撮影)zoom
△ボルティモア地下鉄のレキシントンマーケット駅のプラットホーム(筆者撮影)

 ▽メーカーは東急に製造技術供与
 ボルティモアの地下鉄は、2両編成を2編成組み合わせた計4両で走っている。製造したのは米国バッドだ。バッドは、日本初のオールステンレス車両となった1962年登場の東京急行電鉄(現東急電鉄)7000系の製造技術を供与したことで知られる。
 乗り込むと、車内は進行方向または反対に向いて腰掛けるクロスシートが中心になっている。私は意外に思ったのは座席がプラスチック製ではなく、クッションを用いている点だ。
 ニューヨークの地下鉄はプラスチック製の硬い座席になっている。現行車両のうち3割を超える最大勢力となっている川崎重工業の関係者は「クッションの場合、素行が悪い乗客がナイフなどで表面を切り裂くのを防ぐためだ」と説明していた。
 このため、米国の人口2万5千人以上の都市で凶悪犯罪発生率4位のボルティモアの地下鉄もプラスチック製の座席を採用していると思っていた。しかし、クッションの座席が普通にしつらえられており、83年の開業から使われているため古びた感は否めないものの車内は比較的きれいに保っている印象だ。

△ボルティモア地下鉄のレキシントンマーケット駅に停車中の電車(筆者撮影)zoom
△ボルティモア地下鉄のレキシントンマーケット駅に停車中の電車(筆者撮影)

 ▽「やはり…」
 郊外の地上区間では効果を走った。住宅街がしばらく続き、私が普段通勤で利用している首都ワシントンの地下鉄「ワシントンメトロ」の近似ている似た趣だ。しかし、ボルティモア市内に入ると手狭な集合住宅が目立つようになり、電車は地下へと滑り込んだ。
 平和な車内空間を享受していたものの、「やはり…」の展開が待ち受けていた。金銭をせがむ年取った女性が乗り込み、私と通路を挟んだ座席にいた男性客は難を逃れた。車窓を眺めていたため、気付いていないように受け止められたらしい。
 だが、離れた座席にいた若者たちに対しては、執拗に援助を求めているのが目に入った。
 次の標的になると面倒くさいため、繁華街にある市場に近いレキシントンマーケット駅で下車。次世代型路面電車(LRT)のカムデンヤーズ駅まで歩き、前回の旅行と同様にLRTに乗り込んでボルティモア・ワシントン国際空港(BWI)停留所へ向かった。

△日立製作所のグループ会社がボルティモア地下鉄に納入する次世代車両のイメージ(同社提供)zoom
△日立製作所のグループ会社がボルティモア地下鉄に納入する次世代車両のイメージ(同社提供)

 ▽宝の持ち腐れに?
 ボルティモア地下鉄の車両は登場から約37年が経過し、老朽化しているためメリーランド州運輸局は次世代車両を日立製作所のグループ会社に発注した。日立側は2017年7月、次世代車両の2両編成を39編成、計78両と、無線を使った列車制御システム(CBTC)を計4億50万ドル(約439億円)で受注したと公表した。
 メリーランド州運輸局は、最初の編成が21年に営業運転を始める計画を立てた。ただ、事情通は「新型コロナウイルス禍の影響で生産が計画で遅れていると聞いた」と指摘しており、営業運行開始が21年に間に合うかどうかは不透明だ。
 次世代車両は各車両に76席を設け、新型の車内は次の停車駅などを知らせる案内表示を設け、乗客がスマートフォンやタブレット型端末などでインターネットを使えるように無線通信規格「Wi―Fi(ワイファイ)」も備えている。
 一方、治安に課題を抱えるボルティモアの地域事情を反映し、メリーランド州運輸局はボルティモアの公共交通機関で窃盗防止のためにスマートフォンやタブレットといった携帯型端末をおおっぴらに取り出さないように警告する宣伝を張り出しているのが実態だ。
 メリーランド州運輸局が誇る次世代車両にせっかくWi―Fiを備えても、米国屈指の犯罪都市ボルティモアでは宝の持ち腐れになってしまわないだろうか?もちろん、公共交通機関の車内でスマホやタブレットを堂々と安心して操作できる街になってほしいというのが切なる願いなのだが…。
 (シリーズ「米国屈指の犯罪都市ボルティモア」【完】)
 (連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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