旅の扉

  • 【連載コラム】coffee x
  • 2021年5月10日更新
アムステルダムカフェより
カフェエッセイスト:安齋 千尋

Coffee x The Improvisatore

My life will be the best illustration of all my work. - Hans Christian Andersenzoom
My life will be the best illustration of all my work. - Hans Christian Andersen
まことに詩人とは、見るもの、聞くものにつけて、おもしろく歌ふ人にぞありける。
アンデルセンの原作も、鷗外の訳『即興詩人』も読まないまま大人になってしまった私は、ふとしたことから、昨年お亡くなりになった安野光雅の絵本で同作品に惹かれています。アンデルセンのイタリアへの旅愁は、すれ違ってしまったAntonioとAnnunziataの恋の物語を想像させ、また作者自身の旅立ちを重ねています。
Cafè Florianのテラスから。zoom
Cafè Florianのテラスから。
旅に出られないトラベルコラム。
何か心に残るカフェのこと、と思い出したのは、ヨーロッパ最古のカフェと言われるCafè Florianのテラス席のことでした。ベネチアは、何度訪れても仮面舞踏会中に何かにつまされて歩いているような気持ちになる街です。夕暮れのサン・マルコ広場、小さなオーケストラが演奏するMoon river、綺麗なリネンのテーブルクロス、上品なシルバーのスプーンで食べる夕食前のアイスクリーム。周りにたくさん観光客がいるのにもかかわらず、喉を通る冷んやりに美しい世界を傍観するのでした。出張の何か合間だったと思いますが、こんな風にサンマルコの空を見上げる自由な時間が自分の人生にあるなんて思わなかったし、ヨーロッパに帰って来て、仕事と生計を立てることに一生懸命だった毎日は本当にちょっと前のことです。夢見続けてここまで来たこと、こんな一瞬の幸せの連続に支えられているのです。
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物語のように、イタリアの旅を南へ続けましょう。LA VISITA AL TEMPIO DELLA PIZZA。
南イタリアで特別な場所は、映画『Eat Pray Love』のなかで、ジュリアロバーツが頰張るピザのシーンが撮影されたナポリのL'Antica Pizzeria da Micheleです。ものすごい人だかりの小さなピザ屋さんは、入り口で整理券が配られていますが、毎回ラッキーなことに並ばずに通されています。ひとりですが席はありますか、と聞くと相席に案内されるという裏技。店内はとてもシンプルで、こんなに人がいると思えないほど秩序があり、注文通りにピザは順番にやって来ます、と言ってもメニューはマルゲリータとマリナーラの2種類しかなく、飲み物も水、コーラ、ビール。こんなお店はコロナの時どうなってしまうのでしょうか。ここで食事をしている人はみんな楽しそうで、もう何年も働いているおじさんの安定もっちり美味しすぎるピザ、ここも特別な場所に決定です。ピザの神殿で10ユーロでお釣りがくる、美味しい仕事帰りのOL生活は悪くないものです。”There’s a crack or cracks in everyone…that’s how the light of God gets in” (Eat Pray Love より )
Il tempio della pizzazoom
Il tempio della pizza
イタリアを北から南へ向かうRiminiの海岸で、朝7時頃に一人で泳ぎに行き、カナダから来たとか、カナダに息子さんがいると言ったかすっかり忘れてしまいましたが、英語で話しかけてくれた夫妻に会ったこともありました。海岸というか踝まで海に入ったところに、椅子と机をおいてチェスのようなゲームをしていました。早朝のRimini海岸にいるのは私と老夫婦だけ。イタリアでの旅ではよく変わった登場人物に出会います。世の中当然だと思っていることが、そうでもないかもという時に救われることはよくあります。それは、本を読んでいろいろな人生を知ることや、映画の出会いに似ています。同じことは、一緒に住んでいる彼にも言えること。私たちは文化が違うので、日本の常識はほぼ非常識です。
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さて、空想の旅から戻ると、オランダではコロナウィルスによるStay at home政策も1年以上経ちました。お誕生日に買ってもらったステンレス製のBialetti。イタリアのどこのお家にもある憧れのアイテムで、毎朝嬉しいお家カフェ時間。オンラインでしかお洋服も買わなくなり、彼がmonsieur la postと呼ぶ郵便屋さんが大活躍です。ムッシューってところが可愛いので気に入っています。日本にいる父と電話をしていて、「日本は来月からワクチンが打てるんだよ」と有難そうに話す様子に、国の対応をありがたいと待ち望む感覚が我が家だなぁと思います。おばあちゃん子の私と、父もちょっっと考えが古いのです。ワクチンの安全性の是非は連日ニュースに流れますが、私は早くワクチンが出回って心配なく人と会えるようになったらいいなと思います。5月になり、ようやく暖かくなってきました。春の花といえば桜ですとしか思ったことなかったけれど、5月1日の朝、今日はスズランの日だね、って。フランスでは大切な人の幸福を願って春の花であるスズランを贈るそうです。いいこと聞いたなぁと思う2021年の春のブログです。
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オレワーノという村にテレザという娘があったんですって。
彼女は山を越えて遠く旅立ったジュゼッペが恋しくてとうとう病気になってしまったんですって。そこで占い師のフルヴィア婆さんが、テレザの髪の毛と、彼女が大切にしまっていたジュゼッペの髪の毛とを一緒に銅の鍋に入れ、それに不思議な薬草を入れて何日も煮たんですって。すると、遠くにいたジュゼッペが、忘れていたテレザのことを思い出してどうしても会いたくなって、とうとう、その銅の鍋のところまで帰ってきたんですって。ー絵本新装版 即興詩人より


Cafè florian: https://www.caffeflorian.com/en/

ベネチア、サンマルコ広場にあるヨーロッパ最古のカフェ
L'Antica Pizzeria da Michele: http://www.damichele.net/il-tempio-della-pizza/
ナポリにある老舗のピザ屋さん
『絵本新装版 即興詩人』安野光雅 講談社
カフェエッセイスト:安齋 千尋
Amsterdamに住んでいます。外国で暮らすため、京都で仲居をしながら学んだ日本、Londonでの宝物の出会いがありヨーロッパにきて5年が経ちました。世界中どこにいてもいいカフェに出会うことがとても楽しみです。入った瞬間の香り、音、新聞、いつものバリスタと目が合うこと、私の日々の幸せな瞬間はカフェにあります。
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