「初対面の相手であるはずなのに、旧友と久しぶりに再会したような懐かしさがこみ上げてくる出会い―というのは人に限らないようだ」。勤務先のニューヨーク支局に異動後の2014年1月、通勤で利用したメトロノース鉄道ニューヘブン線の通勤型電車「M―8」が川崎重工業製だったという逸話を鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の拙稿「異国の地で旧友『川崎さん』と再会」でそう綴った。異国の地で「川崎さん」との感動の再会を果たしてからおよそ6年後、またも待ち受けていた出会いとは―。
▽ワシントンでも
ニューヨーク生活を終えてから4年余りが経過した2020年12月、アメリカに戻ってきた。入国から14日間が経過後、地下鉄ワシントンメトロの駅へ向かった。
なぜ2週間の経過後だったのか。それは新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)を受けて滞在先のワシントン近郊メリーランド州で14日間の自主隔離が求められたからだ。私は日本出国前にPCR検査を受けて陰性の判定を受けていたが、「これで自主隔離期間をまけて」というわけにはいかなかった。
晴れて自主隔離生活が幕を閉じ、ワシントンメトロのうち滞在先の最寄りにあるレッドラインのベセスダ駅の地下深くにあるプラットホームでワシントン中心部へ向かう電車を待った。ワシントンメトロは路線をレッドのほかオレンジ、ブルー、シルバー、イエロー、グリーンと色で名付けており、計6路線ある。ワシントンの名所となっているワシントン記念塔や連邦議会議事堂、スミソニアン博物館群などの近くにも駅があるため、観光の足としても便利な存在だ。
滑り込んできた先頭部を黒く塗ったステンレス車両が近づいてくるのを見て、胸が熱くなった。またまた「川崎さん」、こと川崎重工業製の最新型車両7000系だったのだ。異国の地で活躍している“同胞”が出迎えてくれたのは感慨深い。
▽主力の座に昇華
ニューヨークからの帰任を控えた16年10月にワシントンを訪れた際は、15年4月に営業運転が始まった7000系はまだ少数勢力だった。「あっ、7000系だ!」とカメラを向けたものの、目的地とは反対方向へ向かう電車だったため乗車はかなわなかった。
それから約4年ぶりに乗るワシントンメトロは7000系は計748両と車両全体の半分超を占めるようになり、看板列車の座がすっかり板についていた。扉が開くと「ピンポーン」と音が鳴り、扉の脇の下部にある発光ダイオード(LED)が輝いた。音を鳴らすことで視覚障害者らに配慮し、足元を照らして利用者が安全に乗り降りできるように配慮しているのはうれしい。
青いビニールで覆った座席は腰掛けると固めで、欧州メーカーが手掛けた旧型車両(1000~6000系)のスポンジが入って軟らかい座り心地とは一線を画す。しかし、柔らかいいすに身を任せてうとうと睡魔に襲われると目的の駅で降り損ねるリスクがある。しかも、知日派のアメリカ人は「スリに遭う危険性は日本よりずっと高い」と強調する。適度に硬いいすに腰掛け、目をしっかりと見開き、適度な緊張感を持ったほうが良いのだろう。
▽行く先々に「川崎さん」
扉が閉まると、7000系は心地よく加速した。モーター音は聞こえるものの、線路の継ぎ目を渡る音と相まって心地よいハーモニーを奏でる。スムーズに走ること約20分、目的地のメトロセンター駅にオンタイムで着いた。
運行するワシントン首都圏交通局(WMATA)によると、7000系は置き換え対象となった車両と比べて「1000系より信頼性が25%向上し、4000系と比べた信頼性は4倍、あるいは310%改善した」と説明。7000系への置き換えを進めることによって「乗客にとって注目すべきパフォーマンスの改善を期待できる」と豪語する。
首都圏と近畿圏、ニューヨーク、四国、九州、そして今回のワシントンとこれまでに住んだ場所を振り返ると、行く先々で会う「川崎さん」は地域や国境を越えて生活の足として欠かせない存在になっている。もちろん、私も支えられてきた1人だ。「川崎さん」には、これからも快走を続けてほしい。
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)