旅の扉

  • 【連載コラム】空旅のススメ
  • 2020年9月23日更新
あびあんうぃんぐ
航空ライター:Koji Kitajima

20周年を迎えた天草エアラインは新社長を迎えて今日も飛ぶ

天草空港で出発準備中のATR42-600型機「みぞか号」zoom
天草空港で出発準備中のATR42-600型機「みぞか号」

天草エアラインで飛ぶ
コロナ禍で、一機だけで運航を続けるエアラインは大変でない訳はありません。スタッフに聞くとお客様の数が一桁のフライトもあると言います。新たに就任した永岡社長は「忍耐の時期。今だからできることをやっていく」と話してくれました。

天草に取材に向かうのは福岡発の天草エアライン102便。バス案内で機体に向かいます。後方タラップから乗り込むとマスク姿の客室乗務員太田さんが微笑んで見えます。当日は、梅雨明け前の雨交じりで雲の多い状態。到着前シートベルトサインが点灯したままになります。との案内でした。雲の隙間から時折見える有明海の様子を見ながら飛行機は順調に天草空港に向かいます。

座席ポケットの中身公開! ファイルが充実していますzoom
座席ポケットの中身公開! ファイルが充実しています

機内の様子は
天草エアラインの座席背もたれには機内誌ではなく、手作りの情報ファイルが置かれています。手書きの航路図マップや客室乗務員の紹介ページ、オリジナル商品の紹介など盛りだくさんです。エチケット袋は、メッセージが印刷されています。「ねえ、知ってる? 天草空港の開港日は2000年3月23日だよ」。と書かれていました。隣の座席には他のメッセージが入っていました。ちょっとしたことですが、楽しい気分になります。また、シートに装着されている白いヘッドレストカバーに赤い模様が付いているのがわかりました。よく見ると花、星やイルカが型抜きのように模様が切り取られ、シート地の赤色が見えています。これだけで機内が明るくなります。

客室乗務部長の太田さんzoom
客室乗務部長の太田さん

天草空港で出発準備
天草空港に到着して最初に、折り返し便の準備状況を見せて貰いました。地上係員が、目の前の機体に向かって歩いて近付き、お客様を迎える準備をします。大空港で大型機のまわりを空港内車両が取り付いて準備を始めていく様子を見慣れていると新鮮です。ひとりひとりが、担当の備品を持って飛行機に近付いていく。まさに、人が飛行機を飛ばしている場面を目撃することができます。

眺めていると、地上係員の皆さんの動きに無駄がなく、整然と仕事が進んでいきます。到着旅客の中に足の不自由な方がおり、客室乗務員が先にステップを降り、手を添えながら降りていきました。

出発に際しては、3名のスタッフが飛行機の見えるビル前に立って、看板を持ち上げていています。「ご搭乗ありがとうございます」「楽しい旅を」「いってらっしゃい」と、飛行機が動き出すと一生懸命に手を振ってくれる様子にお客様も心が温まる瞬間でしょう。

天草空港出発時の職員お見送りzoom
天草空港出発時の職員お見送り

社長に聞く
今年、6月30日に定時株主総会と取締役会が開催され、永岡 真新社長が就任されました。取材日は、就任からまもない時期でしたが、永岡社長は今後の抱負を力強く語ってくれました。

JAL出身で飛行機好き
JAL出身で、JALエアテックの社長から転身です。島根県浜田市出身の永岡社長は山陰の雰囲気が天草と似ており、暮らしやすいと言います。乗り物好きで、当初は鉄道の運転士に憧れたと言います。のちに飛行機が好きになり、羽田空港で写真を撮っていた時期もあるそうです。JALでは、パイロットの実機訓練施設であるモーゼスレイク空港での整備駐在の経験もあります。同地を拠点に南米を含め全米各地へ応援の為の出張していたことで経験を深めることができました。柳田邦男氏の著作「航空事故」は、整備士人生に指針をくれた座右の書。航空機の信頼性と冗長性(余裕を持たせた予備装置)を学んだと言います。この本がきっかけで航空機への関心が高まったと言います。

特別運賃は続けたい
一日10便運航する天草エアラインの全フライトに搭乗できる過去のヒット商品「乗るだけ運賃」に替わる航空券を今後も販売継続する可能性があるかを聞いてみました。答えは前向きで、その理由を次のように説明してくれました。天草エアラインの顧客を、3つに分類していると言います。ビジネス利用の乗客、観光利用の乗客。そして飛行機好きの乗客だと言います。天草エアラインにとって、お客様を増やす方策として飛行機好きな方にも乗ってもらいたいとのことですので、今後も新たな商品の発売に期待がかかります。

飛行機好きな人々の心に響くのは、天草エアラインの取り巻く環境があると分析します。普段ジェット機で高空を飛びなれていると、ターボプロップ機の低い高度での眺めは新鮮に写ります。また、下界を眺めやすい高翼であること。飛行機への乗り降りが、ボーディングブリッジではなく、ステップであることも、飛行機に乗る気持ちを高揚させてくれます。

愛されるエアラインを目指すために
また、お客様に長く利用されるエアラインになるために、次の3点を考えていくと教えてくれました。あらゆる天候の中で就航率を上げていくこと、1機のみの機材を運休させずにいかに活用していくか。最後にパイロットの確保と説明してくれました。

コロナ禍で大変な時期の就任ですが、永岡社長は力強く「こういう時期だからこそ過去を振りかえって、スタッフ全員に一機の飛行機を飛ばすことに熱量を持ってもらいたい」と言います。

永岡 真社長へインタビューzoom
永岡 真社長へインタビュー

営業部長に聞く
就航時から在籍する営業部長の川崎茂雄さんに話を聞くことができました。営業部員は2名。
航空券は、自社WEBサイト・予約センター及び大手旅行会社にて販売しています。天草市内にある4軒に加え、熊本市及び福岡市内の旅行代理店を中心に旅行商品を販売しており、大阪発の旅行プランも作っています。

乗るだけ運賃の誕生
天草エアラインは長らく冬場の誘客が難しいという問題を抱えていました。当初は天草住民割引がありましたが、もっと大々的に告知したいと考えていました。そこで考え出されたのは「1日親子イルカ号パラダイス」運賃という名称で2014年1月に始まりました。当時は1日全便連続搭乗で1.5万円という値段でした。その後、2018年には、「乗るだけ運賃」とそのものズバリの名称で復活。一日6便、8便、10便のどれを選んで搭乗しても1万円という運賃で人気が出ました。

サンタこす割も
2016年からは天草のイベントへの貢献と話題づくりを目的として、「サンタこす割」を企画しました。全身サンタクロースの姿で搭乗することを宣言すると1区間3,000円で航空券が購入できました。親子4人で仲良く搭乗していく家族の様子を見て川崎さんは手応えを感じたと言います。

2020年3月は20周年
今年、春には20周年の企画がありました。記念日当日の全便搭乗運賃に1/100スケールみぞか号ゴールドバージョンモデルプレーンとMIZOKAマフラー付きで2万円という「天草エアライン就航20周年記念!乗るだけ運賃スペシャル」を20名限定で発売すると多数の応募があり、抽選で販売しました。残念ながら新型コロナの影響でイベントは延期となりましたが、このスペシャル運賃をご購入して頂いたお客様に確認したところ半数近いお客様が当初設定した3月15日に搭乗してくれたとのこと。残りのお客様にも権利は残されており、次のイベント開催に合わせてご利用頂くことになりました。イベント自体は、時期を改めて実施したいと考えています。

多くの記念運賃が発売された
20周年の企画として20にまつわる運賃を販売しています。日ごろ利用してくれている地元住民向けに特別な運賃を出しました。「20周年記念天草住民グループ割」です。4人から20人の利用で2万円になりますので、グループ旅行に最適です。4人利用なら1人5千円ですが、20人で利用した場合には1人1区間1千円となります。これでも昨今のコロナ禍の影響からか利用者は少ないですと川崎さんは言います。

天草地区全体で誘客を行う「天草満喫キャンペーン」ではバス、マイカー、フェリー利用も加えた輸送モードで他県からの観光客を迎えます。コロナ禍前は、航空機利用が多かったものの、今はマイカー利用が増えていると言います。誰でも予約できる運賃では「すごかWEB割」があり、49日前までに予約決済を済ませると、福岡、熊本便が3,900円で利用できる運賃です。

営業部 川崎茂雄部長へインタビューzoom
営業部 川崎茂雄部長へインタビュー

川崎さんはこれからも、乗るだけ運賃の継続と、その他新たな商品を開発し、乗ってもらえる企画をおこなっていきたいと考えています。

世界の大手エアラインさえ経営困難な時期に、小さなエアラインが大変でない訳はありません。今は、じっと我慢の時であり、また多くのお客様をお迎えする時の為に、今できることをやっていく。筆者は、永岡社長の言葉を思い浮かべつつ、天草エアラインの機上の人となりました。

取材協力:天草エアライン ⇒ https://www.amx.co.jp/

航空ライター:Koji Kitajima
大阪府出身。幼少期より空への憧憬の念を持ったまま大人になった、今や中年の航空少年。
本業のかたわら情報を発信しています。週末は航空ライター兼ブロガーとして活動中。
旅のモットーは、「航空旅行を楽しまないと旅の魅力は半減です。旅の楽しみは空港から始まる」です。

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