旅の扉

  • 【連載コラム】空旅のススメ
  • 2020年8月13日更新
あびあんうぃんぐ
航空ライター:Koji Kitajima

北の国のエアラインらしいおもてなしのある北海道エアシステム

右サイドは鮭、帆立、利尻昆布などの北海道の特産品が描かれている新型機ATR42-600zoom
右サイドは鮭、帆立、利尻昆布などの北海道の特産品が描かれている新型機ATR42-600

HACだけに残るSAAB機
SAAB340Bを就航させるエアラインは、日本で北海道エアシステム(HAC)だけになりました。退役前の今しか乗れない36席のSAAB機に郷愁の気持ちが沸き上がります。後継機としてこの4月から導入された48席のATR42-600型機が運航を始めたばかりです。

7月下旬、このSAAB機に乗るため札幌丘珠空港に向かいました。ATR機もしっかり見るつもりです。もうひとつの大事なミッションはJAL出身で社長の大堀哲(おおほりてつ)さんへのインタビューです。会社のことを色々聞いてみました。

大堀哲社長へインタビューしました(距離を取って撮影)zoom
大堀哲社長へインタビューしました(距離を取って撮影)

社長インタビュー
最初に自己紹介からお願いします――
愛媛県出身の53歳です。JALでの経験は整備部門での人事管理や旅客営業、貨物など多岐にわたります。いろいろなセクションを経験したことが今になって役に立っていますし、人的交流も続いています。

社長は飛行機好きと聞きました――
飛行機との出会いは、19歳の時に友人に誘われて乗った松山⇒福岡間でした。初めて雲の上で見た太陽の光の美しさに心を奪われました。

社長就任初年度の季節感をどう感じたでしょうか――
2019年に社長に就任した後、一年間見てきて一番丘珠空港らしさを感じる季節は、雪の降る冬だと思いました。吹雪の空港でターボプロップ機の後流で雪を舞い上げながら着陸してくる様子がダイナミックで素晴らしく感動しました。

機体の導入状況について教えてください――
HACの5路線を運航するには、3機の航空機が必要です。現在、ATR機が入ってきたので、一時的に4機体制になっていますが、実際に稼働していのるは3機となります。コロナ禍の需要減で、ATR 2号機の受領を今秋から来春頃へ延期しましたので、SAAB機の退役時期も延長する方向で調整を進めています。退役時には日本の空からSAAB機が消える時でもありますので、航空ファンに向けてのイベントを考えています。

2機種の違いを教えてください――
ATRはSAAB機より天井が高く、胴体が太いのでSAAB機では1-2の座席配列のところ、ATRは2-2となっています。SAAB機では2席側の頭上にしかない手荷物収納棚もATRは両側にあるなど、広いATR機に分があり、新車の香りがします。それでもHACにはSAAB機ファンが多いと思います。小型機ながらスタイルが抜群なのです。更には低く唸るような低音のターボプロップのエンジン音は、ATR機の軽やかな音とは一線を画しています。

SAAB340B型機の機内ですzoom
SAAB340B型機の機内です

新たな旅行商品など考えられるでしょうか――
HACで運航する機体で一日の最大運航便数は1機で10便。同じ飛行機で乗り継ぐために遅延のリスク無く一日10便に搭乗できるとなると、HACの飛行機を満喫する旅も楽しいかも知れません。実はJALで福岡に勤務しているときに「日本一周空の旅」を企画したことがあります。JALグループでつないでまたこのような商品ができるといいと思っています。

HACの強みはどこにあるでしょうか。――
離島路線を持ち、お医者様の利用や通院での利用など生活路線の側面と、北海道の自然を生かした観光路線を持ち、地域に密着した親しみやすさが最大の武器だと思います。
ボーディングブリッジがありませんので、航空機を間近に感じながら、航空機への乗り降りができます。日本で最後となったSAAB機と最新のATR機に乗って頂ける楽しさもあります。

新型コロナ対策はどのように進めているでしょうか――
大型機と同じく機内の空気は4~5分で全てが入れ替わりますので機内環境も良い上に、最長路線の丘珠⇔三沢空港線でも60分と元々飛行時間が短い路線しかありません。特にHACの最多路線で一日6往復する丘珠⇔函館線は飛行時間が40分ですので、道民としては市内に近い空港から気軽に函館に向かえる貴重な路線だと思っています。JRで3時間半、高速バスで4時間強となれば航空機の強みが発揮できて、飛沫感染のリスクも低いと考えられます。飛行時間が短いゆえにトイレの使用頻度も低く、接触感染の可能性も少ないと思います。

札幌丘珠空港でのSAAB340B型機zoom
札幌丘珠空港でのSAAB340B型機

SAAB340B機に搭乗へ
インタビューののち、退役前に乗っておこうと決めたSAAB340Bに搭乗し、函館に向かいました。保安検査場を抜けた待合室から階下に降り、外に出て機体に向かいます。昔ながらの搭乗スタイルに気持ちが和みます。

SAAB340Bは小型機ながら実にスマート。機首部からコックピットウィンドーを抜け後方にかけての曲線が優美です。機内に入ると、客室乗務員が笑顔で拭き取り用アルコールシートを差し出してくれました。天井が低く、他の飛行機にはないプライベート機に搭乗したような落ち着いた気持ちになります。1-2配列の座席で、頭上の手荷物入れが2席側の上にしか無いことに改めて気付きます。

拭き取り用アルコールシートを持つ客室乗務員zoom
拭き取り用アルコールシートを持つ客室乗務員

シートバックは多く情報が詰め込まれたポケット。JALグループ機内誌「SKYWARD」に加え、HACオリジナル機内誌「HAC MAGAZINE」、機内サービスのご案内、安全のしおり、エチケット袋にうちわまで。短い時間では読み切れませんので、HAC機内誌は持ち帰ります。

シートポケットに入るHAC情報などzoom
シートポケットに入るHAC情報など

ターボプロップ機のエンジン音はATR機とは違い、小型機ながらボーンと力強い低音が響きます。懐かしさを感じるいい音です。

北国エアラインのユニークな季節限定サービス
あいにくの天候で、機内サービスはありませんでした。座席ポケットに入っている「機内サービスのご案内」で内容を確認してみます。ドリンクは温、冷のお茶と水が用意されています。座席にドリンクホルダーが無いので、ペットボトル用ネックホルダーを貸し出しているところもこの機体らしい工夫です。子供のころ水筒を下げて遠足に行ったことを思い出すような光景です。電子機器用のイヤホン、イヤホンジャックや耳栓の貸し出しもありました。

最後にほっと和む一文を発見しました。「冬期間の寒い機内で少しでも暖かくお過ごしいただく為ご用意しております」とのことで、12月から3月まで希望者にはカイロが渡されるようです。札幌丘珠空港事務所で客室乗務員が「特に冬場の朝一番のフライトはまだ機内が寒いので、事務所内に布団乾燥機を用意して、ブランケットを暖めてお客さまに提供しています」と話してくれました。

雨で濡れて緑濃い北の大地を離れる前に、小さいながらも暖かいおもてなしのあるエアラインを回想しました。

取材協力:北海道エアシステム ⇒ https://www.info.hac-air.co.jp/

航空ライター:Koji Kitajima
大阪府出身。幼少期より空への憧憬の念を持ったまま大人になった、今や中年の航空少年。
本業のかたわら情報を発信しています。週末は航空ライター兼ブロガーとして活動中。
旅のモットーは、「航空旅行を楽しまないと旅の魅力は半減です。旅の楽しみは空港から始まる」です。

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