旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2020年2月14日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

世界でいちばん美しい小路を訪ねて ~ニュージーランドの首都・ウエリントンで“エシカル”の楽しさを知る

「世界一、美しい小路」と呼ばれるハンナズ・レーンウェイは、楽しく、美味しく「エシカル」を体験できる場所。zoom
「世界一、美しい小路」と呼ばれるハンナズ・レーンウェイは、楽しく、美味しく「エシカル」を体験できる場所。
ニュージーランドの首都がどこだか、すぐに思い浮かびますか?
答えは、ウエリントン。北島と南島、二つの島に分かれるニュージーランドの北島南端部に位置するウエリントンは、世界最南端に位置する首都なのだそうです。

人口約50万人の小さな街ながら、ウエリントンにはいくつもの呼び名があります。例えば、「世界で最も小さくてスタイリッシュな首都」。『ホビット』『ロード・オブ・ザ・リング』などの映画を世に送り出したスタジオがあることから「映画制作の街」とも呼ばれ、市内から見える高台には“Hollywood(ハリウッド)”をもじった“Wellywood”の大きなサインが掲げられています。また「世界有数のコーヒーの街」「アーティストが集まる、クリエイティブな街」「クラフトビールの街」などなど……。
ハンナズ・レーンウェイの入り口。わずか数10メートル四方の小さなエリアに、話題のカフェやショップが集まる。zoom
ハンナズ・レーンウェイの入り口。わずか数10メートル四方の小さなエリアに、話題のカフェやショップが集まる。
ウエリントンでよく耳にする“Ethical(エシカル)”ってどんな意味?
そのウエリントンでよく聞かれるのが“Ethical(エシカル)”という言葉です。環境先進国としても知られるニュージーランドで、“Ecological” “Organic”はすでに当たり前のこと。さらに進んで、自然環境の維持に配慮した事業や開発、行動を表す「持続可能な」という意味の“Sustainable(サスティナブル)”、そして最近では“エシカル”という意識が、人々の暮らしに浸透してきているといいます。

その“エシカル”を直訳すると“倫理的、道徳上の”となります。言葉だけでは、なんだか堅苦しくて難しそう。けれども今回、「エシカルとは、こういうことだったのね!」、そう思えるシーンに、この街で何度か遭遇することができました。

そんな体験ができるのが、街の中心部のハンナズ・レーンウェイ。もとは小さな町工場があり、リノベーションした古い建物に小さいけれどセンスが良くてかわいらしいカフェやショップが集まっています。わずか数10メートル四方のエリアですが「世界一、美しい小路」と呼ばれ、国内ばかりか海外からもこの場所にあこがれ、集まってくる人が増えているのだそう。

半地下の可愛いアトリエでは、自家製ピーナッツバターをたっぷりのせたトーストを
窓際にピーナッツバターのビンがずらりと並ぶのが「Fix & Fogg(フィックス&フォッグ)」。オーガニック食材から作るピーナッツバターは10種類ほど。なかにはスモーク風味、チリ入りのピリ辛風味といったユニークなテイストも。商品だけなら地元のスーパーマーケットで買えますが、ここでのお楽しみは半地下のアトリエをのぞき、試食して商品を選んだり、そのピーナッツバターをたっぷりのせたトーストやヨーグルト、アサイボウルをオーダーすることなんです。
トーストに使うブレッドは、すぐ近くにお店を構える「Leeds Street Bakery(リーズ・ストリート・ベーカリー)」のもの。壁には使用済みのビンを回収するラックが下げられています。
「フィックス&フォッグ」の壁には空きビン回収用のラックが。自家製ピーナッツバターをトッピングしたトースト(9NZD~)。zoom
「フィックス&フォッグ」の壁には空きビン回収用のラックが。自家製ピーナッツバターをトッピングしたトースト(9NZD~)。
オーダーしたのは、ピーナッツバターとラズベリーソースをトッピングしたトースト。派手なピンクで少々ジャンキーにも見えますが、食べてみるとラズベリーの甘酸っぱさがちょうどいいアクセントに。ピーナッツバターの塩味も程よく効いていて、これなら肉料理のソースやドレッシングの隠し味にも使えそうです。
●Fix & Fogg(フィックス&フォッグ)
5 Eva Street, Te Aro, Wellington
TEL +64 21 190 5695
9:00~15:00
日・月曜休
https://www.fixandfogg.com


カカオの故郷を旅する気分になれる、チョコレート・ファクトリー
「フィックス&フォッグ」の並びにある「Wellington Chocolate Factory(ウエリントン・チョコレート・ファクトリー)」は、世界各地から仕入れた高品質カカオ豆を原料に、18世から伝わる伝統的な製法を用いて「Bean to Bar」でチョコレートを作る工房です。
チョコレートの製作工程を見学できる「ウエリントン・チョコレート・ファクトリー」。チョコレートドリンクを提供するカフェを併設し、ファクトリーツアーも実施(WEBから要予約)。zoom
チョコレートの製作工程を見学できる「ウエリントン・チョコレート・ファクトリー」。チョコレートドリンクを提供するカフェを併設し、ファクトリーツアーも実施(WEBから要予約)。
チョコレートづくりに使うカカオ豆は、すべてオーガニック。ソロモン諸島、フィジー、ペルーなどの産地からフェアトレード(環境保全や社会貢できる商品を、生産者と直接取引すること)で買い付けています。

ガラス越しにファクトリーの様子を眺められ、チョコレートドリンクを提供するカフェを併設。予約制でカカオの産地とチョコレートができるまでの工程を紹介するツアーを催行し、異なる産地のカカオを使い、含有率も違うチョコレートを試食できます。また、アートのように美しい板チョコのパッケージは、地元アーティストがそれぞれの産地をイメージしてデザインしたもの。1枚の板チョコから、カカオの故郷に思いを巡らせるのもなかなか楽しいですよ。
●Wellington Chocolate Factory(ウエリントン・チョコレート・ファクトリー)
5 Eva Street, Te Aro, Wellington
TEL +64 4 385 7555
10:00~17:00(日曜11:00~16:00)
無休
https://www.wcf.co.nz


お店同士のつながりが見えてくると、“エシカル”が楽しく、身近になる!
店の前にテーブルが並ぶベーカリーカフェが「Leeds Street Bakery(リーズ・ストリート・ベーカリー)」。先ほど紹介した「フィックス&フォッグ」にトースト用のパンを提供しているお店です。ベーカリーとカフェが店内でつながっていて、サンドイッチ、マフィンのほか、焼き菓子も並びます。
上/隣の工房から焼き立てのパンが届く、「リーズ・ストリート・ベーカリー」。下/ブラウニー専門店の「ラッシングス」。ノングルテン、ヴィーガンのブラウニーも。zoom
上/隣の工房から焼き立てのパンが届く、「リーズ・ストリート・ベーカリー」。下/ブラウニー専門店の「ラッシングス」。ノングルテン、ヴィーガンのブラウニーも。
この店の名物が、赤ちゃんの顔ほどの大きさがある「Salted Caramel Cookie」。塩キャラメル風味のクッキーはコーヒーとの相性も抜群なので、ぜひ試してみてください。

イエローのペイントに大きく「Eva Street」と描かれたビルの2階にあるのが、ブラウニー専門店の「Lashings(ラッシングス)」。オーナーのジャッキーさんは、ロンドンのミシュラン・レストランでパティスリーシェフとして活躍していた経歴の持ち主。自分が理想とするブラウニーを作りたくて、この店をオープンしたといいます。

ブラウニーに欠かせないチョコレートはすべてオーガニック。特定の地域や農園から採れるカカオ豆から作る、シングルオリジンのものを使っています。表面はさっくり、中身がとろ~りとろけるブラウニーはそのまま食べてもおいしいのですが、店内ではアイスクリームやフルーツソース、ピーナッツバターをトッピングしたコンボ・メニューを味わえます。このメニューに使われているピーナッツバターは、先ほど紹介した「フィックス&フォッグ」のもの。
こんな風にしてハンナズ・レーンウェイに集まるお店は、オーナーや作り手たちが自分たちが必要な部分で緩やかにつながり、エリアを盛り立てています。何軒かのお店を巡り、そのつながりが見えてくると、もっと他のお店も訪ねてみたくなります。
●Leeds Street Bakery(リーズ・ストリート・ベーカリー)
6g/14 Leeds Street, Te Aro, Wellington
TEL +64 4 802 4278
7:30~15:30(土・日曜8:30~15:00)
https://www.leedsstbakery.co.nz

●Lashings(ラッシングス)
1/31 Dixon Street, Te Aro, Wellington
TEL +64 22 611 0756
10:00~22:00(土曜~18:00、日曜~16:00)
月・火曜休
https://www.lashingsfood.com


ウエリントン発祥の老舗スーパーマーケットへ
旅先で足を運ばずにいられないのが、スーパーマーケット。もっともウエリントンらしい店と聞き、1918年創業の老舗スーパー「Moore Wilson's(ムーア・ウィルソンズ)」まで足を延ばしました。ここは各地の生産者から仕入れた生鮮食料品を飲食店などの業者向けに販売するファミリービジネスからスタートした店です。
ウエリントンの老舗スーパー「ムーア・ウィルソンズ」。店内を案内してくれたのは、スタッフのジャックさん。zoom
ウエリントンの老舗スーパー「ムーア・ウィルソンズ」。店内を案内してくれたのは、スタッフのジャックさん。
店内に並ぶのは旬の野菜や果物、魚介や肉から、乳製品、コーヒー豆、オリーブオイル、焼き立てのパンなど。生鮮食料品はできる限りウエリントン近郊で採れたものを、また小さいけれど特徴のある地元ブランドを扱うようにしているのだそう。もちろん、「フィックス&フォッグ」のピーナツバターも並んでいました。倉庫のような店内は生鮮食料品市場という表現がぴったりで、改めてこの街の食の豊かさと多彩さが伝わってきました。
●Moore Wilson's(ムーア・ウィルソンズ)
Corner of Tory Street sand College Street
+64 4 384 9906
7:30~19:00(土曜~18:00、日曜8:30~18:00) 無休
https://moorewilsons.co.nz

ハンナズ・レーンウェイでは、同じ価値観や意識を持った人たちがお互いを尊重し合い、緩やかなつながりをもってそれぞれのビジネスを展開しています。「同じ価値観や意識」とは、生産地と生産者がきちんと潤い、お客さんが喜ぶこと。もちろん、環境に優しく、持続可能であることが含まれます。さらに、その中心にいる人が楽しくなければ、長く続けることは難しいに違いありません。そんな風にみんながハッピーになる方法を考えたら、“エシカル”にたどり着くのではないでしょうか。「世界一、美しい小路」には、ファッションでも流行でもなく、当たり前のように“エシカル”が根付いていることを感じました。

【協力】
ニュージーランド政府観光局 Tourism New Zealand
https://www.newzealand.com/jp/
ニュージーランド航空 AIR NEW ZEALAND
www.airnewzealand.jp
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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