旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2020年2月5日更新
共同通信社 経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

深夜の鉄道トンネル歩きツアーに栄冠 鉄旅オブザイヤー、19年度は“激レア体験”に高評価

△完成まで難工事だった北越急行の鍋立山トンネル=新潟県zoom
△完成まで難工事だった北越急行の鍋立山トンネル=新潟県

 優れた鉄道旅行を表彰する2019年度の「鉄旅オブザイヤー」が2月5日発表され、新潟県の第三セクター鉄道、北越急行で定期列車の運転終了後にトンネルを歩くツアーが最高賞のグランプリに輝いた。準グランプリは、日本唯一の行商人専用列車となっている近畿日本鉄道の「鮮魚列車」を貸し切ったクラブツーリズムの旅行商品。ともにユニークな売りに着目し、通常ならばできない“激レア体験”を提供したことが高く評価された。

△JR九州の日田彦山線のキハ47で鉄道旅行を楽しむ筆者=福岡県zoom
△JR九州の日田彦山線のキハ47で鉄道旅行を楽しむ筆者=福岡県

 鉄旅オブザイヤーは、旅行業界でつくる鉄旅オブザイヤー実行委員会が主催し、JR旅客6社や日本民営鉄道協会などが後援。東日本大震災で落ち込んだ観光を盛り上げようと11年度に始まってから毎年開催し、今回で9回目となった。旅行会社から計85件の応募があり、実行委員会による一次審査を経て、鉄道に詳しい南田裕介ホリプロマネージャー、旅行サイト「Risvel(リスヴェル)」で本コラム「“鉄分”サプリの旅」を連載し、共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに連載されている鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者で、「鉄道なにコレ!?」も連載している大塚圭一郎・共同通信社福岡支社編集部次長の大塚圭一郎ら計12人と1団体の外部審査員が最終選考した。
 大塚は13年度に審査員に就任して以来、7年目。大塚は「審査員を就任時から全くの無報酬で引き受けています」と説明している。 

△北越急行の電車HK100=新潟県湯沢町で筆者撮影zoom
△北越急行の電車HK100=新潟県湯沢町で筆者撮影

 グランプリのツアーは、JR上越線と接続する六日町駅(新潟県南魚沼市)を午後11時40分に出発する北越急行に乗り、午前4時40分に戻るオールナイトの行程。同県十日町市にある途中の美佐島駅から隣のしんざ駅まで長さ2・2キロの赤倉トンネルの線路上を歩いた後、ほくほく大島駅(同県上越市)まで時速5~20キロの“超低速”で走る電車内から探索する。
 目玉となるのは、まつだい駅(上越市)とほくほく大島駅の間にあり長さが9キロを超える「鍋立山トンネル」だ。このトンネルは着工から完成まで22年近く、約300億円もの建設費を投じた国内屈指の難工事として知られる。一筋縄ではいかなかった工事をうかがわせるのが、トンネルの断面だ。
 最高時速110キロで駆ける超快速「スノーラビット」に乗っていれば短時間で通過するため気が付きにくいが、“超低速”で走って解説も付くため区間によって卵形や馬蹄形などに分かれているのをじっくり見学できる。特製ヘルメットと、地元の南魚沼産コシヒカリのおにぎりの夜食付きで、参加料金は1人9千円。

△グランプリを受けたツアーの参加者が歩いた赤倉トンネル=新潟県zoom
△グランプリを受けたツアーの参加者が歩いた赤倉トンネル=新潟県

 40人の募集に対して5倍の希望者が集まって抽選となり、参加者の8割が新潟県外からで、遠くは九州や鳥取県、大阪府からも訪れた。北越急行はかつて東京と富山や金沢の間を移動するのに上越新幹線と乗り継ぐアクセス線として利用され、大半が赤字経営の三セク鉄道の中で黒字を続けてきた“優等生”だった。しかし、2015年3月に北陸新幹線が長野から金沢へ延伸すると利用者が流出したことで赤字会社に転落し、2018年度の経常的なもうけを示す経常損益が5億2200万円の赤字に陥っている。赤字削減に向けて今回のような意欲的なツアーを企画しており、大塚は「新たな『ナイトタイムエコノミー』の旅行商品を生み出したのが画期的です」とコメントした。
 準グランプリの商品が目玉にした鮮魚列車は、三重県の海産物を大阪方面へ運ぶ行商人を乗せて宇治山田(三重県伊勢市)から大阪上本町(大阪市)まで平日の早朝に駆けている。普段乗車できるのは伊勢志摩魚行商組合連合会の会員だけで、貸し切り運転のツアーを催行することで一般消費者に門戸を開いた試みが受け入れられた。
 JRグループと自治体が手掛ける大型観光企画「デスティネーションキャンペーン(DC)」の開催地への旅行を対象にしたDC賞には、熊本DCを開催中の昨年8月23~26日にJR西日本の欧風客車「サロンカーなにわ」を貸し切って熊本市を訪れた日本旅行の商品を選出。往路は大阪駅から熊本駅、帰路は博多駅(福岡市)から大阪駅までそれぞれ夜行運転した。

△DC賞を受けた欧風客車「サロンカーなにわ」をけん引した貸し切り列車=福岡市で筆者撮影zoom
△DC賞を受けた欧風客車「サロンカーなにわ」をけん引した貸し切り列車=福岡市で筆者撮影

 一方、審査員特別賞に選ばれたのは、福島県・会津地方を貸し切りバスで訪れて11年7月の福島・新潟豪雨で一部区間が不通となっているJR東日本只見線を訪れるなどした読売旅行の商品。初めての受賞となる旅行会社を対象としたルーキー賞には、東日本大震災で被災した岩手県の三陸鉄道全線に乗り、貨物専用鉄道の岩手開発鉄道を訪れてディーゼル機関車や貨車を見学する朝日旅行のツアーが輝いた。
 大塚はルーキー賞を受けたツアーに「「鉄道版・奥の細道」と呼ぶべき東北地方のユニークな路線を幅広く探索しながら、東日本大震災からの復興が進む被災地の応援もできる好企画です。1992年の旅客営業廃止後は太平洋セメントの工場へ石灰石を運ぶ貨物専用鉄道となった岩手開発鉄道を見学し、総距離163キロと日本一長い第三セクター鉄道になった新生・三陸鉄道の全線を走破でき、「鉄旅オブザイヤー」の進行でもおなじみの鉄道通、久野知美アナウンサーと南田裕介ホリプロマネージャーの興味が尽きないお話も聞けるなど中身満載の2日間は、まるで“鉄道旅行のフルコースメニュー”のような豪華さです!」とのコメントを寄せた。

△鉄旅オブザイヤー授賞式で紹介された筆者のルーキー賞に対するコメント=2月5日午後、さいたま市zoom
△鉄旅オブザイヤー授賞式で紹介された筆者のルーキー賞に対するコメント=2月5日午後、さいたま市

 一般消費者から企画を募る部門には50件の応募があり、ベストアマチュア賞には群馬県の名物や歴史、出身人物を札にした「上毛かるた」を学びながら、世界文化遺産の富岡製糸場(富岡市)といった名所を巡る前芝雄太さん=千葉県在住=の企画を選んだ。
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社 経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月、東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月に社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。2024年9月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を積極的に執筆しており、英語やフランス語で取材する機会も多い。

日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、旧日本国有鉄道の花形特急用車両485系の完全引退、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載「鉄道なにコレ!?」と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。

本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)、カナダ・バンクーバーに拠点を置くニュースサイト「日加トゥデイ」で毎月第1木曜日掲載の「カナダ“乗り鉄”の旅」(https://www.japancanadatoday.ca/category/column/noritetsu/)も執筆している。

共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。
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