ブロードウェイで何を観る？　演目ガイド2019

ミュージカルの本場といえばニューヨークのブロードウェイとロンドンのウエストエンドですね。舞台好きでなくとも、この2都市を訪れたなら「ミュージカルでも観てみようか」という気分になるのではないでしょうか。限られた日程の中で何を選ぶべきか、そんなときのヒントになる情報をお届けします。

今回はまずニューヨーク。ブロードウェイではオン・ブロードウェイの主要劇場だけでも40程あり、毎年40前後の新作が公開されています。（ブロードウェイの公式団体The Broadway Leagueウェブサイト公開の統計資料より）演目の入れ替えが頻繁に行われているため、ガイドブックなどではロングランを続ける代表的な作品を紹介することになり、新しい作品はまだ載せられていないという場合もあります。そこで、今年ブロードウェイで何を観るか？という観点で、お勧めの演目を紹介させていただきます。

ブロードウェイ・ウォッチャーが参考にするのはトニー賞の情報です。トニー賞とは、こちらの公式サイトに詳しくあるように、毎年対象期間内に約50の対象劇場で公式オープニングを迎えた新作とリバイバル上映のミュージカルや演劇を対象に、業界関係者の中から選ばれた約50名が全て鑑賞したのちにノミネート作品を選定し、最終的には投票権を持つ831名の投票結果で受賞作品・者が決定されるものです。ミュージカル作品賞（Best Musical）やミュージカル主演男優賞（Best Performance by an Actor in a Leading Role in a Musical）、演劇作品賞（Best Play）など、26の部門が設定されています。プロの目が選んだトニー賞の情報は、やはり参考になります。それに加えて、次にご紹介する要素を考慮してみてはいかがでしょうか。　

演目選びの基準は？

①　何曜日に観るか、昼間（マチネ）か夜（ソワレ）か
まずは現実的な観点から、「ニューヨーク滞在中の何曜日のどの時間帯をミュージカル鑑賞に使うことができるのか？」という問いからスタートすると旅のプランが立ちやすくなります。この時に役立つのが舞台ガイドを発行するプレイビル「Playbill」の公式サイトで公開されているブロードウェイの週間上映スケジュールです。

Weekly Schedule of Current Broadway Shows
http://www.playbill.com/article/weekly-schedule-of-current-broadway-shows-com-142774

かなり大雑把にまとめると、月曜日は上映する演目が少なく、水曜日と土曜日は昼と夜の2回公演が多く、日曜日は昼1回のみ上演のパターンが多い、となります。ただ、水曜日が休演で月曜と日曜の夜公演がある「シカゴ」などの例外もあります（2019年8月現在）ので、各劇場の公式サイトやプレイビルの公演スケジュールのページで事前に調べておくと安心です。

②　歌、ダンス、ストーリー・・・　何を重視するか
次に観劇の目的です。ミュージカルの中でも歌が有名なもの、踊りがユニークなもの、映画化されるなどして、ストーリー自体が有名なもの、ジョークがたくさんのお笑い重視のもの、ファミリー向けのディズニー作品など、さまざまです。また、ブロードウェイにはミュージカル以外にも演劇作品がありますので、それを選択肢に含めるとさらに作品の幅が広がります。演目を選ぶ際に重視する要素を決めておくと良いかもしれません。なお、ストーリー重視の際は、英語の難解度を考慮に入れるのも一考です。概して演劇作品のほうがミュージカルよりもセリフが難解です。また、ジョークが多いコメディ作品も意外と高度な英語力を要します。映画化されている作品に関しては、旅行前にDVDで予習をしていくというやや真面目な対策も効果的です。

③　誰の満足度を重視するのか　
一人での観劇なら問題ありませんが、友人同士やご家族での観劇の場合、グループの中の誰の満足感を重視するかというのも、重要な要素です。たとえば小学生のお子さんが楽しめる内容を重視するなら、定番のディズニー作品（ライオンキング、アラジン、アナと雪の女王）が有力候補になるでしょう。これら作品は大人も十分に（時にはお子さん以上に）楽しめるほど歌もダンスも舞台芸術も素晴らしい作品ばかりです。

上記３つの基準で考えると、たいていの場合はターゲットとなる演目を絞り込むことができます。あとはチケットが入手できるか、予算はどの程度か、という経済的な観点を加えることになります。

以上を踏まえて、2019年8月時点で上演中の演目からいくつかおすすめ作品をご紹介します。（★の評価は私的な感想・判断ですのでご参考程度に御覧ください）

タイムリーな話題作を選ぶなら、間違いなく「Hadestown」を挙げます。英語読みだとヘイデスタウン、カタカナではハデスタウンと表記されています。ギリシア神話の中の黄泉の国の王、ハデスが支配する街、という題名です。今年のトニー賞でミュージカル作品賞のほかミュージカル助演男優賞、ミュージカル演出賞など、最多8部門を受賞しました。個性的な俳優陣やオリジナル楽曲、独特な舞台装置が魅力です。

楽曲オススメ度 ★★★★☆
ダンスおススメ度★★☆☆☆
衣装の美しさ ★★☆☆☆
舞台芸術 ★★★☆☆
英語難度 ★★★☆☆
https://www.hadestown.com/

舞台芸術と演出、そして歌を重視するなら、2018年トニー賞のミュージカル作品賞にノミネートされた「FROZEN（アナと雪の女王）」もきっと満足できるでしょう。お子様にも絶大な人気があります。アニメーション映画の数々の名場面を舞台上に再現する手法は素晴らしく、感動的です。
楽曲オススメ度 ★★★★☆
ダンスおススメ度★★☆☆☆
衣装の美しさ ★★★☆☆
舞台芸術 ★★★★☆
英語難度 ★★☆☆☆
https://frozenthemusical.com/

ミュージカルではなく演劇ですが、ストーリーや仕掛けの面白さでは、ハリー・ポッターも素晴らしいです。2018年トニー賞の演劇部門作品賞を受賞しています。おススメ演目なのですが、前後編を両方見ようとすると、2日がかりもしくはマチネのある水・土に、１日2回観ることになりますので、時間に余裕のある方向けです。ストーリーはハリーたちの世代が大人になり、子供たちがホグワーツ魔法学校に通っているという設定です。ストーリーをあまり口外してはダメ、というルールになっているので、あまり書けませんが、あえて二度伝えたいのは、ミュージカルでは無いということ。歌も踊りも含まれない演劇作品で、セリフは少し難解です。

Harry Potter and the Cursed Child Play（ハリー・ポッターと呪いの子）
衣装の美しさ ★★☆☆☆
舞台芸術 ★★★★★
英語難度 ★★★★☆
https://www.harrypottertheplay.com/us/

舞台芸術の面白さを重視するなら「King Kong」も候補に挙がりますが、なんと8月18日を最後にブロードウェイ公演の終了が発表されました。（8月18日終了チームは他にもザ・シェール・ショー、プリティ・ウーマンなどがあります）。キングコングの舞台は日本でも上演される予定と報道されていますので、詳細情報の発表を待ちたいと思います。舞台の大半を占拠してしまうほどの大きな大きなキングコングは、黒子のような運動神経抜群のスタッフが上手に操ることにより、まるで生きているかのように動きます。繊細な表情も見どころです。

楽曲オススメ度 ★★☆☆☆
ダンスおススメ度★★☆☆☆
衣装の美しさ ★★☆☆☆
舞台芸術 ★★★★★
英語難度 ★☆☆☆☆
https://kingkongbroadway.com/#home

音楽重視なら、こちらも話題作。テンプテーションズの活動と半生を描いた「Ain’t too Pround～」筆者が未観なので詳細情報をお届けできず恐縮ですが、信頼できるミュージカルファンが太鼓判を押していましたので、満足度は高いでしょう。
https://www.ainttooproudmusical.com/


もうひとつ映画を元にした作品としては、冒頭に触れた「Tootsie」があります。今年のトニー賞でサンティーノ・フォンタナが主演男優賞を受賞したことでも話題になりました。売れない俳優が女装をして女優として花開く。笑い満載の楽しい作品です。
楽曲オススメ度 ★★☆☆☆
ダンスおススメ度★★☆☆☆
衣装の美しさ ★★★☆☆
舞台芸術 ★★★☆☆
英語難度 ★★☆☆☆

SNSをテーマにしており、今の時代を表す作品として若者に人気の「Dear Evan Hansen」もおすすめです。主人公はさえない高校生で、同級生が自殺してしまうという悲しいストーリーながら、楽曲が素晴らしく、かつ日常会話の中のリアルな心の葛藤を丁寧に描いた感動的な作品に仕上がっています。ジーンズにTシャツという衣装ですので華やかさはないですが、SNSをテーマにした舞台セットが斬新かつ効果的で見ごたえがあります。
楽曲オススメ度 ★★★★☆
ダンスおススメ度★★☆☆☆
衣装の美しさ ★☆☆☆☆
舞台芸術 ★★★☆☆
英語難度 ★★☆☆☆
https://dearevanhansen.com/

始まったばかりの最新ミュージカルと言えば、「Moulin Rouge! The Musical（ムーラン・ルージュ）」です。筆者もまだ観ておらず感想を紹介できずに恐縮ですが、前にキンキー・ブーツが上演されていたアル・ハーシュフェルド劇場（Al Hirschfeld Theatre）で7月末にグランドオープニングを迎えました。（写真は5月に劇場前を通った時のcoming soonの看板）
映画版で主役を務めたニコール・キッドマンがブロードウェイで観劇して最高の賛辞を送ったとも報じられ、評判は上々のようです。
https://moulinrougemusical.com/


その他定番の「The Phantom of the Opera（オペラ座の怪人）」や「Chicago(シカゴ)」が素晴らしいのは言うまでもありません。ブロードウェイを訪れる際は、ぜひご自分にあった作品を選んで、素晴らしい時間をお過ごしください。

The Phantom of the Opera（オペラ座の怪人）
楽曲オススメ度 ★★★★★
ダンスおススメ度★★★☆☆
衣装の美しさ ★★★★★
舞台芸術 ★★★★★
英語難度 ★★☆☆☆
https://us.thephantomoftheopera.com/

Chicago(シカゴ)
楽曲オススメ度 ★★★★☆
ダンスおススメ度★★★★★
衣装の美しさ ★★★☆☆
舞台芸術 ★★☆☆☆
英語難度 ★★☆☆☆
https://chicagothemusical.com/

最後に、ブロードウェイ公演が終わった作品は、そのあとキャストを少し入れ替えて全米ツアーやワールドツアーに出ることもあるので、出張で訪れたほかの街でばったり遭遇する、なんてこともあります。お目当ての演目のブロードウェイ公演が終了していても、あきらめないで、いつかどこかでめぐり逢えるかもしれません。