旅の扉

  • 【連載コラム】空旅のススメ
  • 2018年3月14日更新
あびあんうぃんぐ
航空ライター:Koji Kitajima

旅立つ航空機は人が支える「天草エアライン」

お子さんに向けるまなざしが優しい吉村社長zoom
お子さんに向けるまなざしが優しい吉村社長

日本の定期航空会社は、19社。機材規模では新中央航空が小さいのですが、複数を所有しています。それに対し、天草エアラインはATR機一機のみ。機体数では文句なしの最小エアラインです。この「一機だけ」がゆえに会社の資産を大事にしようという気持ちは強いようです。「飛行機は人が飛ばす」ということを感じることのできる環境で運航していました。

空港にて
「乗るだけ運賃」に挑戦する人は、朝7:55発の始発便出発に合わせて天草空港に集まります。空港ビルの二階には、小さいながら展望デッキがあって、近くに駐機するATR42-600型機を眺めることができます。
空港ビル前の芝では朝露が凍るほどの寒い空港の駐機場で、出発前の準備が行われていました。それが普段空港で見る様子と違います。

お湯を浸したバケツを持った男性社員が、雑巾を絞り上げて機体を磨き始めるではありませんか。湯気の上がる駐機場は気温3度ほど。確か、このエアラインは社員が月一回全員集合して機体を掃除するという話を聞きましたが、今回はお一人だけ。これは、普段から同じように磨いているのだと知り驚きを感じます。社員のお陰で美しく光る機体に「乗せて貰う」気持ちで、保安検査場へ向かいました。

寒い冬の朝の機体掃除 zoom
寒い冬の朝の機体掃除 

保安検査場にて
チェックインカウンターは、二人が同時にチェックインできるスペース。
天草エアライングッズなども並びます。ベース基地として、一日8便を飛ばす場所として、最初にお客様が触れる場所。機内持ち込み手荷物置き場もあり、社員の工夫が生きています。カウンターの横が、保安検査場への入り口です。
小さな空港は、旅客の動線も分かりやすい。壁を隔てた検査場に足を踏み入れると、そこにいる係員も青い天草エアラインの制服を着用しています。
普段、保安検査は委託を受けた警備会社が受け持つものと認識していましたので、ここまでエアラインの社員でできるのだと感心することしきり。

天草空港内 チェックインカウンターzoom
天草空港内 チェックインカウンター

いざ搭乗へ
この空港は、手作りのものが多くあります。
展望デッキには、お見送りのボード。駐機場では、機体に向かうと乗り口を示す「搭乗口」の看板。身近なエアラインとして地元民に愛されているのだなとわかります。旅行者は、その思いの一端にふれることが出来る。これが旅の楽しさだと思いつつ機上の人へ。

機内へ
ATR機は、48人乗り。自蔵タラップは、段差を少なくする別のスロープが付きます。このスロープは重そうなのですが、地上係員が運んでいます。機内に入ると、そこがギャレー。そしてすぐに客席と繋がります。
客室乗務員さんは「居場所が無いぞ!」と言わんばかりに小さくなっています。席に着くと、窓の外はターミナルビルの前に並ぶ社員の姿が見て取れます。その数、ざっと6~7人。出勤する全員でお見送りです。
「楽しい旅を」「いってらっしゃい」などと手書きのボードを持って、皆さん直立不動。自然に手を振り返している自分がいました。
到着時は、お客様の動線に合わせて設置される、目印のカラーコーンとコーンバー。台車に載せたものを社員が手際よく置いていきます。

お客様誘導のコーンを社員が設置zoom
お客様誘導のコーンを社員が設置

サービスなど
ラバトリーとギャレーは機体後方にあり、機体前方に設備はありません。お客様用のストレージがあるだけ。機内安全デモで使う小道具は、客室乗務員の腰に付けられた収納バッグに入っています。これも皆で工夫して作り上げたもの。大手エアラインでは見掛けない光景があります。

短い路線では茶菓サービスが無い代わりに、就航地のイラストマップを配布して、お客様とコミュニケーション。熊本⇔大阪伊丹の路線は片道が1時間を超えるので、時期によって内容は変わりますが熊本みかんジュースと黒糖ドーナツ棒が配られます。
くまモンの赤と黒のエプロンを着用した客室乗務員は、笑顔を振りまき、時に写真に納まったり、お客様を撮影したりと忙しそう。
笑顔が普通以上に明るく自然なのは、実際に生活する街なかで出会ったりする人と機内でも会う機会があるから。実際に「あさって、また乗るからねえ」と言い残して降りて行くお客様がいました。

機内で日常会話のできるエアラインzoom
機内で日常会話のできるエアライン

天草空港ビルに入ると、そこは手荷物引き渡し所。機体から降ろされた荷物は、社員の手でお客様の手元へ。どのシーンでも、天草エアラインの社員がそばにいます。

吉村社長に聞く
天草空港に到着するフライトで吉村社長が降りて行くお客様に搭乗お礼の挨拶をしています。子供に手を振って見送った後の社長にお話を聞くことができました。
天草エアラインを知る人なら誰もが抱く疑問だけれど、聞きにくい質問を投げかけてみました。手腕を発揮して話題になり、多くの書籍にもなった奥島社長の存在。その後任では、比べられてやりにくいのではと聞いてみましたが、そうでもない様子。奥島社長の残した功績は大きく、それを継いで広げていくのが自分の仕事ときっぱり。JALとのコードシェアや同じATRを持つJACとの整備協定など実績も増えてきました。天草空港の運用時間目いっぱいを使い、一機での運航は構造的に事業規模の拡大は難しい。よって、社員は多くのアイデアを生み出していく。それを形にするのが社長の手腕です。

事務所内での吉村社長zoom
事務所内での吉村社長

現在の搭乗率約50%を早くに60%に上げたいと意気込みます。
年間提供座席数17万席ほど。現在8万席売れている席を早々に10万席にするのが目標です。重整備やパイロットの定期訓練などで、どうしても欠航を余儀なくされますが、島民の利便性を考えて、なるべく欠航率最小を目指します。標高100mの台地にあり、霧もある空港です。ILS(計器着陸装置)は無いので、運航条件は厳しいです。会社をひとことで言って貰うと、「命の翼」でもあると。医者が少ない天草で、福岡などから派遣してもらうのに、足となっています。

社員の総合力を結集して今日も飛んでいます。
色々な想いを持って旅立つ人をいつも応援してくれるエアラインとして。

協力:天草エアライン
⇒ https://www.amx.co.jp/

航空ライター:Koji Kitajima
大阪府出身。幼少期より空への憧憬の念を持ったまま大人になった、今や中年の航空少年。
本業のかたわら情報を発信しています。週末は航空ライター兼ブロガーとして活動中。
旅のモットーは、「航空旅行を楽しまないと旅の魅力は半減です。旅の楽しみは空港から始まる」です。

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