旅の扉

  • 【連載コラム】coffee x
  • 2017年3月23日更新
アムステルダムカフェより
カフェエッセイスト:安齋 千尋

Coffee x Pladib

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I know why, I just I wish you would have been.
People just have an affair or even entire relationships. They broke up and they forget, they move on, like they would have changed brand of cereals.
I miss and will always miss. You can never replace with anyone because everyone is made of such beautiful specific details..Just so you know, you were much more to me. I don’t know what they say, but is worth a thousand with anybody. I’ll never forget that I love you even tomorrow in other arms. Let me sing you a waltz
- "Before Sunset” by Richard Linklater
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Bangkok-
熱風と屋台、プールに落ちる大きなプルメリアの花、ファランと呼ばれる西洋人とアジア人の不自然なカップル、可愛くておしゃべりな女の子たち。長期の仕事の契約をして、バンコクに来ています。ようやく喧騒から離れて、休日のカフェ時間。35度の昼下がり、とても大きな扇風機の横で、グラスの水滴がみるみる水たまりになるのを見ながら時間をやり過ごしています。つまらなそうに聞こえるけれど、暑さとは反対に気持ちが静かなのです。きっと花は弱くて暑さにとても耐えられないのでしょう、大きな葉がガラスの器に活けられて涼やかで凛としていること、注文したコーヒーとエッグベネディクトが秀逸なこと。大きなどっしりした木のドアは開き戸で、入ってすぐお店の真ん中でカゴに入ったライムが売られているところも、タイの強くて酸味のあるコーヒーも気に入っていて、大きな声で、いらっしゃいませと言わないところや、冷房があまり入っていなくてちょうどいい生ぬるい感じなところもお気に入りです。透明感があって、静かで、コーヒー豆を挽くたびにコーヒーの香りがしていいカフェをつけた時の幸せな気持ちは世界中どこを旅しても同じです。
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Bangkokはどんな街かというと、日本の真夏の景色です。家を一歩出た時の蒸し暑さや、眩しすぎる太陽、仕事の後のビールや、夏祭りの屋台、足元に食べた後の串が落ちていたり、夕方になると風が吹いて来るような、私は日本を離れていたので忘れていたような夏の活気にあふれています。毎日が縁日のようで、屋台が朝から晩までひしめいていること。やみつきなココナツミルク。特にうーん美味しい!となったのは、甘く煮たサツマイモにあったかいココナツミルクをかけるのと、もち米とマンゴーにココナツミルクをかけるデザートです。香りも良くて、その秘密はバナナの葉を入れて煮詰めるところにあるそう。アジアな感じもなんかいい、ってことでチープなのに美味しすぎる屋台な週末の午後のつまみ食い。解放感でいっぱいなOL in Bangkok.
ヨーロッパと一番違うところは家です。私はCondominiumという高層マンションに住み、ジムとプールがついていて駅直結という恵まれた環境に暮らしています。駅近という点では、まだ体験していない雨季を考慮したのですが、セブンイレブンの存在や自転車を停めることない便利さを謳歌する反面、朝の凍えそうな寒さの中自転車を走らせたり、風に逆らいながらも季節の変化を感じながら通勤していたAmsterdamは懐かしく、手袋の上から手を繋いで競争しながら帰ったことも、もう戻らないと思うと悲しくなってしまうことには嘘がつけないのでした。この街ではトゥクトゥクとMotorcycle Taxiというアジアな光景に出会います。仕事の用事で、スーツを着て後部座席に乗るバイクタクシー。車の間をすり抜けて、直射日光と排気ガスの中、時には歩道をも走るこの乗り物は、1km~1.5kmくら20バーツで、つまりは60円のありがたい乗り物です。住んでいるCondominuimによっては専用のTukTukを持っていて迎えに来てくれるところもあるという”タイあるある”を楽しみつつ炎天下の新しい街の日常です。
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ふたたび一人時間が増えた新しい環境では、映画を見ましょうか、ということで冒頭の引用は、Richard Linklaterの3部作、Before Sunrise, Sunset, and Midnightより。有名なロマンチックな作品でありながら、俯瞰すると大掛かりなクルーを用意しているわけではなく、実際の登場人物は二人で、言葉を使ってお互いを理解したいという、この監督特有の印象的なセリフがたくさん散りばめられています。Viennaで出会った二人が一晩だけの時間を、地球上にここだけ照らし出されたようなミラクルなデートをする第1章。寒い2月のRotterdamの船着場のことを思い出していました。毛皮のコートを着ている私を抱き上げる彼とガス灯と船のライトアップ。くるくる笑いながら、この夜が明けたら魔法が解けるのではないかと思った人生の中でも大切な一場面を思い出してはまたさっと蓋をするのでした。さて、タイの映画事情。先日、Bangkokにて初めて映画館へ行きました。久しぶりの大きなスクリーンの映画館で、バケツのようなポップコーンを抱えなぜか普段なら絶対に選ばないキングコングを見るという謎は、なんだかこの街らしくておかしくなります。タイの映画館では、予告の後、国王に礼を捧げるため全員起立する時間が3分ほどあります。知らない人にはびっくりすることですが、国王の生い立ちの映像が感傷的な音楽とともに流れ、敬意を表してみんな立ち上がるのでした。
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Bangkokを舞台にした映画、サヨナライツカは私にとってこの街をとても特別にしています。

サヨナライツカ 永遠の幸福なんてないように 永遠の不幸もない いつかサヨナラがやってきて いつかコンニチワがやってくる 人間は死ぬとき 愛されたことを思い出すヒトと 愛したことを思い出すヒトとにわかれる 私はきっと愛したことを思い出す

”好青年”と恋に落ちる女性を演じる中山美穂さんがとても美しいのですが、激しい生涯忘れられない恋のこと。汗を流すシャワーの場面、車の喧騒の中ネクタイを外す姿や野球大会さながらに、先日も帰任する商社マンの方々にお会いして、心の中で映画みたいだなと思うのでした。サマーセットモームスイートがあるかどうかわかりませんが、英国調の建物のミント色がとてもとても素敵なマンダリンオリエンタル。チャオプラヤ川を渡ってマンダリンの前に船をつける場面は、ゆらゆらと光が眩しくて、いつも少し霞んだ灼けるような日差しと、時折吹く風に揺れる大きな葉や鮮やかな花が涼やかさを醸し出してノスタルジックな美しさなのですが、まさにブログを書きながら、私の中でも新しい出会いと過去への懐かしさが行ったり来たりするようです。パリパリのバケットにのせる前から溶けていくバターを塗って、やんわり聞こえるちょっと前のサーフミュージックを聴きながら、カフェPladibより。
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Roasting Division of PladibBTS station Ari駅より徒歩10分
Address:1/1 soi areesamphan 7 phraram 6 bangkok 10400
website: http://www.pladibrestaurant.com

サヨナライツカ(監督・脚本 辻仁成)
Trailer Eng subtitle version: https://youtu.be/Wza3d4fupyw
Teaser version directed by John H Leehttps://youtu.be/4PyI7IU4EGU

カフェエッセイスト:安齋 千尋
Amsterdamに住んでいます。外国で暮らすため、京都で仲居をしながら学んだ日本、Londonでの宝物の出会いがありヨーロッパにきて10年以上が経ちました。世界中どこにいてもいいカフェに出会うことがとても楽しみです。入った瞬間の香り、音、新聞、いつものバリスタと目が合うこと、私の日々の幸せな瞬間はカフェにあります。
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