旅の扉

  • 【連載コラム】coffee x
  • 2016年8月13日更新
アムステルダムカフェより
カフェエッセイスト:安齋 千尋

Coffee x Terre des hommes by Saint-Exupéry (@Koffie Academie)

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A sheet spread beneath an apple-tree can receive only apples; a sheet spread beneath the stars can receive only star-dust.

崖の上の教会にて嵐が過ぎ去るのを待っています。
空は真っ暗なわけではなく、風が強くなってきたことと遠くに灰色の雲が動くのは通り雨と雷の証拠、と空を読みます。眼下に広がる海には、小さなプライベートボートもまた雨宿りに集まってきました。このボートの数よりもたくさんのキスを受け、稲妻が轟くテントの中や、波の音がする砂浜の昼寝、毎朝BARでEspressoを飲みながら地図を広げる旅の思い出。去年のサルデーニャ島で拾った貝殻でピアスを作りました。私と彼の名前を鉛筆で書いて今年海岸で拾った石にのせてみたらシンプルであんまり綺麗で、彼が得意げに語るどうして海岸のガラス片は角が取れて丸くなるのでしょう、を思い出しながら眺めています。ひとりの旅も好きですが、共有すること以上の幸せはないと思う2016年の夏休みです。
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今日はAmsterdamのカフェKoffie Academieよりブログを書いています。
Overtoomという大通りに面しているにもかかわらず、天井の高さと広い店内、墨のようなカサっとした黒い店内の色調、気取らない温度のカフェ。まるい手のひらに収まるカップとドライフルーツのパウンドケーキを食べながら、オランダは冷夏で今朝も11度、秋の気配さえするので、サンサンとテラス席のあるカフェよりも、ほんのりあったかいカフェで、ずっと頭から離れない本のことや、ニュース、なぜかあんまり盛り上がらないオリンピック、イチローの3000本安打の記事、母とのSkype、そして夏休みの思い出。静かなカフェ時間が流れています。
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星の王子様の作者サン=テグジュペリの本、『人間の土地』のことをずっと考えています。夏の思い出ががまだ日に灼けた肌に残るうちにどうか目に映る光景が消えませんようにと。
作者は、1962年にフランス航空会社のテストパイロットとして、のちに郵便機のパイロットとしてToulousーSaharaとを飛行していました。不時着した砂漠での経験をもとに、サハラ砂漠の奴隷について考える箇所があります。老いた奴隷はこれ以上働くことができなくなると主の元を去ります。カラカラに乾いて力尽き砂漠の真ん中で死んでいくのを待つことが当時の奴隷の宿命でした。子供達がまだ生きているかどうか面白がて見に行くという、ではー死んでいく奴隷の脳裏に何が浮かぶのかという問いがかけられています。
きみが、きみのバラの花をとても大切におもっているのは、きみがその花のために時間を無駄にしたからなんだよ、心にしんと響く一節は星の王子様より。人間は誰か大切な人と共有することができる思い出があることと、人や社会に自分の役割の責任を見出すことで生きている意味を見出すのではないでしょうか。でも仕事で何かを成し遂げたことよりもきっと、その人の人生が短くても長くても、宝物の記憶を共有する大切な人と築いた時間ほど大切なものはないように改めて思う夏の旅でした。
Nothing can match the treasure of common memories, of trials endured together, of quarrels and reconciliations and generous emotions. It is idle, having planted an acorn in the morning, to expect that afternoon to sit in the shade of the oak.
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夏休みは今年もイタリアにいました。
Milanoからレンタカーを借りてLiguria地方 Genova~Levanto~Cinque Terre~Lake Iseoへ。
旅のブログなので、旅の日程やルートを書くべきなのだろうと思いますが、私のblog「Coffee x」ではきらめく3つの素敵な場所の記憶を紹介します。

<Cascina Vicentini>
モカエクスプレスで淹れたコーヒーと温めてくれた牛乳、朝からAirbnbのオーナーが焼いてくれたレモンのガレット。アプリコットと桃が並ぶ甘い甘いイタリアの朝ごはん。もう食べられないねと、ハンモックに並んでAlfiano Nattaの丘を眺める1日目の朝。太陽も、庭になっているトマトもたくさんの種類のバラも気に入ってしまった宿です。オーナーと、お茶に来ていたその友人の女性たちの手にキスをする私の彼に、一瞬恋に落ちるように目を細めるこのイタリア人のおばさんたちにを見送られながら、あんまり幸福な光景にhappy ne、と相手の目を見て言うのでした。車でしか行かれないB&Bですが素敵なオーナーのプロジェクトとともに是非また訪れたい場所です。写真はここで撮ったものですが、写真には収まらない広い丘とお気に入りの刺繍のワンピースとともに思い出がよみがえります。
<Levanto>
世界遺産のCinque Terreの入り口にある町でここからフェリーか鉄道が出ています。小さな町ですがとても気に入っています。毎朝同じBARでEspressoを頼み、朝の静かな海に沖まで泳ぎだしました。前を泳ぐ彼の姿と水の青とキラキラの泡、コポコポという水の音しかしない空間。昼寝をしてジェラートとフォカッチャを食べ比べながら何度も同じ通りを歩きました。この辺り一帯Liguriaという地域はバジルのソースPestoが有名で良質のオリーブオイルとバジルの香りのレストランで旅の思い出を話す夕食の時間でした。
<Lake Iseo>
ミラノに戻る前の日、キャンプをした湖です。人が賑わう海からやってきた私たちにエメラルド色と崖に囲まれた静寂は神秘的でした。夜は雷が鳴ってテントの中は雨の音と光でロマンチックでしたが、朝起きると快晴で、パンナコッタとサラダを注文してエスプレッソを湖のほとりで飲む最終日、ずっと運転をしてくれていて疲れているかもしれなかったけどドライブで湖を回ってから帰ろうかっと少し長めに時間を取ってくれました。空港には十分に時間を持って着いたのに、ラストコールをされる余裕の二人。いつもはAmsterdamの空港に着陸すると、ここはまた私の家ではないことに孤独を感じるものですが、機内のクーラーの下で彼がジャケットを貸してくれるくすぐったさをかみしめながら、優越感というときっと悪いようですが、いい旅だったねと言いながら一緒の電車に乗る帰り道は幸福でした。
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日本ではもうすぐお盆休みで、京都にいた時には15日の五山の送り火が終わるともう夏も終わりねと言ったものです。なぜかお盆を過ぎるとクラゲが出るから海に入れないとか、私たちの国には趣深い習慣があるものです。Amsterdamに帰ってきて、シェフの友人宅でお酒と冷しゃぶ&深川めしで夏を味わいました。デザートにガトーショコラとコーヒーを淹れてくれる友人は、残暑を一緒に過ごす口福なおともだち。そして今年も楽しみにしていた星空の下で見る映画Pluk de Nacht。ニュースになるほど寒かった夜、もうすぐ帰国してしまう友人と、間に合って仕事の後に来てくれた彼と毛布にくるまって見た映画は、Fukushima mon amourという、桃井かおりさん演じる芸妓の女性とドイツ人の女性が福島の震災地で交流する映画です。もちろん福島の悲しみを背負いながら、でも笑ってしまう日本の女性の礼儀作法のこと。冷えた夜空の下に映し出された白黒の映像を3人で見ていました。日本特有の、幽霊が人を違う世界によぶ、という考え方や塩を盛る習慣。ああそうだったな、お盆の季節ってと思うのでした。今年死んでしまった彼の犬が無事にうちに帰ってこられますように。それから、なかなかお墓まいりに行かれないわたしのぶんもどうぞよろしく弟よ、です。旅に出る前に買ったリュックサック楽しみすぎてでもおしゃれでいたいとこだわって、また旅の後にお世話になったエキストラ効く虫刺されのお薬の写真は夏の思い出の一枚です。
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Cascina Vicentini
http://www.lorenzavicentini.it/eng/index_eng.html
ミラノから車で1時間45分のMonferratoというエリアにあるB&Bです。丘陵を見渡す庭はバラとハーブや野菜園になっています。
Liguria地方(イタリア)
https://en.wikipedia.org/wiki/Liguria
Lake Iseo
http://www.iseolake.info/en/
Koffie Academie
Overtoom 95, Amsterdam,1054HD
https://www.facebook.com/Koffieacademie
サン=テグジュペリ『人間の土地』
https://ja.wikipedia.org/wiki/人間の土地
カフェエッセイスト:安齋 千尋
Amsterdamに住んでいます。外国で暮らすため、京都で仲居をしながら学んだ日本、Londonでの宝物の出会いがありヨーロッパにきて10年以上が経ちました。世界中どこにいてもいいカフェに出会うことがとても楽しみです。入った瞬間の香り、音、新聞、いつものバリスタと目が合うこと、私の日々の幸せな瞬間はカフェにあります。
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