旅の扉

  • 【連載コラム】coffee x
  • 2015年9月5日更新
アムステルダムカフェより
カフェエッセイスト:安齋 千尋

Coffee x サルデーニャの夏休み

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人生は、どうしても妥協するわけにはいかない本質的に大切なものがすこしと、
いいよ、いいよ、そんなことはどっちでも、ですむようなことがどっさり、とでなりたっていてそれを理性でひとつひとつ見きわめながらどちらかをえらんでいくものだ、といった生き方を、あらためて、彼女のなかに見た気がしたのだったー
(須賀敦子 『旅のあいまに』より)

夏の終わりに大好きなイタリアへ。サルデーニャ島で夏休みをしてきました。
イタリアの何が好きなのだろうと考えながら、太陽を充電しています。
海は透き通って光っていてしょっぱくなさそうなのに強く塩からくて、水の中ですくう砂まで太陽でキラキラしているし、白い魚の群れと泳いで自分ののペディキュアの真っ赤な色にリトルマーメードみたいにときめいて写真をとり、からだじゅう砂まみれになって寝そべる砂浜、お腹がすいて帰るけど、シャワーを浴びておしゃれしてお出かけする夕ごはん。心のこもったお料理のレストラン。窓から流れるガーリックとシーフードのいいにおい、壁をつたうジャスミンの香り。旅の途中には迷ったり、バスが来なくて何にもない荒びれた駅で途方にくれたり、行きも帰りも同じ黒人のお兄さんに助けられたこと。英語が通じるジャラートやさんのお姉さん。ヨーロッパの漁村特有のカラフルで乾いた街並み。道に椅子を出して話しこむおじさんたち。洗濯物のならぶ路地。灼けた水着の跡がまだ熱い気がするうちにいっきに思いだしたことを書き出してみました。拾った貝とサンダルがしんと置いてある夏の終わりのサルデーニャを振り返るイタリアの苦いEspressoなカフェ時間です。

ーSardegnaへ
今年も夏はイタリアに行きたい、というか透明な海で泳ぎたいと思って決めた場所がサルデーニャでした。旅の日程はとてもシンプルです。
4泊5日で、一人旅バスで行くことができる白い砂浜のbeachと美味しいごはんのかわいいピンク色のレストランのあるホテルに泊まること。

Amsterdamから2時間の直行便でOlbia空港へ

Olbia
Beach : port istana, pittulongu
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Bosa
Hotel Palazzo Sa Pischedda BosaのかわいいRistorante Hotel
Beach : Bosa Marina
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ー海
Bus 4番に乗って好きなところで降りればいいわ。
と、ホテルのフロントで言われて朝9時には海へ向かっていました。あんなに水中をみることを楽しみにしていたのにゴーグルを忘れたので街で買うことに。いちばん安いのでいいです、と闇市みたいなところで購入したことは大きな間違いだったことに後から気がつくのですが、とにかく意気揚々と砂浜へ。海!わぁっと目の前に広がるまぶしい光の反射にどきどきします。写真で見たのと同じエメラルドの海はほとんど波がなく遠浅でどこまでも白く輝いています。
最初の日は、一日中海にました。昼どきの熱すぎる太陽を全身で浴びて、しばらくしたら火照った身体を冷ますために海へ。ひんやり。水がはいってくるゴーグルは役にたたず、bahhとぶつぶついいながらも、平泳ぎと上を向いて浮かぶこと、気持ちよすぎてまぶしすぎる。気が向いたら本を開きます。今回の旅の本は須賀敦子の全集第一巻。イタリアに暮らし、イタリア人の夫や友人の話、たまには海外に暮らす彼女の強い意思を、静謐に美しい言葉遣いで書く文章は、1ピースずつ心にしっくりはまっていくのです。海からあがって塩でざらっとワイルドになった髪の毛と熱い肌、全身きれいに洗われたようですっきりです。
早朝、朝ごはんの前にビーチへ行った日もありました。地元のおばちゃんたちのきっと日課なのでしょう、競泳水着みたいので浅瀬を歩いている様子をみながら、まだ人が少なく新しい海で泳ぐ解放感。夕方にはこどもたちが、ゴールに見立ててビーチサンダルを砂に差し込んでサッカーをしていました。
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ーサルデーニャの食堂
イタリアの好きなところのひとつ、もちろん食事がおいしいことですが、トマトの色が濃いことが伝わるでしょうか。写真はサルデーニャのラビオリCulurgiones。中身はpecolino cheeseとpotatoなのでモチっとゴロンと大きめのペンネにトマトソースを絡めていただきます。この麦の穂のような形が特徴的だそうです。
朝食のスクランブルエッグも卵の黄色が違う!鮮やかな黄色です。私にとって夏のイタリアを至福と感じる瞬間は、街から少し離れた郊外のVillaに泊まり、外のテラスでブレックファーストをとるときです。イタリアといえば、というお友達が、この文脈で”桃のシロップ漬け”でしょと話していたことがあります。太陽の光を浴びてキラキラ輝く橙色の桃。白いお皿にのせてフォークとナイフを使って食べる贅沢な時間がたまりません。濃いエスプレッソとパリッとしないジャムの入ったクロワッサン。
Olbiaで出会ったぜひ紹介したい小さなトラットリアはIL Mattacchione.
かわいいお店の奥のキッチンでは、フレッシュパスタとローカルなの旬の食材をシェフがチャーミングにアレンジしています。おいしい。8月のメニューからサルデーニャで採れるという細いアスパラガスとOctpusのパスタを注文しました。ロブスターなど旨味が凝縮されているソースと完璧に好みのパスタはお店自慢です。デザートのパンナコッタまですべておすすめのお料理をいただきましたがどれもおいしくて、温かい心がこもった素敵なレストラン。私のありがとう、を聞いてうれしそうに「どういたしまして」と丁寧な日本語で返してくれるシェフに見送られて、おなかも心も幸せな帰り道。
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ーシンデレラの靴と旅の魔法
Olbia市内は夜中の12時までお店が開いています。
ある靴屋さんでサンダルを作ってもらうことに。ヨーロッパで靴を買うとサイズがなかったり疲れてしまうことが多いのです。今年の夏も新しいサンダルを買わなくてちょうど靴が欲しいとおもっていたのでした。このお店ではオーダーメイドというほど高価ではなく、好きな色の皮紐とワンポイントになる部分を選ぶだけでサイズを診て30分で作ってくれるそう。パーツがとっても可愛いのです。シャンパンゴールドにヒトデをつけてもらって出来上がったら私の足にあわせて紐を通す穴をあけてくれました。シンデレラみたいでうれしい。
お気に入りの靴をはいて街を歩くとなんか凛とします。石畳の路地にはいると、若い女の子2人がアコースティックギターでOne Directionのwhat makes you beautifulを歌っていました。この曲、ドラマOCの中で, SummerとSethのワンシーンで使われているのです。I wish i were a mermaid...思い出す大好きなシーンと夏の夜の路上ライブとサルデーニャの空気は靴が導いてくれたおまけのhappy.
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ーBosaへ
Bosaへは行きも帰りも7時間のバスの旅。行きも帰りも奇跡にしか思えないこと連続で、Bosaで幸せな食事ができたことは神様に感謝です。乗り換え時間5分しかない荒びれた停留所で、ギリギリの英語とイタリア語で助けてくれた黒人のお兄さんにであったのはTempioというバス停。このお兄さんはSassariという次の乗り換え地点まで同じバスで、2時間ほとんど寝ていたのに私が降りる駅の前で起きてきちんと教えてくれたのです。せっかく乗り継いだのに、乗り換えたバスは車体の故障で違う車を待つことになるのですが、ここでもキュートな女の子が一生懸命説明してくれました。
今回の旅でいちばん楽しみにしていたのはピンク色のリストランテホテルがあるBOSAの街。ここで着たいと楽しみにしていた同じ淡いピンク色のワンピースとOlbiaで買ったサンダルをはいて冷えたサルデーニャのワインに薄いパン、パーネ カラザウをパリパリしながらご褒美の夜は暮れていきます。メインで注文したラムは優しく柔らかくて、添えられたジャガイモがすごーく美味しいのでした。
さて帰り道、時刻表を読み誤った私を30分も一緒に歩いて連れて行ってくれたおじいさんとお別れをして1時間遅れの次のバスに乗りました。再びTempioへ。日も暮れるし駅には何にもないし、帰れなかったらどうしようとおもいながら降りると、行きに助けてくれたお兄さんが私とは逆方面行きの次のバスを待っていました。ハァイとお互いにミラクルな再会を喜びました。セネガルからの移民だという彼は片言の英語、イタリア語、フランス語、携帯電話をつかって私が次に乗るバスを伝えてくれました。先に出発する彼のバスを見送って、きっともう会わないであろう人への感謝で胸がいっぱいです。後から調べて知ったこと、Tempioは神殿という意味なのですって。
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Amsterdamから飛行機に2時間のれば、あのパラダイスがあると思うと心の中にキラキラが反射するような気がします。ちょこっと久しぶりのいつものカフェScandinavian EmbassyでChihiro, Latte? と聞かれて、昨日までイタリアの濃くて苦いEspressoと甘い朝食を楽しみにしていた熱から、やんわり普段の日々に戻って、また次の夏休みの太陽を楽しみにしています。

Trattoria Moderna IL MATTACCHIONE
(Olbiaのかわいくて美味しいレストラン。)
Address: Viale Aldo Moro 351 Olbia, Italy
Website: http://www.ilmattacchione.com/home.html

Sandali Amalia
(オーダーメイドでサンダルを作ってくれた靴屋さん)
Address: Corso Umberto Olbia, Italy
Website: http://www.sandaliamalia.it/en/index.html

Hotel Palazzo Sa Pischedda
(BOSAで泊まったリストランテ&ホテル。ピンクの外壁がかわいい)
Address: Via Roma, 8, 08013 Bosa OR, Italy
Website: http://www.hotelsapischedda.com
カフェエッセイスト:安齋 千尋
Amsterdamに住んでいます。外国で暮らすため、京都で仲居をしながら学んだ日本、Londonでの宝物の出会いがありヨーロッパにきて10年以上が経ちました。世界中どこにいてもいいカフェに出会うことがとても楽しみです。入った瞬間の香り、音、新聞、いつものバリスタと目が合うこと、私の日々の幸せな瞬間はカフェにあります。
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