旅の扉

  • 【連載コラム】coffee x
  • 2014年12月12日更新
アムステルダムカフェより
カフェエッセイスト:安齋 千尋

Coffee x Love Sick by Marlene Dumas

Artに造詣はないのだけれど、旅とその街を特別なものにすることがあると思う。
憧れのNYで、仕事と素敵な女性ってなんだろうと思いながら、恋に落ちきれない人のことを考えながら、Metoropolitan美術館でしばらく見とれたSergentのMadam X. プライドの高い表情とシャネルのバックみたいなチェーンのストライプ。Breakfast at Tiffany'sの最初のシーンを思い浮かべる黒いドレス。この絵を見てどっかのいいカフェでしばらく大人になる解放感に酔っていたことを思い出す心に残る絵でした。3年後ロンドンの気に入ってるcafeの入った美術館でどこかで見たと感じた女の人の肖像画がSergentだったとき、海外に住むことを夢見てたNYでのMadam Xの凛とした視線に逢ったような気がして、私にとって美術はこんな感じでちょっとしたスパイスになっているのです。

Marlene Dumasという画家を知ったときも、この夏ベネチアでSalute教会の先にある現代美術館punta della doganaに何となく入った旅の中の偶然でした。美術館全体がとてもステキ空間でほれぼれ歩いていたら最後のgiftshopで建築が安藤忠雄だと知りさらに感動するのだけど、とても印象的な絵があってそれが彼女の作品でした。
後から調べてMarlene Dumasがアムステルダムの画家で、3週間後にはアムステルダムのStedelijk Museumで大きな展覧会があることがわかって、あ、またこのキラキラスパイスだと思っていたのでした。いくつかの偶然が重なりとても楽しみにしていた”The Image as Burden”展に先週とうとう行ってきました。



Photo by anzai © Marlene Dumas, Stedelijk Museum Amsterdamzoom
Photo by anzai © Marlene Dumas, Stedelijk Museum Amsterdam

Marlene Dumasの何に惹かれていたのか。
”私は肖像画を描いているのではなくて、イメージを描いている”。

アトリエの映像を見て、この一言を掬った美術館の展示の素晴らしさを感じるのだけれど、Dumasの絵は絵も印象的だけどタイトルと重なることでもう何倍もドキンとするのです。目の前の人物を描いているのではなくて、その人物の生きている時代、求めていた感情が、印象的な絵とタイトルに込められていること。
たとえば女性のヌードを描いてBody Languageというテーマの一角に並ぶ3枚の絵。
Love sick
Waiting ( for meaning )
Losing (her meaning )

フェミニストという言葉が使われる現代で女性が描く女性の温度があるところも魅力的なのです。Love sick,きっと昔の自分にはわからなかった色そしてアムステルダムにいるからわかる感じにちょっと立ち止まってみてしまうのでした。

Hommage to Michelangelo, 2012 © Marlene Dumas, photo by anzaizoom
Hommage to Michelangelo, 2012 © Marlene Dumas, photo by anzai

”The Image as Burden"
という絵があって、ピエタ像をモチーフにしています。
バチカンにあるピエタ像は世界史で習ったのに誰の作品かも覚えてなくて、でもあまりに美しくて何度も振り返りながらみたのは高校生のとき。ピエタ=慈悲の意味もわからず人の名前かと思っていました。このDumasの”抱える”構図は、映画のワンシーンや、新聞記事の中の写真でチェチェン過激派が学校を襲撃したとき助け出された女の子の写真が重なって描かれているそうです。元になった記事の写真も本人の解説映像にでてくるのですが、裸の女の子と救出するくわえたばこのおじさん。ヨーロッパのおじさんがみんなスーツを着こなす紳士でなく、かさかさっとした東欧系のおじさんのオーラが色と経験と重なるのでした。
写真はベネチアで見たhommage to michelangelo。同じミケランジェロのピエタ像への感動が込められているのですが、宗教画というよりも隣に寝ている男に抱きしめられている、”包”ていう漢字みたいでなんかいいのだよね。

image as burden, 絵を見て、抱えられている人の重みが”愛しい”って私には伝わるような気がして魅了されているのです。

The Son of, 2011 © Marlene Dumas, photo by anzaizoom
The Son of, 2011 © Marlene Dumas, photo by anzai

国際政治とか新聞が好きなわたしにとって興味深い題材が取り上げられることは現代美術の楽しみです。マリリンモンローを描いてdeath of the american dream and of the America that had served as a model for modernism and freedomという注釈。その横の"Son of 2011"のオサマビンラディン。写真よりも感情移入されて、でも本人ではなくて彼女の中にあるイメージとして、一枚の絵から想像する事件といまも続く紛争のこと。
また彼女のシリーズのひとつ墨で描かれた肖像画、人権とか差別とかが今でも政治問題の中でthe works is tribute to black as a beautiful colorという。アムステルダム在住だけど南アフリカ出身のMarlene Dumas。日本にいるとオランダと南アフリカのつながりってしらないけど、植民地だったつながりで南アフリカにルーツを持つ人ってオランダにはたくさんいて、言語のアフリカーンスもオランダ語が元になってたりするらしいのです。

The Kiss 2003 © Marlene Dumas, photo by anzaizoom
The Kiss 2003 © Marlene Dumas, photo by anzai

The kiss
私はKissというテーマがとても好きで、もちろん思い浮かぶクリムトのThe kissをイメージしながら優しいこのキスの絵の前で幸せな瞬間を反芻したりして、スパイスは旅の中で効いてくるのです。

焼きたてのちぎるたびに湯気が立つcinnamonn bunの写真を撮らずにはいられないいつものカフェより.

アムステルダム市立近代美術館
マルレーネ・デュマス展「The Image as Burden」
2015年1月4日まで
過去20年間におけるオランダでの最初の大個展 およそ200点の作品を展示
The Stedelijk Museum : Marlene Dumas, The Image as burden;

カフェエッセイスト:安齋 千尋
Amsterdamに住んでいます。外国で暮らすため、京都で仲居をしながら学んだ日本、Londonでの宝物の出会いがありヨーロッパにきて10年以上が経ちました。世界中どこにいてもいいカフェに出会うことがとても楽しみです。入った瞬間の香り、音、新聞、いつものバリスタと目が合うこと、私の日々の幸せな瞬間はカフェにあります。
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