zoom 物価高が直撃している中でも比較的手頃な価格で、充実した一杯を満喫できるのが日本の国民食とも言えるラーメンだ。東京都心部には豚骨や煮干し、エビ、牛骨、貝といったこだわりの出汁のスープを生かした注目の新店が相次いで開業している。私鉄の中で最高級のブランドイメージを誇る東急電鉄東横線の電車一本で行くことができるラーメン店の新星を紹介しよう。なお、私も東急沿線住民の一人である。
zoom ▽燕三条系で京都流の“ハイブリッド”
京都市で最初の店舗を2013年にオープンし、「食べログ 百名店 WEST」に通算7回選ばれてきた人気店「セアブラノ神」の渋谷センター街店(渋谷区宇田川町)が2026年8月28日にオープンした。
「セアブラノ神」の5店目となり、京都市以外への初進出という話題性もあり、開店早々から行列もできた。飲食チェーン「らあめん花月嵐」などを展開するグロービート・ジャパン(東京都杉並区)が運営する。
東急東横線の地下5階という奥深くにある渋谷駅で下車し、渋谷センター街を約5分歩くと右側の雑居ビル「アトラス渋谷ビル」の1階にあった。注文したのは、看板メニュー「背脂煮干そば」(1050円)だ。水と豚骨だけを使って18時間煮込んだスープに、京都市のかつお節店から仕入れた煮干しで味付けし、多くの背脂を盛り込んでいるのが特色だ。
使っている麺は、京都市の製麺所「麺屋 棣鄂(ていがく)」の特注麺を「東京まで運んでいる」(店員)という。多加水ちぢれ太麺と中太麺を選べるが、店員から「スープがより絡みやすい太麺を食べてみて」と薦められた通り太麺を選んだ。
麺をゆでる時間は太麺が5分半、中太麺が1分半だそうで、厨房の立場では中太麺の方が早く完成するため作業効率化に一役買う。
ところが、私が話した店員は「お客様により味わってほしいので、太麺を推している」と打ち明けた。あくまでもカスタマーファースト(顧客第一)の姿勢に徹していることに感心した。
出てきたのは、新潟県のご当地ラーメンの一つである燕三条系ラーメンをベースとしながらも、京都流にアレンジした“ハイブリッド”の一杯。チャーシューや九条ネギなどが浮かんでおり、かなり濃いビジュアルだ。
だが、スープをすすると驚くほどまろやかさで、お薦めの通り太麺との相性も抜群だ。卓上には黒七味や一味、きざみにんにくなども用意され、特に黒七味、きざみにんにくを投入すると食欲を一段とかき立ててくれた。
zoom ▽「ラーメンの聖地」の店舗の味を東京で!
目黒区鷹番の高級住宅地がそびえる東横線学芸大学駅西口の目の前に9月26日にグランドオープンしたのが、エンターテインメント企業ベガスベガス(東京都中央区)の「麺や一球えび丸」だ。
ベガスベガスの創業の地であり、同社の遊技場に併設したラーメン店「海老秀鳴沢店」がある山形市は「ラーメンの聖地」をうたっている。総務省の2025年版家計調査で中華そば(ラーメン)の1世帯当たり支出額(2人以上、外食)が2万5102円と都市別で4年連続の日本一。2位の新潟市(1万9073円)を大きく引き離した。
「麺や一球えび丸」は、海老秀鳴沢店と同じように濃厚なエビスープのつけ麺とラーメンを売りにしている。特に目を引くメニューは、極細衣をまとった有頭エビのカダイフ揚げが大きなインパクトを添えてくれる「海老つけ麺」(1400円)だ。
注文を受けるたびに丁寧に揚げているという有頭エビのカダイフ揚げは、かんだ瞬間に「ザクザクッ」という音が響き、心地良い食感を味わえる。スープは海老本来の甘みを引き出しており、菅野製麺所(東京都大田区)が手がける麺としっかりと絡めると濃厚な味わいを楽しめる。
麺を完食後の締めは、スープを和風だしで割って味わう。すると、コクのあるエビの風味ながらもさっぱりとしたのどごしで、最後の一滴まで飲み干した。
zoom ▽「B面」メニューにもサプライズ!
「AB」と発音が似たエビと麺の話題だけに、話は「A面」だけでは終わらない。「B面」と呼ぶべきメニューにおいしいサプライズのおいしさが隠れていた。
そのメニューとは、「海老つけ麺」と比べると見た目は割と普通に見える「海老ラーメン」(1300円)だ。
朱色に染まったエビの濃厚なスープに、海老のフリッターや水菜、トマト、ムラサキタマネギなどが麺に乗ったラーメンはまろやかで食が進む。麺を半分ほど食べた時、ベガスベガスの草野雄太スーパーバイザーから「辛味噌はいかがですか」とトッピングを薦められた。この辛味噌が入るとスープに辛みとともにコクが加わり、食欲増進効果が一気に高まるのだ。
麺を食べ進めると、草野さんから「白飯もありますよ」と次なる誘惑が。辛味噌でアクセントが付いたスープにご飯を投入すれば、韓国料理のユッケジャンクッパのように絶妙に合うのは請け合いだ。
しかしながら、麺に追い打ちを掛けての白米は炭水化物が膨らんでしまう。結局、誘惑には勝てずに白米を投入し、案の定見事なハーモニーを楽しんでいるとスープも完食していた。
店内は1列のカウンターに11席並んでおり、壁には現代アーティストの小松美羽氏の巨大アートパネルを展示している。明るい雰囲気で「女性が1人でも気軽に入店してもらえるように意識した」(草野さん)という。
zoom ▽チームメートの店同士が火花!?
一方、新宿区西新宿に26年9月18日オープンしたのはgouki(新宿区)の新業態「元祖焼豚センター中華そば三井」だ。「ちょっと待て!」と突っ込まれるかもしれないのが、東急沿線ではないという点だ。
これが「東急電鉄東横線の電車一本で行くことができる」と記したゆえんで、東横線の電車に乗って直通運転する東京メトロ副都心線新宿三丁目駅で降りれば歩くことも可能なのを意味している。
ただし、新宿三丁目駅からは歩いて約10分かかる。より近いのはJR東日本・東京メトロ丸ノ内線・東京都営地下鉄新宿線および大江戸線・小田急電鉄・京王電鉄が乗り入れる新宿駅、大江戸線新宿西口駅、西武鉄道新宿線西武新宿駅で、これらの駅からは徒歩5分圏内だ。
現地に着くと、「ちょっと待て!」と突っ込みたくなる光景が待ち受けていた。「元祖焼豚センター中華そば三井」と記された店の隣には、「中華そば流川」と記した看板がそびえていたのだ。
隣同士でラーメン店が火花を散らしている。しかも三井寿と流川楓と言えば漫画「スラムダンク」で同じ湖北高校バスケットボール部の主力選手だが、偶然の一致なのだろうか。
そんな疑問を抱いて入店すると、「いらっしゃいませ」と迎えてくれたのはgoukiの杉田剛代表取締役だった。隣のラーメン店との関係は、そして店名が同じ人気漫画の登場人物というのは果たして「たまたま」なのだろうか。
杉田さんが口を開くと、「そういうことだったのか!」と膝を打つ回答が待ち構えていた。
zoom ▽潜んでいたもう一つの「高コスパメニュー」とは…
杉田さんは2019年から「中華そば流川」を運営しており、この立地が気に入っていたところ同じビルの隣の物件が空いた。
友人らに相談した上で「隣の物件で、たぶんお客さんは取り合いになるけれども、結果としてトータルで多くのお客さんが来てもらえればいいかなということで、『元祖焼豚センター中華そば三井』の出店を決めました」という経緯だった。
店名は先に手がけていた「流川」も、今回の「三井」も「長年愛読しているスラムダンクの登場人物をオマージュした」(杉田さん)。スラムダンクでは三井寿が流川楓の先輩だが、西新宿では「流川」が「三井」の先輩という逆転現象が起きていた。
「元祖焼豚センター中華そば三井」は「元祖焼豚センター うる寅商店」のプロデュースを受け、そのノウハウや考え取り入れながらも、杉田さんの経験を融合させて生み出した業態だという。看板メニューの「中華そば」(950円)は、豚の旨味を生かしながらもすっきりとした飲み口の「豚清湯(ぶたちんたん)スープ」を丼になみなみと注ぐ。麺には、もちもちとした食感が特色の滋賀県産小麦「もち姫」を使用。多加水で仕込んだ熟成麺を手もみすることで、ほどよい縮れ方に仕上げている。
これらの組み合わせが良くマッチしており、まるでバスケットボールのシュートがゴールに決まったような爽快感を味わえる。しかもラーメンの価格が1000円の大台を下回っているのは物価高の情勢下で良心的だが、目をむくようなコスパの高いサイドメニューが潜んでいた。
それはたった50円の「ライス」だ。しかも小・並・大のいずれのサイズも同価格なのだ。「中華そばにたっぷり乗っている焼き豚を、ライスの上に乗せて食べてみてください」という杉田さんのアドバイスに従い、備え付けのマヨネーズをかけた即席チャーシュー丼にすると期待を超える美味だった。
豚清湯スープをベースに、煮干しを使って出汁感を際立たせた「煮干中華そば」も950円で、杉田さんは「ライスを追加しても1000円で済むようにしている」と明かした。
インフレの進行に逆行した高コスパの戦術は、果たして“反則技”なのか!?いや、そんなはずはない。お客さんは歓迎するのだから、フェアプレーであると太鼓判を押したい。
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)
