zoom フランス近代絵画を代表する画家、アルベール・マルケ(1875–1947)。生誕150年を記念し、東京都新宿区のSOMPO美術館で、日本では約35年ぶりとなる回顧展が開催されています。
マルケは1875年、フランス南西部の港湾都市ボルドーに生まれました。パリの国立美術学校で学び、アンリ・マティスらと交流を重ねながら、20世紀初頭のフランス美術を切り拓いた画家の一人です。仲間たちと新しい絵画表現を模索し、鮮やかな純粋色と自由な筆触を特徴とする「フォーヴィスム(野獣派)」の画家として知られるようになりました。
今回の展覧会では、初期のフォーヴィスムから、水辺の風景を中心とした成熟期、そして晩年のポン=ヌフ連作まで、マルケの画業をたどります。SOMPO美術館の担当者がフランス各地の美術館やコレクションを一つ一つ訪ね、「なぜ今、日本でマルケを紹介するのか」を伝えながら作品を借りる交渉を重ねて実現した、貴重な機会です。国内外から集められた約90点で構成されています。
「マティスの友人」として紹介されることも多かったマルケですが、同じ時代にパリで絵画の可能性を探っていた二人の作品を見比べると、その個性の違いも見えてきます。二人が同じモデルを描いた作品、「裸婦、通称フォーヴの裸婦」(1898年)は目を引きます。緑、赤、ピンク、黄色など大胆な色彩が画面を彩り、中央には背を向けた裸婦。後の静かな風景画とは異なる、若き日のマルケの姿がそこにあります。
同じモデルをマティスが描いた「画室の裸婦」(1899年)は、東京都中央区のアーティゾン美術館の石橋財団コレクション所蔵。機会があれば、ぜひ見比べてみたい作品です。
zoom 1905年、マティスらとともにフォーヴィスムの画家たちの作品が発表されると、強烈な色彩と大胆な表現は大きな反響を呼びました。ただ、マルケはやがて、その激しい色彩表現から少しずつ離れ、独自の静かな画風を深めていきます。
マルケが生涯にわたって描き続けたのは、パリの自宅から眺めたセーヌ川、南仏やアルジェなど旅先で出会った港や海辺など、水辺の風景でした。水面には青や緑、灰色、紫などの色が繊細に重なり、空や建物を映しながら、光や天候によって刻々と表情を変えていきます。
とりわけ心を引かれるのが、海や川の水の色です。同じ青でも、作品ごとに、時間や天候によってなんともいえないニュアンスがある。その微妙な色の移ろいこそ、マルケの絵の大きな魅力ではないでしょうか。
zoom光によって変化する水面を追い続けたモネからも影響を受け、マルケは時間や天候を変えて同じ場所を繰り返し描きました。一方で、人々や車、船といった都市生活のモティーフも軽やかな筆致で捉えています。わずかな筆致で対象の本質を捉えるその描写には、日本美術の影響も指摘され、マティスから「我らの北斎」と称されたこともありました。
zoom ところが、これほど魅力的な画家でありながら、日本ではマティスやモネほど広く知られていません。「マティスの友人」「フォーヴィスムの画家」という文脈で語られることが多く、独立した画家としての個性に触れる機会が少なかったからかもしれません。
フランスでも、2016年にパリ市立近代美術館で大規模な回顧展が開かれるなど、「マティスの友人」という枠を超えたマルケの独自性が改めて紹介されました。
zoom 実は、日本で初めて作品が紹介されたのは1920年。ちょうど日本でモネやルノワールら印象派が盛んに紹介されていた時期で、松方幸次郎や大原孫三郎といった日本のコレクターもマルケの作品を収集しました。現在も日本の美術館やコレクションには60点を超える作品が残されているそうです。
フォーヴィスムの鮮烈な色彩から、静かな水辺の風景へ。マルケは、華やかな色彩を手放したのではなく、光と水の微妙な変化を捉えるために、その色彩をより繊細なものへと深めていったのかもしれません。
もしまだマルケの魅力に出会っていない方がいたら、今回の展覧会で、その豊かな色彩と静かな世界に触れてみてください。
zoomSOMPO美術館50周年記念「アルベール・マルケ展」
会期:2026年9月22日(火)~12月13日(日)
会場:SOMPO美術館(東京都新宿区西新宿1-26-1)
開館時間:10時~18時(金曜日は20時まで)
休館日:月曜日ほか
詳細・最新情報はHPでご確認を。
https://www.sompo-museum.org/
