旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2026年10月5日更新
共同通信社 経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

「異色」の帝国ホテル、初の施設や唯一の土産物も こだわりの宿へ新幹線で!【下】

△「帝国ホテル 京都」総支配人の坂田玲子さん(大塚圭一郎撮影)zoom
△「帝国ホテル 京都」総支配人の坂田玲子さん(大塚圭一郎撮影)

 京都・祇園の花街に2026年3月5日開業した「帝国ホテル 京都」(京都市東山区)は、新規開業のホテルとしては異色の伝統的なたたずまいとなっている。1936年に完成した旧「弥栄(やさか)会館」を一部保存・改築したことに加え、京都の春の風物詩「都をどり」の舞台となる祇園甲部歌舞練場の敷地内という「規格外のホテル立地」(帝国ホテルアドバイザーの大脇善夫さん)という事情がある。
 帝国ホテルは他に東京・日比谷の「帝国ホテル 東京」、長野県松本市の上高地帝国ホテル、大阪市北区の「帝国ホテル 大阪」の3ホテルを構えているが、大脇さんは「他の三つの帝国ホテルとは性格が大きく異なる」と指摘する。そんなホテルの館内を案内してもらった。

△客室「インペリアルスイート」の「ガゼボ」(大塚圭一郎撮影)zoom
△客室「インペリアルスイート」の「ガゼボ」(大塚圭一郎撮影)

 ▽「気合いが半端ではない」キーパーソン
 宿泊者ラウンジで大脇さんの解説を拝聴していると、「帝国ホテル 京都」を語るのに欠かせないもう1人のキーパーソンが登場した。「帝国ホテル 京都」総支配人の坂田玲子さんだ。
 愛知県豊橋市生まれの坂田さんは帝国ホテルに2003年入社し、「帝国ホテル 東京」で婚礼を長く担当。2020年に営業部宴会予約課長となり、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了後の24年にプロジェクト推進部京都開業準備室長となり、現職に就いた。
 「地域の皆様とともに、祇園の発展に本当に微力ながら貢献できればいいと思います」と意気込む坂田さんについて、大脇さんは「気合いが半端ではないんですよ」とこんなエピソードを明かした。
 「朝出勤するときに祇園で通りがかる人に一人一人に、『おはようございます』とあいさつしているんですよ。祇園の人が私に教えてくれました」
 坂田さんはホテルの開業でも「祇園に溶け込むためにさまざまなアドバイスをいただいた」と振り返る。それらの助言を受け入れ、工夫と改善を重ねることで「今日を迎えることができました」と説明した。

△「帝国ホテル 京都」北棟にある帝国ホテル初の畳敷きの客室(大塚圭一郎撮影)zoom
△「帝国ホテル 京都」北棟にある帝国ホテル初の畳敷きの客室(大塚圭一郎撮影)

 ▽「祇園で暮らす気分」の帝国ホテル初の客室とは
 55室ある客室は全て50平方メートル以上あり、うち47室は弥栄会館を一部保存・改築した「本棟」、残る8室は新築した「北棟」にある。
 内装は、現代美術作家・杉本博司氏と建築家・榊田倫之氏が主宰する「新素材研究所」が手がけた。
 坂田さんと別れてから館内を巡り、宿泊料金が1室で1泊300万円(税・サービス料込み、宿泊税別)と、最上位の客室「インペリアルスイート」を見学させてもらった。6階にあり、テラスも含めた広さは193平方メートルに及ぶ。
 うち客室は128平方メートルあり、ベッドの頭側に取り付けられたヘッドボードには木目が美しい霧島杉が取り付けられている。内装を担当した榊田氏は「天井やヘッドボードのように触れない部分には杉のような柔らかな針葉樹を使い、人が触れる部分には硬い広葉樹を使った」と解説している。
 東山を見渡すこともできるテラスに出ると、その一角には塔屋部分を改装した「ガゼボ」(あずまや)を備えているのがユニークだ。室内は2畳ほどと小ぶりだが、読書や瞑想(めいそう)などに使うことができる。
 ガゼボと同じように、帝国ホテル初となったのが畳敷きの客室だ。1、2階で本棟とつながった北棟の8室に備えている。畳敷きの空間にベッドをしつらえた和洋折衷の空間だ。
 畳間の奥にある板の間にはいすがあり、腰掛けると京すだれ越しにお茶屋などが軒を連ねている景色を一望できる。
 大脇さんは「祇園の街で暮らすことができるような気分を味わってもらうためにすだれを掛けている」と説明する。夕暮れになると通りを歩く舞妓さんや芸妓さんの姿も視界に入るそうだ。

△岡山県産の銘石「北木石(きたぎいし)」を壁面に用いた「帝国ホテル 京都」のプール(大塚圭一郎撮影)zoom
△岡山県産の銘石「北木石(きたぎいし)」を壁面に用いた「帝国ホテル 京都」のプール(大塚圭一郎撮影)

 ▽土産用のブルーベリーパイが小ぶりな理由
 本棟の1階の玄関脇には土産物店「ザ ペストリーショップ」があり、中でもユニークなのは他の帝国ホテルよりも小ぶりな「ミニブルーベリーパイ」(3個入り税込み1620円)だ。直径4・5センチに抑えたのは、舞妓さんや芸妓さんがひと口で食べられるように配慮している。
 地下にはフィットネス、スパトリートメント、温浴施設、プールなどのウェルネス施設を備えている。うちプールは長さ17・5メートル、幅3・8メートル、深さ1・1メートルある。
 岡山県産の銘石「北木石(きたぎいし)」を壁面に自然の岩肌として用いることで、まるで洞窟のようなデザインに仕上げた。水面を控えめの照明と相まって、幻想的な雰囲気を生み出している。
 北木石は、弥栄会館の外壁に用いられていたことから採用された。内装を担当した榊田氏が岡山県の原産地に足を運び、自ら岩の表面の連続性を見定めてふさわしい石を選んだという。
 プールの横には、水流を利用したバイタリティープール(ジャグジー)も備えている。

△「帝国ホテル 京都」のレストラン「弥栄」のグリルオーブンの前に立つシェフ。香ばしいぬくもりのある料理を振る舞ってくれる(大塚圭一郎撮影)zoom
△「帝国ホテル 京都」のレストラン「弥栄」のグリルオーブンの前に立つシェフ。香ばしいぬくもりのある料理を振る舞ってくれる(大塚圭一郎撮影)

 ▽“東西融合”のカレーも
 レストランはともに本棟2階にフランス料理「練」(18席)と、オールデイダイニング「弥栄」(54席)の二つがあり、これらのレストランは宿泊者以外も利用できる。
 うち「練」は料金が1人当たり3万8千円からで、伝統と革新のフランス料理をカウンターで提供するという。
 「弥栄」は帝国ホテル伝統の洋食と、薪や炭を用いたグリルオーブンを掛け合わせたのが特色で、香ばしいぬくもりのある料理を味わえる。ここならではのメニューが「弥栄カレー」(4700円)だ。東京、大阪の両帝国ホテルのソースをブレンドした“東西融合”のカレーソースと、薪窯で香ばしさをまとわせた肉と野菜が重なって深みのあるコクが口に広がるという。
 朝食にも「帝国ホテル 京都」ならではのメニューがあり、それは「弥栄」で提供している割烹「祇園川上」が監修の和朝食(7500円)だ。季節によってメニューは変わるが、訪問時は「ぶぶあられ」を浮かべた豆乳で目を覚まし、カラスガレイ西京漬けや出汁巻き卵、シジミのみそ汁といった本格的な和食に舌鼓を打つコースだった。
 完全無農薬「はるみ米」のご飯のお供には「まぐろ削り節」が用意され、これらが絶妙なハーモニーを奏でる。宿泊者の場合、客室まで運んでもらうルームサービス「インルームダイニング」も可能だ。

△「オールドインペリアルバー」で、「マウント比叡」を仕上げるためにシェーカーをテンポよく振るバーテンダー(大塚圭一郎撮影)zoom
△「オールドインペリアルバー」で、「マウント比叡」を仕上げるためにシェーカーをテンポよく振るバーテンダー(大塚圭一郎撮影)

 ▽アメリカ人大物俳優が注文したウイスキーは?
 東京、大阪の両帝国ホテルと同じ名前のバー「オールドインペリアルバー」(宿泊者以外も利用可能)は、本棟7階にある。内装には帝国ホテル2代目本館(ライト館)でも使われていた大谷石を使い、帝国ホテルの伝統を引き継いでいる。
 「帝国ホテル 京都」限定なのが、ジンベースのカクテル「マウント比叡」(3500円)だ。帝国ホテルで親しまれてきたオリジナルカクテル「マウント フジ」をベースに、抹茶とゆずリキュールといった京都らしい素材を合わせて作り上げたという。
 大脇さんに連れて行っていただくと、夕暮れのバーカウンターの窓外には祇園の街並みが広がっていた。「マウント比叡」を注文すると、男性バーテンダーが「シャカシャカ」とテンポよくシェーカーを振って作ってくれた。軟らかい口当たりで、自然とグラスを傾けてしまう。
 面白かったのが、「キング・オブ・ウエスタン(西部劇の王者)」と呼ばれたアメリカ人大物俳優、故ジョン・ウェイン氏にまつわるエピソードについて大脇さんが2人の女性バーテンダーに出題したクイズだ。「帝国ホテル 東京」の「オールドインペリアルバー」を訪れた際、注文したウイスキーの銘柄は何だったかという問題だ。
 バーテンダーはプロならではの渋い銘柄を答えたものの、正解できずにいたところに坂田総支配人が合流。答えを言い残して風のように立ち去る大脇さんの姿は、あたかも西部劇のエンディングを飾るかのような颯爽(さっそう)な立ち居振る舞いだった。
 屋上にある宿泊者限定の「ザ ルーフトップ」に移動した。夕日に染まった祇園や東山といった京都の名所を一望しながら、抜群の開放感に浸った。
 ちなみに、正解はスコッチウイスキーの「カティサーク」で、「ストレートで3杯あおった」(大脇さん)とか。「深遠な歴史と風格」が漂う「帝国ホテル 京都」の素晴らしさに感じ入ったのはもちろんだが、そんな貴重な時間を堪能できたのは大脇さん、坂田さんとご一緒したり、おもてなし精神にあふれたスタッフの気遣いがあったりしたからこそだ。
 おおきに!
(シリーズ「こだわりの宿へ新幹線で!」【完】。連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社 経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月、東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月に社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。2024年9月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を積極的に執筆しており、英語やフランス語で取材する機会も多い。

日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、旧日本国有鉄道の花形特急用車両485系の完全引退、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載「鉄道なにコレ!?」と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。

本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)、カナダ・バンクーバーに拠点を置くニュースサイト「日加トゥデイ」で毎月第1木曜日掲載の「カナダ“乗り鉄”の旅」(https://www.japancanadatoday.ca/category/column/noritetsu/)も執筆している。

共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。
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