旅の扉

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  • 2026年7月7日更新
リスヴェル編集部トピックス
Editor:リスヴェル編集部

沖島博美さんの寄稿コラム「定番のライン下りをまる5日かけて巡るクルーズ船のグルメな旅」

コッヘムに停泊中の「ラ・ボエーム」zoom
コッヘムに停泊中の「ラ・ボエーム」
 
 ライン川下りはハイライト部分のリューデスハイムからコーブレンツまで乗る4時間ほどのクルーズが最も人気ある。リューデスハイム観光を含めてドイツ旅行の1日に加えるのが一般的だ。ケルン・デュッセルドルファー(通称KD社)という老舗の船会社がライン川を頻繁に運航している。それを、モーゼル川も含めて正味5日間のライン&モーゼル川クルーズ船があるという。一体どうやって過ごすのか興味を持ち、このクルーズに参加してみた。

 基点はライン河畔の町ストラスブール。この辺り、ラインはドイツとフランスの国境を流れて行く。ストラスブールはライン川の西岸にありフランスの町だ。ストラスブール中央駅から5キロほど東のポート・デュ・ラン(ライン港)には世界各国のリバークルーズ船が停泊している。目指すはクロワジ・ヨーロッパCroisi Europe。1976年に設立された地元の船会社で宿泊型ライン川クルーズを初めて試み、世に広めた。
キャビン(左上)・船長やクルーの挨拶(右上)・アルザス名物シュークルート(左下)・レーマ広場(右下)zoom
キャビン(左上)・船長やクルーの挨拶(右上)・アルザス名物シュークルート(左下)・レーマ広場(右下)
第1日めは夕方から乗船開始

 お昼頃ライン河畔の港に着いたのでレセプションに荷物を預け、ストラスブール市内観光へ。17時に乗船が始まるので16時過ぎには戻るようにとのこと。旧市街があまりにも美しいので歩き回り、船に戻ったのは17時を過ぎていた。自分の荷物だけが船内フロント前にあり、乗客たちはもうキャビンに入っていた。18時からロビーでウェルカム・ブリーフィングWelcome Briefingが始まった。まず船長、続いてコック長、クルーたちの挨拶があり旅の説明が行われた。6泊7日の船旅だが、1日目は夕方に乗船、7日目は朝下船なので実質5日間だ。船のルートや寄港の町々、オプショナルツアーなどが紹介された。

 続いてレストランへ移動。初日のディナーが始まった。クロワジはオールインクルーシブ。食事は3食付き、ソフトドリンクもアルコールも飲み放題である。ランチとディナーは前菜、メイン、デザートの3コース料理で、全てが純粋なフランス料理だ。ここはストラスブールなのでシュークルートというアルザス地方の肉料理がメインに出てきた。ワインは赤2種類、ロゼ1種類、白2種類あり、テーブルにはボトルでサービスされる。スパークリングを頼むとグラスで出てくる。前菜からデザートまで全てが程良いヴォリュームなので初日から完食。夕食の後はロビーでイベントがあり、体力のある人は夜遅くまで騒いでいた。最初の夜なので、まだ先は長い、と半分は部屋に戻った様子。船が港を離れたのは夜10時頃だった。
葡萄畑の上に聳えるコッヘム城(左上)・モッツァレアとルッコラのバルサミコソース(右上)・フルーツムース(左下)・鶏胸肉のバロティーヌ(右下)zoom
葡萄畑の上に聳えるコッヘム城(左上)・モッツァレアとルッコラのバルサミコソース(右上)・フルーツムース(左下)・鶏胸肉のバロティーヌ(右下)
第2日めはフランクフルト観光

 目覚めると船はマンハイム辺りを走っていた。時速15キロほどでゆっくり走る。7時半にレストランオープンのアナウンスが流れ、それぞれがレストランへ。朝食はビュッフェ形式で、四つ星ホテル並みの品揃え。茹玉子は生の状態で煮立った鍋の中へ入れ、自分で茹でる。ドイツ風に3分茹でてみたら丁度良かった。

 船はマインツから向きを東に変え、マイン川を遡っていく。急に川幅が狭くなり、船は更に速度を落として自転車と同じくらいになった。何ヵ所かにシュロイセ(水門)があるのでさらに時間が掛かり、フランクフルトに着いたのはお昼頃だった。下船する前にランチタイムとなる。オプショナルツアーで市内観光できるが、中心部のレーマー広場近くに停っているので個人で出かける人が多かった。船が出発するのは夜だが、ディナーが始まる18時半までには船に戻るように、と注意があった。

第3日めはモーゼル河畔の景勝地コッヘムへ

 ライン下りのハイライトはリューデスハイムからコーブレンツまで。有名な“ローレライの岩”や“ビンゲンのネズミの塔“はこの区間にある。しかしここは夜中に通過し、朝目覚めた時はコーブレンツからモーゼル川へ入った辺りを走っていた。そして午前中にモーゼル河畔のコッヘムに向かう。河畔の急な斜面にはブドウ畑が広がっている。こんな急斜面では車も入れないし作業は効率悪い。その分価格を上げているわけでもないので、どう工夫しているのだろうか。

 モーゼルはコーブレンツからトリーアまで約60mも高低差があるため途中に水門が10か所ある。コッヘムは3番目の水門を過ぎたところの町。4時間ほど経ってコッヘムに到着した。昼食は船内で済ませ、小さな町なので皆が個々に歩いて見学した。高台にある城の見学はドイツ語か英語のガイドツアーで回る。この城は犬もOKで大きな犬が飼い主と共に見学している。クロワジの乗客はクルーと一緒に城へ行って説明を受けていた。この日、船は翌日までコッヘムに停泊した。
コーブレンツ城塞からの絶景(左上)・ドイチェス・エック(右上)・パヴェ・ド・ブフ厚切りの牛ステーキ(左下)・白身魚のポシェ、ディルソース(右下)zoom
コーブレンツ城塞からの絶景(左上)・ドイチェス・エック(右上)・パヴェ・ド・ブフ厚切りの牛ステーキ(左下)・白身魚のポシェ、ディルソース(右下)
第4日めはコーブレンツへ、そしてガラディナー

 朝、船はコッヘムを離れてコーブレンツへ向かう。つまりコッヘムが折り返し地点で、行きに通り過ぎた町へ寄りながら同じ航路を戻って行くというわけ。コーブレンツはモーゼルがラインへ流れ入る地点として名高い。その合流地点はドイチェス・エック(ドイツの角)と呼ばれ、先端にドイツ皇帝ヴィルヘルム1世の巨大な騎馬像が立っている。騎馬像の近くに対岸のエーレンブライトシュタイン要塞へ登るロープウエイがある。これに乗りライン川の上を渡って対岸の丘へ。ジブラルタル要塞に次いでヨーロッパで2番目の規模を誇ると言うだけあり、半端なく巨大な要塞だ。

 この日もオーバーナイトで船はコーブレンツに留まった。今日はガラディナーの日。クロワジ船は豪華客船と異なって平服。しかも極めてカジュアルで、皆リュックサックが合うような恰好をしている。それでもガラディナーの時だけは少しお洒落な服装で現れた。女性は殆どがワンピース、男性はジャケットとネクタイ。蝶ネクタイ姿が多くて見違えてしまう。「ボン・ソワー!」と挨拶されても、あれ、この人誰だっけ?と気が付かないほど。

 ディナーは毎回豪華なので、この日だけ特別ということはないが最初にアミューズが、そしてメイン料理の後にフロマージュ(チーズ)が出てきた。この日誕生日を迎えた女性のため、彼女のデザートには花火が付いてきた。乗客全員で「ハッピバースデー」を歌う。夕食の後はロビーでショーが繰り広げられた。ドイツの楽団がバイエルン風の曲で雰囲気を盛り上げ、ご夫婦たちはダンスを楽しむ。それが終わると今度はしっくりしたシャンソンが始まった。フランスで1960年代半ばに大流行したという『ラ・ボエーム』。70代から80代の乗船客が多いので彼らの青春時代に流行った懐かしい曲なのだろう。因みにこの船の名前はラ・ボエーム。ボエームとはボヘミアン、つまり“さすらい人”のこと。旅する船にぴったりの名前だ。

 明日はいよいよライン川クルーズのハイライト。コーブレンツからリューデスハイムまで、最も古城密度の高い場所を走っていく。夜更かしも程々にして早起きしよう。
ラインフェルス城(左上)・ローレライの岩(右上)・プファルツ城(左下)・ビンゲンねずみ塔(右下)zoom
ラインフェルス城(左上)・ローレライの岩(右上)・プファルツ城(左下)・ビンゲンねずみ塔(右下)
第5日めは午前中にライン川の景勝地を一気に上る

 コーブレンツで朝食を終えた頃に船は動き出した。皆、デッキへ出てカメラを構える。南へ向かって右手に大きなシュトルツェンフェルス城が見えたと思うと直ぐ左手に有名なマルクスブルク城が現れる。この城は12世紀に建てられてから一度も破壊されたことがない名城で「ドイツ古城協会」の本部が置かれている。船はゆっくり進むのでシャッターチャンスは十分ある。リューデスハイムまでには30ほどの古城や廃墟あり、デッキの右側へ行ったり左側へ行ったりと忙しい。左手丘にネズミ城と猫城が並んでいるのは訳がありそう。14世紀にトリーア大司教が通行税徴収のために建てた城に対し、地元領主のカッツェンエルボーゲン伯爵が直ぐに城を建設。カッツェは猫、エルンボーゲンは肘という意味なので、城は猫(カッツェ)城と呼ばれるようになった。大司教の城より大きかったので伯爵は隣の城を「ネズミ城」と呼び、そのうち公式にそう呼ばれるようになったそうだ。対岸にはラインフェルス城が聳えている。巨大な中世の城は廃墟のままで、20世紀に修復された南側部分はシュロスホテルになっている。

 さて、船はいよいよローレライの岩へ向かう。ローレライとは単なる岩山で、岩の上で娘が歌で船人を惑わせた伝説がある、というだけのもの。それでは物足りないということで1983年に岩の下の岸壁にローレライのブロンズ像が設置された。アナウンスが流れデッキに居た全員が左へ寄って像を探す。しかし小さくて船からは見つけられない。あれなの?いや違う!え、どこ?の繰り返しで、誰も判らなかったようだ。ローレライの岩を過ぎると右手にライン河畔の最高級ホテル、シェーンブルク城が現れる。素晴らしい古城ホテルで客室数31と少なく、極めて予約が取りにくい。直ぐに中州に建てられたユニークなプファルツ城に到達。14世紀にライン川流域で勢力を握っていたヴィッテルスバッハ家のルートヴィヒ4世が建設し、鎖を張って強引に税を徴収した。そんな城を間近に見ながら船は進む。次のポイントは「ビンゲンねずみの塔」。13世紀にマインツ大司教が税徴収のため川中に建設した塔で19世紀に信号タワーとなり、現在は役目を終えて佇んでいる。伝説によると、強欲なマインツ大司教のもとにネズミの大群が押し寄せ、川中の塔に逃げた大司教を襲い掛かって食い殺してしまった、と伝えられている。

 ビンゲンを過ぎると対岸はもうリューデスハイム。ここで昼食となり、食後は町を個々に散策。リューデスハイムはライン河畔の中で最も有名で最も賑やかな町。中心は「つぐみ横丁」という路地で、ここに居酒屋が集まっている。見逃せないのが自動機械楽器博物館。ドイツ最古で最大の自動楽器博物館で、所蔵数550点のうち350点ほどが常時展示されている。ガイドツアーで自動演奏を聴きながら館内を見学する。クロワジのお客さんも皆ここにやって来た。

 船はこの日もビンゲンに停泊。夜のイベントはクルーと共にリューデスハイムの町に繰り出す、というもの。昼間でさえ賑やかだった「つぐみ横丁」はどの居酒屋も大賑わいだった。
つぐみ横丁(左上)・マンハイム宮殿(右上)・マンハイム宮殿「選帝侯の間」(左下)・最後の挨拶とラ・ボエームを歌うシーン(右下)zoom
つぐみ横丁(左上)・マンハイム宮殿(右上)・マンハイム宮殿「選帝侯の間」(左下)・最後の挨拶とラ・ボエームを歌うシーン(右下)
第6日めは最後の寄港町マンハイム

 最後の日はネッカー川がラインに流れ入る合流地点の町マンハイムへ。「ドイツ古城街道」はマンハイムから始まり、ネッカー川に沿って東へ続いていく。有名なハイデルベルクもネッカー河畔にある。マンハイムではオプショナルでハイデルベルク行きバスツアーに参加できる。そちらも魅力あったけど、マンハイム宮殿がリニューアルされたので町に留まる。マンハイム宮殿は第二次世界大戦で被害に遭って修復された後、大学校舎になった。一部はプファルツ選帝侯の住居が再現され、階段の間や騎士の間などは早くから修復されていた。今回訪れると、2階の全てと地階が新しくなって充実した展示内容になっている。マンハイム宮殿は正面ファサードの長さが450m、とベルサイユ宮殿に次ぐ長さを誇り、かなりの広角レンズでも全体が入らない。碁盤の目の様に造られた町は歩きやすく、市民の憩いの場「水道塔」広場も近かった。

 今日は最終日。ディナーではクルーが紺と赤のベレー帽をかぶって現れ、ちょっといつもと違う雰囲気。ベレー帽は “古き良きフランス” の象徴だ。彼らは各々のテーブルを回って挨拶し、一緒に笑顔で写真に収まってくれた。今日はワインが白4種類、ロゼ2種類、赤3種類、とゴージャス。食事の間、乗客たちは他のテーブルへ行って別れの握手をし合っている。乗船中に仲良くなった人たちだ。デザートが終わった頃、クルー全員が前に並び船長が挨拶をした。どのテーブルからも感謝を込めて大きな拍手が湧く。その後クルーたちが『ラ・ボエーム』を歌い始めた。するとテーブルの皆も歌い始め、大合唱となる。ガラディナーで歌われてからクルーたちが口ずさんでいる歌。何度も繰り返されるサビの部分を覚えてしまった。

「ラ・ボエーム、ラ・ボエーム、La bohème, la bohème さすらい人、さすらい人 」
「サ・ヴレ・ディーロン・ネ・デール、Ça voulait direon est heureux それは、私たちは幸せという意味だった 」 


ラ・ボエームはこの船の名前。私たち乗客は”さすらい人“。そしてさすらい人は幸せなのだ。

 翌朝、目を覚ますと既に船はストラスブールの港に着いていた。朝食を終えた者から順に下船が始まる。感心するほどスムースで静かな下船だった。

さよなら、皆さんAu revoir à tous、さよなら、クロワジAu revoir Croisi。
ドイツに居ながらフランスに居たような約一週間。ユニークで特別なグルメの旅が終わった。

クロワジ・ヨーロッパ・クルーズ(Croisi Europe Cruises)
ライン川クルーズの詳細:https://www.croisieurope-japan.com/rhine/sfs/

沖島博美 Hiromi Okishima
ドイツ語圏を中心にその国の芸術と文化を紹介し続けている。主な著書に『ベルリンと北ドイツ』『ハプスブルク帝国』以上GAKKEN地球の歩き方、『ウィーンのカフェ文化』『エリザベートで巡るドイツ・オーストリア・ハンガリー』以上河出書房新社、『ベルリン/ドレスデン』『チェコ歴史散歩』以上日経BP社、その他多数。


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※ コラム画像はすべて沖島博美さんの撮影
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