zoom 「アメリカ第一」主義の排外的な姿勢にとどまらず、南米ベネズエラを政権転覆して原油などの資源を手中に収め、イランを攻撃してアジアへの石油・ガスの供給を危機に陥れるなど好戦的な姿勢を露わにして世界中から眉をひそめられているのがアメリカのドナルド・トランプ大統領(共和党)だ。トランプ氏が引き起こした反米と原油高という逆風が吹き荒れる中でも、来日した西部カリフォルニア州の有名都市のサンフランシスコ観光協会のアンナ・マリー・プレスッティ最高経営責任者(CEO)は「サンフランシスコが包括的で、多様な都市であることは変わらない」と訪問を呼びかける。
「サンフランシスコを信じて」のスローガンを展開する観光協会にとって、「2026年は大きな追い風が吹いている」と余裕の表情を見せた。「大きな追い風」の正体とは―。
zoom 【サンフランシスコ】アメリカ西部カリフォルニア州にある国内主要都市の一つで、太平洋と湾に囲まれた港湾都市。人口は87万3965人(2020年時点、アメリカ統計局)。1849年に始まったカリフォルニア州ゴールドラッシュで、金脈を掘り当てて一攫千金を手にすることを夢見た野心家が押し寄せて発展した。金融業が集まっているほか、付近の「シリコンバレー」とともにIT産業の集積地にもなっている。
サンフランシスコはリベラルで多様性を尊重する気風があり、ダニエル・ルーリー市長を含めて民主党の政治家が強いのが特色。トランプ氏が不法移民の摘発を進めているのに対抗し、寛容な姿勢を示している「聖域都市」の代表格でもある。
年間を通して温暖な気候で、海流の影響で夏の朝と夕方には霧が発生しやすい。1937年に完成したゴールデンゲートブリッジや、国定歴史建造物にも指定されているケーブルカー、港にある「フィッシャーマンズワーフ」、日系人らが集まって形成された地区「ジャパンタウン」、中華街「チャイナタウン」などの名所を抱える。グルメ本「ミシュランガイド」に掲載されている飲食店はサンフランシスコ湾岸地域(ベイエリア)で51軒に上る美食都市で、ヒッピー文化の発祥の地としても知られる。
サンフランシスコ国際空港には全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)、JAL子会社の格安航空会社(LCC)「ジップエア トーキョー」、ANAと同じ航空連合「スターアライアンス」のユナイテッド航空が日本と結ぶ路線を運航している。
zoom ▽日本からの旅行者数は「新型コロナ禍前の83%」
「世界で最も知名度が高い都市の一つ」であることを自認するサンフランシスコが、金融・ITと並んで柱としているのが観光業だ。新型コロナウイルス禍後の回復傾向を受けて2026年には国内外から2402万人の旅行者が訪れると予測した。
しかしながら、第2次トランプ政権発足後の反米感情の高まりや、中東紛争による原油の供給不足を背景にした航空機の燃油サーチャージ(燃油特別付加運賃)の26年5月発券分からの大幅引き上げが打撃となる。それでも、インタビューに応じたプレスッティ氏は「2026年は大きな追い風がある」と自信が揺るがない。ホテルオークラ傘下のホテル・ニッコー・サンフランシスコの元副社長兼総支配人で、「日本は50回超訪れた第2の故郷だ」と話す親日家だ。
日本からの海外旅行は為替の円安ドル高傾向、イラン攻撃による地政学的リスクが招いた消費者心理の悪化、さらには燃油サーチャージの上昇が“トリプルパンチ”になっている。ただ、プレスッティ氏は「日本からのサンフランシスコを訪れる旅行者数は新型コロナ禍前の約83%まで回復しており、低迷している中国に比べると好調だ」とし、2026年に日本人旅行者は約11万3000人と予測して「少しでも上積みしたい」と鼻息が荒い。
zoom ▽「フルハウス」も。ロケ地に選ばれるワケ
プレスッティ氏はサンフランシスコの強みの一つとして「多くの映画や番組といった映像作品のロケ地となり、それらのファンが見物のために訪れることだ」と指摘する。テレビドラマ「フルハウス」で有名になった19~20世紀に建造されたビクトリア様式とエドワード様式の長屋住宅「ペインテッド レディ」はサンフランシスコ観光協会のポスターにもなっており、「日本で会った女性も『フルハウスに出てきた住宅を見られるのですね』と目を輝かせていた」と胸を張る。
他にも映画「GODZILLA ゴジラ」(2014年)でゴジラによって破壊されたゴールデンゲートブリッジ、故ロビン・ウィリアムズ氏が演じた主役が離婚後に子どもたちに会うために家政婦に変装する映画「ミセスダウト」(1993年)に登場するビクトリア様式の住宅なども残っている。それらの作品では坂のあるサンフランシスコの街並みの美しさが際立っており、訪問意欲をかき立てる。
サンフランシスコで撮影される作品が多いのは「絵になる」風景に加え、撮影時に交通規制を敷くなど協力的だからなのだろうか。そう質問すると、プレスッティ氏は「(映像作品のロケーション撮影を誘致し、撮影が円滑に進むよう支援する)サンフランシスコ・フィルム・コミッションが協力しているのに加え、サンフランシスコでの映画撮影に支給する報奨金制度によって制作費を低減できるのも大きい」と説明した。
zoom ▽“まるごと乗り物博物館”
プレスッティ氏が次に挙げた強みは、自動車社会のアメリカにあって「電車や路線バス、ケーブルカー、自動運転タクシーなどの公共交通機関で好きな場所に自由に移動できる」という点だ。サンフランシスコの公共交通機関が発達しているということは環境負荷低減にも熱心である証左で、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」を「史上最大の詐欺だ」と決めつけて再離脱したトランプ氏とは一線を画す。
サンフランシスコを複数回訪れた私も訪れるたびに公共交通機関で移動しており、街が“まるごと乗り物博物館”だと言っても過言ではない。
名物のケーブルカーにとどまらず、サンフランシスコ湾岸地域を結ぶ電車「ベイエリア高速鉄道(BART)」、公共交通機関「MUNI」が運営する電車、電気自動車(EV)を含めた路線バス、自動車のように運転士が足元のアクセルペダルとブレーキペダルを踏んで操作するレトロな路面電車「PCCカー」、日本からは消えたトロリーバスと多種多様な乗り物が走り回る。
PCCカーの開発は1929年、バスやマイカーが道路上に広がってきたことに危機感を抱いた米国各地の路面電車の経営者がつくる研究会「電気鉄道社長会議委員会」(略称ERPCC)で始まった。36年に登場した車両は流線形のスマートな外観で、加速性能も優れており、一世を風靡した。欧州の路面電車にも導入されたほか、日本でもライセンス生産されて東京都電や、その後廃止された名古屋市電、神戸市電などに広がった。
サンフランシスコに繁華街とフィッシャーマンズワーフの約10キロを結ぶ路面電車「F線」が1995年に復活した際、集められたのがPCCカーだった。それらを実際に走っていた都市の首都ワシントン、東部ニュージャージー州ニューアーク、中西部デトロイトなどの当時の塗装に再現し、通行人らの目を楽しませている。
一方、トロリーバスは屋根に付けられた棒状の集電装置「トロリーポール」を使い、上空に張ったトロリー線(架線)から取り込んだ電気でモーターを動かして走る。日本では富山県と長野県を結ぶ山岳観光ルート「立山黒部アルペンルート」を運営する立山黒部貫光が、富山県にある3・7キロの立山トンネル(室堂―大観峰)での営業運転を2024年11月30日で終えたのを最後に全廃された。
zoom ▽2026年の「大きな追い風」は三つ
魅力的な旅行先なのは間違いないものの、アメリカの隣国のカナダなどでは「反トランプ」の意識が高まって訪米をボイコットする動きが広がっている。民主党支持者が多いサンフランシスコ市民からはトランプ氏に対して「あの汚らわしい輩の名前も口にしたくない」「約束した物価高騰を是正できず、自分は戦争が嫌いだと言いながらベネズエラやイランを攻撃した大嘘つきだ」といった反発の声が噴出しているだけに、旅行者が離れるボイコットに巻き込まれるのは理不尽な面がある。
それでも、プレスッティ氏が「2026年は大きな追い風」と豪語したのには、サンフランシスコ地区での三つの世界的なイベントがある。一つはナショナル・フットボール・リーグ(NFL)の頂上決戦「第60回スーパーボウル」が2月8日にサンフランシスコ近郊のサンタクララにある競技場「リーバイス・スタジアム」で開催されたことだ。
二つ目はアメリカとカナダ、メキシコが共催する国際サッカー連盟(FIFA)のワールドカップ(W杯)で、同じくリーバイス・スタジアム(W杯での名称は「サンフランシスコ・ベイエリア・スタジアム」)が会場の一つとなる。プレスッティ氏は「サッカーファンは熱心で、母国の代表を応援するために来場する人が多い」と期待を込める。
残る世界的なイベントは、サンフランシスコで8月28~30日に同時開催される大規模イベント「ポケモンXP」と世界大会「ポケモンワールドチャンピオンシップス2026」だ。プレスッティ氏は「ポケモンのファンは大勢おり、大きな経済効果が期待できる」と訴えた。
ゴールドラッシュが過去のものとなっても、人々を呼び込む黄金のようなコンテンツが次から次へと押し寄せるサンフランシスコ。この街では、“現代版ゴールドラッシュ”が現在進行中のようだ。
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)
