旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2026年3月23日更新
共同通信社 経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

「鉄道の街」の新顔の大型複合施設、大井町トラックスは“鉄分”豊富だった!

△JR東日本東京総合車両センターに並んだ山手線のE235系(大塚圭一郎撮影)zoom
△JR東日本東京総合車両センターに並んだ山手線のE235系(大塚圭一郎撮影)

 JR東日本は大井町駅(東京都品川区)に直結した大型複合施設「OIMACHI TRACKS(大井町トラックス)」が2026年3月28日(土曜日)に開業するのに先駆け、一部エリアを公開した。JR山手線の電車E235系などが並ぶ車両基地で検査・修繕も手がける「JR東日本東京総合車両センター」が目の前に広がるトレインビュースポットで、JR京浜東北線と東急電鉄大井町線、東京臨海高速鉄道りんかい線の3線が乗り入れる「鉄道の街」だけに、施設内も“鉄分”豊富だった。

△JR大井町駅(右)と、大井町トラックスのホテル&レジデンスタワー(右側の超高層ビル)。左側の超高層ビルはビジネスタワー(大塚圭一郎撮影)zoom
△JR大井町駅(右)と、大井町トラックスのホテル&レジデンスタワー(右側の超高層ビル)。左側の超高層ビルはビジネスタワー(大塚圭一郎撮影)

 【大井町トラックス】JR東日本が社宅などの跡地を再開発した大型複合施設で、延べ床面積は約25万9000平方メートル。中核となる26階建て(高さ約115メートル)、地下3階の2棟のビルは、オフィスなどが入居する「大井町トラックス ビジネスタワー」と、「ホテルメトロポリタン 大井町トラックス」(客室285室)や賃貸住宅などが入る「大井町トラックス ホテル&レジデンスタワー」で構成。屋外通路に店舗が並んだアウトモール型商業空間「大井町トラックス ショップ&レストラン」には、レストランやカフェ、生活雑貨、8スクリーンのシネコン(複合映画館)「TOHOシネマズ 大井町」など計81店が入居する。
 名称の「トラックス」には「車両工場・線路」「通り」「楽曲」の意味を込めたという。大井町駅には直結する出口「トラックス口」を新設。大井町トラックスの隣接地には品川区役所の新庁舎が建設され、2029年9月の開庁を計画している。

△「交通広場」に面したビジネスタワーの壁に活用された車庫のレンガ(大塚圭一郎撮影)zoom
△「交通広場」に面したビジネスタワーの壁に活用された車庫のレンガ(大塚圭一郎撮影)

 ▽名実ともに「広域品川圏」

 大井町トラックスは、JR東日本が京浜東北線沿線の浜松町駅(東京都港区)から大井町駅までの計5駅の周辺で進めてきたまちづくり「広域品川圏」のプロジェクトの一つ。他には車両基地跡に新駅「高輪ゲートウェイ」(港区)を2020年3月に開業し、超高層ビル群を設けた「高輪ゲートウェイシティ」も26年3月28日にグランドオープンを迎える。

 JR東日本は「広域品川圏」について「将来的に(品川駅発着となるJR東海の)リニア中央新幹線の開通や、(田町駅付近を経由して羽田空港と結ぶJR東日本の)羽田アクセス線といった新しい新線の計画もあり、羽田空港にかなり至近で、東京の玄関口となるポテンシャルがさらに高まっていくエリアだ」と指摘する。

 ただ、地元に住む品川区民の1人としては大井町トラックスの誕生で「名実ともに『広域品川圏』が形成された」と受け止めている。というのも、浜松町と田町、高輪ゲートウェイ、品川の4駅はいずれも港区にあり、品川区にあるのは大井町駅および大井町トラックスだけだからだ。

 また、港区はオフィスと商業が中心の立地なのに対し、品川区は歴史ある住宅地を抱えるだけに生活圏としての役割も大きい。より地に足の着いた地域に立地する大井町トラックスは、生活により身近な施設となりそうだ。

△サウナメッツァ大井町トラックスのトラムサウナ(大塚圭一郎撮影)zoom
△サウナメッツァ大井町トラックスのトラムサウナ(大塚圭一郎撮影)

 ▽解体済みのレンガ車庫、その“正体”は

 そして大井町トラックスの立地の特徴について、JR東日本マーケティング本部まちづくり部門開発戦略ユニットの中野貴雄マネージャーは「大正時代から車両基地として鉄道を支えてきた施設がある『鉄道の街』という由来を持つ」と強調する。

 建設地周辺には1915年、旧鉄道院大井工場(現・JR東日本東京総合車両センター)が設けられた。その中でも特別だったのが、JR東日本が公式には「レンガ車庫」と呼んでいる解体済みの施設だ。

 この「レンガ車庫」の“正体”について、JR東日本関係者は私に対して「天皇、皇后両陛下らが利用する『お召し列車』(御料車両)の車両を大正時代から長年保管していた『御料車庫』だ」と明らかにした。お召し列車に現在使われているのはE655系「なごみ」の特別車両(御料車両)は今、JR東日本東京総合車両センターとは別の車両基地に保管されている。

  「レンガ車庫」こと御料車庫に使っていたレンガの一部は、バスなどが乗り入れられる「交通広場」に面したビジネスタワー1階の壁に活用されている。

△ラトリエ・デュ・パンの窯でパンを焼く様子(大塚圭一郎撮影)zoom
△ラトリエ・デュ・パンの窯でパンを焼く様子(大塚圭一郎撮影)

 ▽通勤電車で「ととのう」!?

 大井町トラックスがユニークなのは、北東部にはうぐいす色を一部まとったステンレス製車体の山手線用電車E235系が“休眠”する車両基地を一望できることだ。大井町駅に新設の「トラックス口」に隣接した約1000平方メートルの広場「ステーションプラザ」や、2層にまたがる計約3400平方メートルの広場「クロスプラザ」からよく見えるため、鉄道ファンらでにぎわいそうだ。

 ホテル&レジデンスタワーの中核施設となる「ホテルメトロポリタン 大井町トラックス」の5階のレストラン「ザ・テイラー・ヤード・メーン・ダイニング」は、車両基地に隣接した立地なのを生かして「ヨーロッパの食堂車をイメージしたボックス席を設けるなど、鉄道旅を体験できるようなデザインコンセプトとなっている」(同ホテルの大矢一憲総支配人)。

 このビルの4階に出店するオークランド観光開発(愛知県春日井市)の「サウナメッツァ大井町トラックス」はサウナからのトレインビューを楽しめ、男性用浴室はつり革を設けるなど通勤電車の車内を模した「トラムサウナ」のデザインにしている。

電車の雰囲気で「ととのう」のは貴重な体験と言えよう。同社の担当者は「大井町トラックスの立地ならではのデザインに仕上げた」と明かす。

△大井町トラックスの脇を走る東急電鉄大井町線の9000系。全車両が新型車両6020系に置き換えられ、引退する予定だ(大塚圭一郎撮影)zoom
△大井町トラックスの脇を走る東急電鉄大井町線の9000系。全車両が新型車両6020系に置き換えられ、引退する予定だ(大塚圭一郎撮影)

 ▽注目テナントも続々進出!

 東急電鉄大井町線沿いの広さ約4600平方メートルの公園「トラックスパーク」は人工芝と天然芝を敷いた広場などがあり、近隣住民が散歩ついでに立ち寄れる雰囲気だ。

併設施設には注目テナントが進出しており、カミチクグループが鹿児島で飼育した牛肉や豚肉を販売する「ピチピチミートファーム」と、ピチピチミートの新鮮なひき肉を使ったハンバーグを味わえる飲食店「ピチピチミートで山本のハンバーグ」だ。屋外には、買った肉をその場で楽しめるセルフバーベキューエリア(利用は有料)も設けた。

 近くには愛犬連れでも過ごせるテーブルを用意したコーヒーチェーン「スターバックス」の店舗や、アメリカ西部カリフォルニア州で創業したステーキや魚介類のグリルとサラダバーを特色とする飲食店で、日本では外食大手ロイヤルホールディングスが展開する「シズラー」も開業。

 商業ゾーンの2階にできた東京・六本木のベーカリー「ラトリエ・デュ・パン」は2店目となり、白玉生地でバターを包んで「ゲランド」の塩で味を引き立てた「塩パン」が看板商品だ。関係者は「当店は店内工房を使って手作業で焼き上げており、これまでも商業施設への出店を打診されてきたが工房に十分なスペースがなかったのでお断りしてきた」と打ち明けた上で、「今回はパンを焼く窯を置くスペースが確保できるなど条件が整ったので出店した」と意気込む。

 大井町駅は3つの鉄道路線が交わり、さまざまな行き先へ向かう路線バスが発着する交通の要衝であるとともに、周辺には昔ながらの飲み屋街や新しいビルが混在するのが特色だ。大井町トラックスという新顔の誕生で、“鉄分”と多様性に富んだ「鉄道の街」はより幅を増し、より奥行きのあるトラックス(楽曲)を奏でることになりそうだ。

(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社 経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月、東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月に社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。2024年9月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を積極的に執筆しており、英語やフランス語で取材する機会も多い。

日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、旧日本国有鉄道の花形特急用車両485系の完全引退、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載「鉄道なにコレ!?」と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。

本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)、カナダ・バンクーバーに拠点を置くニュースサイト「日加トゥデイ」で毎月第1木曜日掲載の「カナダ“乗り鉄”の旅」(https://www.japancanadatoday.ca/category/column/noritetsu/)も執筆している。

共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。
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