このところ各地で浮世絵展が開催されています。
上野の森美術館で開催中の五大浮世絵師展 歌麿 写楽 北斎 広重 国芳」も好評を博しています。
浮世絵人気の発端は、2025年1月にスタート したNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺」でしょう。
江戸時代中期に活躍した主人公の蔦重こと蔦屋重三郎(本名・柯理【からまる】)は、寛延3年(1750年)、遊郭の吉原に生まれました。その翌年に徳川吉宗が没し、この頃、江戸は時代の転換期を迎えたと言われます。
安永2年(1772年)には徳川家治の御用人兼務の老中に田沼意次が就任し、次々に経済改革を行います。同じ年、蔦重は吉原大門五十間道並びにある義兄の店の一角を借りて本屋を開き、人気を博しました。その店が「耕書堂」です。
江戸時代の本屋は、現代と同じく新刊書を販売しましたが、それだけではなく、版元となって書籍を出版し、時には書籍の卸売りを行い、さらに貸本業も行いました。江戸で書物を出版するには、同業者組合である「書物問屋仲間」に加入している本屋が届け出をして、所定の手続きを経て奉行所から許可を得る必要があったそうです。
書籍には古典文学に関する「書物」と、草双紙(赤本・黒本・青本・黄表紙・合巻)や一枚摺りの浮世絵を含む「草紙」があり、草紙は気軽に購入できる書籍に比べれば安価な出版物で消耗品のように扱われたとか。
蔦重は類まれなるアイデアと感性をもって、江戸の遊郭吉原や歌舞伎、当時大流行した狂歌を活用して狂歌師や戯作者とも親交を深め、武家や富裕な町人、役者、戯作者、絵師などによる文化人のサロンを形成し、新しい才能を見出し、世に送り出しました。
それが喜多川歌麿であり、東洲斎写楽であり、葛飾北斎だったのです。
田沼意次の政治による経済の発展を背景に江戸の武士や上層の町人によって発展した文化は「化政文化」と呼ばれ、規制が厳しかった寛政の改革(1787~1793)によりいったんは停滞したものの、19世紀に入ると再び興隆しましした。
蔦重は寛政9年(1797年)、47歳でこの世を去りましたが、彼がその発展に果たした役割は少なくありません。
蔦重が亡くなった年、浮世絵師の次代の才能といえる、初代歌川広重、歌川国芳が生まれていますが、それも偶然ではないように感じます。
さて、この展覧会は、江戸時代を彩った浮世絵五大スター浮世絵師の代表作を中心に約140点を紹介しています。
構成は、
第一章
喜多川歌麿―物想う女性たち
第二章
東洲斎写楽―役者絵の衝撃
第三章
葛飾北斎―怒涛のブルー
第四章
歌川広重―雨・月・雪の江戸
第五章
歌川国芳―ヒーローとスペクタクル
美人画、役者絵、風景画など各分野で浮世絵の頂点を極めた5人の絵師の代表作はみごたえたっぷりです。
ヨーロッパで浮世絵が人気を博し、特に19世紀後半における「ジャポニズム」の流行が大きな要因となったのは有名な話です。
ゴッホやモネ、エミール・ガレなど名だたる芸術家の作品に、その影響を見ることができます。
浮世絵がヨーロッパの人々の美意識に衝撃を与えたのは、例えば、単なる背景や克服すべきものでない「自然」のとらえ方であり、「余白」「無駄」など意味が明確でないデザイン感覚であり、西洋的な固定された視線でない自由で主観的な目線であり、当時の崇高な西洋絵画には見られなかった「滑稽」「風刺」「色気」であったり。
五大スター絵師の浮世絵をあらためて見てみると、それぞれの作品のすばらしさはもちろんですが、江戸時代の人々がいかに暮らしのなかにアートを取り入れて楽しんでいたかを知り、その文化度の高さにも感動します。
大きなサイズの浮世絵がないわけでもありませんが、その作品のほとんどが庶民の手に届くような、より安価で、手元で見て楽しむアートだったということを頭に入れながら鑑賞すると、また違った感想が生まれるかもしれません。
この展覧会は、来場者全員が無料で聞ける音声ガイドのサービスが付いています。
音声ガイドナビゲーターに歌舞伎俳優の尾上松也さん。
独特の美声で、五大浮世絵師の作品の魅力、江戸時代の文化など鑑賞ポイントをわかりやすく解説しています。会場には松也さんをモデルにした浮世絵もあり、注目です。
※本ガイドはお手持ちのスマートフォンを使用して音声ガイドを聞くシステム。
※音声ガイドのご利用にはデータ通信が必要。
※会場での機材やイヤホン等の貸し出しはなし。
五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳
会期
~ 2025年7月6日(日)※休館日なし
開館時間
10:00〜17:00(入館は閉館の30分前まで)
会場
上野の森美術館
〒110-0007東京都台東区上野公園1-2
アクセス
JR上野駅公園口より徒歩3分
東京メトロ・京成電鉄 上野駅より徒歩5分
問い合わせ
ハローダイヤル 050-5541-8600(全日/9:00~20:00)
詳細
https://www.5ukiyoeshi.jp/
参考資料:別冊太陽「蔦屋重三郎ー時代を変えた江戸の本屋」(平凡社刊)