旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2025年5月3日更新
共同通信社 経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

その名も「あっぱれ」な遊覧船、ほうふつとさせる人気スポットとは… シリーズ「ゴールデンウイークはゴールデンルートへ」【下】

△河口湖を航行する遊覧船「天晴(あっぱれ)」(大塚圭一郎撮影、プライバシー保護のため画像を一部加工しています)zoom
△河口湖を航行する遊覧船「天晴(あっぱれ)」(大塚圭一郎撮影、プライバシー保護のため画像を一部加工しています)

 ゴールデンウイーク(大型連休)もいよいよ“後半戦”に入り、首都圏在住者が手軽に足を運べるのが世界遺産・富士山の周辺だ。ふもとにある富士五湖の一つ、河口湖で遊覧船「天晴(あっぱれ)」に乗り込むと、約20分間かけて湖を周遊する。スピーカーから流れる案内放送に耳を傾けると、近くにある人気スポットをほうふつとさせることに気づいた。

△「天晴」から見た富士山(大塚圭一郎撮影)zoom
△「天晴」から見た富士山(大塚圭一郎撮影)

 【河口湖】山梨県富士河口湖町にある湖で、世界遺産・富士山の構成資産に登録されている。河口湖の湖岸線は約19キロと、他に本栖湖、精進湖、西湖、山中湖がある富士五湖で最長。富士山の噴火活動で川に溶岩が流れ込んで誕生したといわれている。標高は約830メートル。水深は最大で約15メートルで、ワカサギやブラックバスなどが生息している。
 湖の奥にそびえる富士山や、湖面に映る「逆さ富士」を観賞できる景勝地になっている。湖畔では春にはサクラ、夏には紫色のラベンダーなど四季折々の草花を楽しむことができる。毎年8月5日には1万発の花火を打ち上げる「河口湖湖上祭」が開催されている。近くには富士山麓電気鉄道富士急行線の終点の河口湖駅があり、河口湖駅発着で富士急バスの河口湖周遊バス「レッドライン」が運行されている。

△畳の間のような雰囲気に仕上げた「天晴」の1階の船内(大塚圭一郎撮影)zoom
△畳の間のような雰囲気に仕上げた「天晴」の1階の船内(大塚圭一郎撮影)

 ▽「安宅船」をイメージ
 河口湖のコバルトブルーの湖面を眺めていると、まるで戦国時代にタイムスリップしたかのような和風の船が航行していた。富士急行傘下の富士五湖汽船が運航する遊覧船「天晴」で、2025年12月で就航5年を迎える。
 戦国時代の甲斐武田軍に属していた水軍の軍船「安宅船(あたけぶね)」をモチーフとした船体は全長23・5メートル、19総トンで定員は120人。巡航速度は10ノット(時速約19キロ)だ。武田軍のシンボルとなっている「赤備え(あかぞなえ)」を施し、武田家の家紋「武田菱」の旗を掲げている。
 1階の屋内になった部分には航路や観光情報などを映し出す50インチの大型モニターを設置し、畳の間のような雰囲気に仕上げている。後方のデッキでは木製のベンチで風に当たりながら風景を楽しむことができ、高齢者や車いすの利用者も乗船できるバリアフリー設計となっている。2階は展望スペースになっている。

△木製のベンチがある「天晴」の1階のデッキ(大塚圭一郎撮影)zoom
△木製のベンチがある「天晴」の1階のデッキ(大塚圭一郎撮影)

 ▽ターゲットに的中
 乗り込むと大音響の案内放送が流れ、「武田家自慢の河口湖遊覧船『天晴』にご乗船賜り、御礼申し上げます」と歓迎してくれた。やがて「さあ、『天晴』出航じゃ!」という口上とともに「ほら貝」の音色が響き、船体が動き出した。
 「いざ、出陣じゃ!」と言わんばかりに“出撃”した船は、和風の外観とは打って変わって船内の乗客は外国人だらけだ。一見するとミスマッチに映るが、実はターゲットに的中しているのは明らかだ。
 日本を訪れる外国人旅行者の多くは滞在中に和風の体験を望んでおり、とりわけ日本のイメージとして描かれやすい戦国武将や忍者などは「Cool(格好いい)!」と受け止められがちだ。河口湖では「天晴」の前には「アンソレイユ」(フランス語で「日だまり」の意味)という名前の欧風の遊覧船が航行していたが、外国人旅行者により求められるのは「天晴」のような和風テイストの体験だ。バトンタッチは成功したと言えよう。

△「天晴」のモニターに映し出された航路(大塚圭一郎撮影)zoom
△「天晴」のモニターに映し出された航路(大塚圭一郎撮影)

 ▽案内放送を聞いて思い浮かべた施設とは
 「天晴」は逆さ富士の名勝地となっている「産屋ケ崎」を通り、河口湖大橋をくぐった。やがて湖に浮かぶ「鵜の島」の近くでUターンし、ラベンダー観賞の名所として知られる八木崎公園の近くを通って戻った。
 船内で流れる太鼓や琴などを奏でたBGMと、案内放送に耳を傾けていると近くにある人気スポットの雰囲気と似ていることに気づいた。遊園地「富士急ハイランド」にある人気忍者アニメ「NARUTO―ナルト―」と「BORUTO―ボルト―NARUTO NEXT GENERATIONS」を題材にしたアトラクション「NARUTO×BORUTO 富士 木ノ葉隠れの里」だ。

△河口湖に浮かぶ「鵜の島」(大塚圭一郎撮影)zoom
△河口湖に浮かぶ「鵜の島」(大塚圭一郎撮影)

 ▽乗船した感想は…
 「NARUTO―ナルト―」などは私の前任地のアメリカでも人気が高く、日本関連のイベントでは登場キャラクターに扮装したコスプレーヤーも多く見かけた。
 「NARUTO×BORUTO 富士 木ノ葉隠れの里」にも大勢の訪日客が押し寄せているのを踏まえると、外国人客に好まれるテイストを採り入れた「天晴」が脚光を浴びているのは自然な流れであろう。乗船した感想はやはりと言うか、「あっぱれ」であった。
 「天晴」は河口湖畔の船津浜にある河口湖桟橋を出発し、戻ってくる。原則として運航時間は午前9時半~16時半で、30分間隔で運航する。料金は大人(中学生以上)が1000円、小学生が500円。

共同通信社 経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月、東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月に社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。2024年9月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を積極的に執筆しており、英語やフランス語で取材する機会も多い。

日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、旧日本国有鉄道の花形特急用車両485系の完全引退、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載「鉄道なにコレ!?」と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。

本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)、カナダ・バンクーバーに拠点を置くニュースサイト「日加トゥデイ」で毎月第1木曜日掲載の「カナダ“乗り鉄”の旅」(https://www.japancanadatoday.ca/category/column/noritetsu/)も執筆している。

共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。
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