旅の扉

  • 【連載コラム】こだわり×オタク心
  • 2025年4月7日更新
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コラムニスト:Tomoko Nishio

八ヶ岳エリアがバレエに染まる2週間 第36回清里フィールドバレエ開催

開幕を飾る「シンデレラ」zoom
開幕を飾る「シンデレラ」
2025年7月26日(土)から8月9日(水)、清里高原の萌木の村で「清里フィールドバレエ」が開催される。長年継続して開催されている、日本では数少ない野外バレエ公演で、今年は36回目。今回の演目は「シンデレラ」と「ジゼル」の2作に加え、古典バレエの名場面や現代作品などが楽しめる「Field GALA 2025」という3つのプログラムが用意されている。また、昨年に引き続きフィールドバレエ公演期間中は八ヶ岳エリアでバレエ関連の展示やイベントが楽しめる「バレエウイークin八ヶ岳」も開催される。今回の公演の見どころについて、フィールドバレエに携わってきたバレエ・シャンブルウエストの今村博明総監督の談話を交えながら紹介しよう。(文章中敬称略)
期間中は日中のリハーサル見学も自由に楽しめるzoom
期間中は日中のリハーサル見学も自由に楽しめる
■本物の森を舞台にしたオンリーワンの夢世界、地域をあげての応援も

清里フィールドバレエはバレエ・シャンブルウエスト(以下、シャンブルウエスト)の今村総監督と川口ゆり子芸術監督の「フランスで体験した野外バレエを日本でも広めたい」という思い、萌木の村の「清里に新しい文化の光をともしたい」という双方の熱い思いのもと、1990年の第1回公演から試行錯誤を重ねつつ上演され続けてきた。屋根のない野外ステージを囲む自然の森の舞台に浮かび上がる幻想的な空間に星空、月夜、霧、そよぐ風といった「舞台効果」が加わった舞台は、同じものは二つとしてない、一夜限りの夢世界だ。この魅力に惹かれた地元の人々やバレエファンらの口コミなどで評判は次第に広まり、第1回公演ではわずか300人ほどの観客が、今では期間中多い時では約1万人を動員する清里を代表するイベントへと成長した。

「町の人たちの応援が年々大きくなっていることを感じている。本当に心強く、ありがたく思う」と話す今村総監督。萌木の村を中心とする清里の一角のイベントだったフィールドバレエは年々協賛エリアを広げ、今では開催が近づくと協賛施設やメインストリートにはバナーフラッグが飾られるようになる。地元の人に「バレエを見に来たの?」と声をかけられることも多くなった。さらに2024年からは「バレエウイークin八ヶ岳」として、八ヶ岳エリア一帯でバレエをテーマにした展覧会やグッズ販売といったイベントが開催されるようになり、今年はバレエ鑑賞付き宿泊プランを設けるホテルも数を増している。「爽やかな八ヶ岳で、日中は八ヶ岳地域のイベントで、夜はフィールドバレエをご覧いただき、ぜひ気軽にバレエにふれていただきたい」と今村総監督は語る。
「シンデレラ」は華やかなハッピーエンドの物語zoom
「シンデレラ」は華やかなハッピーエンドの物語
■開幕「シンデレラ」をシャンブルウエスト生え抜きのダンサーが飾る

さて、気になる演目だが、2025年はA「シンデレラ」全幕、B「ジゼル」全幕、C「Field GALA 2025」の3種と盛りだくさん。「シンデレラ」「ジゼル」はシャンブルウエストで上演されている人気の演目を、フィールドバレエの野外舞台を生かした形に構成して上演する。「『シンデレラ』はディズニーのアニメなどでもよく知られている物語で、お子さまにも親しみやすい作品として選んだ」と今村総監督。フィールドバレエ名物の打ち上げ花火や、ダンサーが客席に降りての演出があるのも楽しみだ。

初日を飾るダンサーはシャンブルウエストの柴田実樹と早川侑希。両名とも同バレエ団のバレエスクールを卒業した、いわば生え抜きの若手ダンサーだ。このほか川口まり&藤島光太、土田明日香&鈴木諒羽ら、経験豊富なダンサーらがキャスティングされている。
自然とバレエの幽玄美を堪能したい「ジゼル」zoom
自然とバレエの幽玄美を堪能したい「ジゼル」
■国内トップクラスのダンサーをゲストに迎えての「ジゼル」、創作バレエにも注目

Bプログラム「ジゼル」は古典の名作の一つで、ドイツの農村が舞台。自然に囲まれたフィールドバレエの舞台ならではの演目ともいえる。1幕の森の中にたたずむジゼルの小さな家はおとぎ話の世界のようにかわいらしい一方、2幕のヴィリ(若くして亡くなった乙女たちの精霊)が踊る世界は打って変わって幽玄美も漂う。主演は新国立劇場バレエ団プリンシパル(最高位ダンサー)の小野絢子と福岡雄大、東京バレエ団の上野水香と柄本弾の、日本のトップクラスのダンサーがゲスト出演する。さらにバレエ・シャンブルウエストの芸術監督である川口ゆり子とベテラン逸見智彦も登場。キャリアを積んだ熟練ダンサーたちならではの繊細な心理描写とテクニックによる物語世界に、たっぷりと酔いしれることができるだろう。
「Un Poema de Amor」。野外ステージではどのような演出になるのか楽しみだzoom
「Un Poema de Amor」。野外ステージではどのような演出になるのか楽しみだ
日程中日に組まれるCプログラム「Field GALA 2025」にも注目だ。
「シルビア」はシャンブルウエストが拠点を置く八王子市の「八王子ユースオーケストラ」と共演した際に上演した演目でフィールドバレエでは初登場。ギリシャ神話世界をテーマとした古典バレエのひとつで、「ドリーブの音楽がとても美しい。コールドバレエやパ・ド・ドゥなど名場面を集めた『シルビア組曲』といえる構成となっているので、初めて見る人にも、バレエファンの方々にも楽しんでいただけるだろう」


「Un Poema de Amor」は「ジゼル」でゲスト出演する新国立劇場バレエ団の福岡雄大がシャンブルウエストのために振付したオリジナル作品で、2024年秋のバレエ団第100回定期公演で上演された。グレゴリオ聖歌と現代音楽を用いたコンテンポラリーバレエで、今回は野外用にアレンジしなおしての上演となる。「福岡さんがとても意欲的につくってくださり、シャンブルウエストの新しい魅力を引き出してくれた作品。野外ではどのような演出になるか、私もとても楽しみにしている」と今村総監督もうれしそうに語る。

「ワルプルギスの夜」はオペラ「ファウスト」から派生したバレエ作品で、ここで踊られるのはシャンブルウエスト独自のバージョン。メフィストフィレスに連れられたファウストが、ワルプルギス山の狂乱の宴に迷い込むシーンが描かれており「自然の中のフィールドバレエには、まさにぴったりの舞台」。バッカスや巫女など精霊たちとともに宴の夜を楽しみたい。また、「けっけちゃん」で知られる吉本バレエ芸人の松浦景子がシャンブルウエストの土方一生とともに「ラ・フィユ・マル・ガルデ」のパ・ド・ドゥに挑む。「さまざまなバレエの魅力を楽しんでいただければ」。日程次第では複数公演も鑑賞可能だ。ぜひ夏の八ヶ岳ならではの、特別なひと時を体験していただきたい。
フィールドバレエ名物の打ち上げ花火zoom
フィールドバレエ名物の打ち上げ花火
第36回清里フィールドバレエ

■日程:2024年7月26日(土)~2024年8月9日(土)
 7月29日、8月4日は休演
■会場:萌木の村野外特設ステージ
■開演:19時30分 ※終了予定は21時30分(7/28・29、8/1・2は22時)
■出演:バレエ・シャンブルウエスト
■演目・日時・キャスト ( )内はゲストダンサーの所属先


Aプログラム:「シンデレラ」全幕
▼7月26日(土) 柴田実樹、早川侑希
▼7月27日(日) 川口まり、藤島光太 ※1
▼7月28日(月) 土田明日香、鈴木諒羽 ※1


Cプログラム:「Field GALA 2025」
▼7月30日(水)
・シルビア 柴田実樹、江本拓
・Un Poema de Amor(演出・振付 福岡雄大/新国立劇場バレエ団)
・ラ・フィユ・マル・ガルデ 松浦景子(吉本興業)、土方一生
・ワルプルギスの夜 川口まり、逸見智彦、藤島光太
▼7月31日(木)
・シルビア 松村里沙、江本拓
・Un Poema de Amor(演出・振付 福岡雄大/新国立劇場バレエ団)
・ラ・フィユ・マル・ガルデ 松浦景子(吉本興業)、土方一生
・ワルプルギスの夜 川口まり、逸見智彦、藤島光太


Aプログラム:「シンデレラ」全幕
▼8月1日(金)柴田実樹、早川侑希 ※2
▼8月2日(土)吉本真由美、土方一生 ※2
▼8月3日(日)松村里沙、江本拓


Bプログラム:「ジゼル」全幕
▼8月5日(火)小野絢子(新国立劇場バレエ団)、福岡雄大(新国立劇場バレエ団)
▼8月6日(水)上野水香(東京バレエ団)、柄本弾(東京バレエ団)
▼8月7日(木)川口ゆり子、逸見智彦
▼8月8日(金)上野水香(東京バレエ団)、柄本弾(東京バレエ団)
▼8月9日(土)小野絢子(新国立劇場バレエ団)、福岡雄大(新国立劇場バレエ団)


※1 公演前に「全国バレエコンクールin八王子エキシビション」を開催
※2 公演前に「末来をつくる子供たちのための交流コンサート」を開催


公式サイト
https://www.fieldballet.com/



※雨天中止の場合は払い戻しあり(詳細はチケット販売サイトにて)
※ホテル付プランもあり(詳細は公式サイトにて)
コラムニスト:Tomoko Nishio
旅行業界・旅&芸術文化ライター、動物好き。旅行業界誌記者・編集者を経てフリーの旅行ライターに。南仏中世と「三銃士」オタク。歴史とアートに軸を置きつつ、絵画、バレエ、音楽、物語、映画、漫画のロケ地・聖地巡り、海外旅行や小さなお散歩まで、様々な視点で旅を発信。「旅」は生活のなかにもあり。

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