アメリカ西部ロサンゼルスの球団「ロサンゼルス・ドジャーズ」の佐々木朗希投手が、背番号「11」を譲ったミゲル・ロハス内野手に贈った日本酒の1つが旭酒造(山口県岩国市)の「獺祭(だっさい)」の高級品だ。東京・新宿の伊勢丹新宿店で「獺祭」の全ラインナップを販売するイベント「獺祭 ザ・ステージ」が2025年2月19日に始まるのを控えた試飲会で味わうと、豪速球投手のお眼鏡にかなった特性が浮き彫りになった。
【獺祭】旭酒造株式会社(山口県岩国市、2025年6月1日に株式会社獺祭に社名変更)が製造、販売する日本酒。カワウソ(獺)が捕らえた魚を岸に並べて祭りをするように見えることに由来する名称で、「だっさい」と読む。長期にわたって生産していた「旭富士」に代わる高級品として1990年に売り出し、軌道に乗ったため「獺祭」ブランドに集約した。
原料米に山田錦だけを使った純米大吟醸酒だけを手がけており、岩国市の工場で生産する日本産「獺祭」の輸出先は30カ国・地域を超えている。2023年からはアメリカ東部ニューヨーク州で清酒「ダッサイブルー」の生産を始めた。
伊勢丹新宿店の「獺祭 ザ・ステージ」は2025年2月19日~25日に開催。
▽社長も寝耳に水
ドジャーズの公式インスタグラムは2月12日(日本時間2月13日)、佐々木投手のロハス内野手への贈り物を公開した。その一つが「獺祭」の高級品「獺祭 磨き その先へ」だ。720ミリリットルで4万1800円と、標準品の「獺祭 純米大吟醸45」(同2183円)ならば19本も買えてしまう金額だ。
旭酒造の桜井一宏社長は東京都千代田区での試飲会で、佐々木投手の贈答品について「私たちも聞いていなかったのでびっくりしました」と寝耳に水だったことを打ち明けた。桜井社長が知ったのは、佐々木投手の贈り物について知った友人からの連絡がきっかけで「『佐々木さんすごいね』と言われ、最初は『何の話?』と聞き返していた」という。
▽「その先へ」の由来
そもそもなぜ「獺祭 磨き その先へ」と命名されているのか。これは獺祭のフラッグシップ商品である原料米の精米歩合が23%の「獺祭 磨き二割三分」を超えるものを造るというコンセプトのためで、桜井社長は「名前の通り獺祭の先に行こう、獺祭というブランド自体を超えていこうというお酒だ」と補足した。
醸造に当たっては「私たちの技術的な部分のその時できる技術の粋を集め、私たちがその時にできるすべてを詰め込んでいる」とし、こう強調した。
「普通の獺祭が市販の車としたら、これはF1カーなのです」
▽豪速球投手と通じる点とは
F1マシンのような高スペックという「獺祭 磨き その先へ」は、佐々木投手が放つ時速160キロを超える豪速球と通じる。
そしていざ口に含むと、かつて観賞したF1レースでマシンが目の前を駆けてきた時を思い起こさせるような体験が待ち受けていた。しっかりとした日本酒らしい、しかしながらまろやかな味わいが広がった後は、F1マシンがいつの間にか去っているような鋭いキレ味を発揮するのだ。
獺祭の大部分の商品は精米歩合を表示しているが、「獺祭 磨き その先へ」は明示していない。性能をブラックボックス化しているところも、まるでF1マシンのようだ。
▽空振りした冗談
味わい深い日本酒を試飲して上機嫌になった私は、調子に乗って「佐々木投手も、ロッテのお菓子だったのが『磨き その先へ』とはずいぶんステップアップしましたね」と冗談を口にした。
プロ野球パ・リーグ球団「千葉ロッテマリーンズ」に所属していた佐々木選手は、日本代表として出場した2023年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でチェコ代表の選手に死球を与えたおわびにロッテの菓子「コアラのマーチ」「パイの実」などの詰め合わせを差し入れたことを記憶していたからだ。
桜井社長もおつきあいで「ハハハ」と笑ってはくれたものの、周囲の反応は明らかに引きつっていた。F1マシンや豪速球投手が絡む話題だけに、賞味期限切れの精彩に欠けるネタを鈍重な口ぶりで繰り出しても空振りするのは自明だった…。
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)