旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2025年2月19日更新
共同通信社 経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

ドジャーズの佐々木投手のお眼鏡にかなった「獺祭」高級品、豪速球に通じる味わい

△「獺祭」をグラスに注ぐ旭酒造の桜井一宏社長(2025年2月、東京都千代田区で大塚圭一郎撮影)zoom
△「獺祭」をグラスに注ぐ旭酒造の桜井一宏社長(2025年2月、東京都千代田区で大塚圭一郎撮影)

 アメリカ西部ロサンゼルスの球団「ロサンゼルス・ドジャーズ」の佐々木朗希投手が、背番号「11」を譲ったミゲル・ロハス内野手に贈った日本酒の1つが旭酒造(山口県岩国市)の「獺祭(だっさい)」の高級品だ。東京・新宿の伊勢丹新宿店で「獺祭」の全ラインナップを販売するイベント「獺祭 ザ・ステージ」が2025年2月19日に始まるのを控えた試飲会で味わうと、豪速球投手のお眼鏡にかなった特性が浮き彫りになった。

△「獺祭 ザ・ステージ」の開催期間中の伊勢丹新宿店本館のイメージ(25年2月、千代田区で大塚圭一郎撮影)zoom
△「獺祭 ザ・ステージ」の開催期間中の伊勢丹新宿店本館のイメージ(25年2月、千代田区で大塚圭一郎撮影)

 【獺祭】旭酒造株式会社(山口県岩国市、2025年6月1日に株式会社獺祭に社名変更)が製造、販売する日本酒。カワウソ(獺)が捕らえた魚を岸に並べて祭りをするように見えることに由来する名称で、「だっさい」と読む。長期にわたって生産していた「旭富士」に代わる高級品として1990年に売り出し、軌道に乗ったため「獺祭」ブランドに集約した。
 原料米に山田錦だけを使った純米大吟醸酒だけを手がけており、岩国市の工場で生産する日本産「獺祭」の輸出先は30カ国・地域を超えている。2023年からはアメリカ東部ニューヨーク州で清酒「ダッサイブルー」の生産を始めた。
 伊勢丹新宿店の「獺祭 ザ・ステージ」は2025年2月19日~25日に開催。

△日本酒「獺祭 磨き その先へ」のイメージ(25年2月、千代田区で大塚圭一郎撮影)zoom
△日本酒「獺祭 磨き その先へ」のイメージ(25年2月、千代田区で大塚圭一郎撮影)

 ▽社長も寝耳に水
 ドジャーズの公式インスタグラムは2月12日(日本時間2月13日)、佐々木投手のロハス内野手への贈り物を公開した。その一つが「獺祭」の高級品「獺祭 磨き その先へ」だ。720ミリリットルで4万1800円と、標準品の「獺祭 純米大吟醸45」(同2183円)ならば19本も買えてしまう金額だ。
 旭酒造の桜井一宏社長は東京都千代田区での試飲会で、佐々木投手の贈答品について「私たちも聞いていなかったのでびっくりしました」と寝耳に水だったことを打ち明けた。桜井社長が知ったのは、佐々木投手の贈り物について知った友人からの連絡がきっかけで「『佐々木さんすごいね』と言われ、最初は『何の話?』と聞き返していた」という。

△旭酒造の桜井博志会長(左)と桜井一宏社長(25年2月、千代田区で大塚圭一郎撮影)zoom
△旭酒造の桜井博志会長(左)と桜井一宏社長(25年2月、千代田区で大塚圭一郎撮影)

 ▽「その先へ」の由来
 そもそもなぜ「獺祭 磨き その先へ」と命名されているのか。これは獺祭のフラッグシップ商品である原料米の精米歩合が23%の「獺祭 磨き二割三分」を超えるものを造るというコンセプトのためで、桜井社長は「名前の通り獺祭の先に行こう、獺祭というブランド自体を超えていこうというお酒だ」と補足した。
 醸造に当たっては「私たちの技術的な部分のその時できる技術の粋を集め、私たちがその時にできるすべてを詰め込んでいる」とし、こう強調した。
 「普通の獺祭が市販の車としたら、これはF1カーなのです」

△「獺祭」について説明する旭酒造の桜井社長(25年2月、千代田区で大塚圭一郎撮影)zoom
△「獺祭」について説明する旭酒造の桜井社長(25年2月、千代田区で大塚圭一郎撮影)

 ▽豪速球投手と通じる点とは
 F1マシンのような高スペックという「獺祭 磨き その先へ」は、佐々木投手が放つ時速160キロを超える豪速球と通じる。
 そしていざ口に含むと、かつて観賞したF1レースでマシンが目の前を駆けてきた時を思い起こさせるような体験が待ち受けていた。しっかりとした日本酒らしい、しかしながらまろやかな味わいが広がった後は、F1マシンがいつの間にか去っているような鋭いキレ味を発揮するのだ。
 獺祭の大部分の商品は精米歩合を表示しているが、「獺祭 磨き その先へ」は明示していない。性能をブラックボックス化しているところも、まるでF1マシンのようだ。

△試飲会の会場外にさりげなく置かれていた「獺祭」の超高級品。「獺祭 ビヨンド・ザ・ビヨンド2024」(右)は2300ミリリットルで418万円、左の「獺祭 挑む」は720ミリリットルで33万円(25年2月、千代田区で大塚圭一郎撮影)zoom
△試飲会の会場外にさりげなく置かれていた「獺祭」の超高級品。「獺祭 ビヨンド・ザ・ビヨンド2024」(右)は2300ミリリットルで418万円、左の「獺祭 挑む」は720ミリリットルで33万円(25年2月、千代田区で大塚圭一郎撮影)

 ▽空振りした冗談
 味わい深い日本酒を試飲して上機嫌になった私は、調子に乗って「佐々木投手も、ロッテのお菓子だったのが『磨き その先へ』とはずいぶんステップアップしましたね」と冗談を口にした。
 プロ野球パ・リーグ球団「千葉ロッテマリーンズ」に所属していた佐々木選手は、日本代表として出場した2023年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でチェコ代表の選手に死球を与えたおわびにロッテの菓子「コアラのマーチ」「パイの実」などの詰め合わせを差し入れたことを記憶していたからだ。
 桜井社長もおつきあいで「ハハハ」と笑ってはくれたものの、周囲の反応は明らかに引きつっていた。F1マシンや豪速球投手が絡む話題だけに、賞味期限切れの精彩に欠けるネタを鈍重な口ぶりで繰り出しても空振りするのは自明だった…。
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社 経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月、東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月に社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。2024年9月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を積極的に執筆しており、英語やフランス語で取材する機会も多い。

日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、旧日本国有鉄道の花形特急用車両485系の完全引退、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載「鉄道なにコレ!?」と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。

本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)、カナダ・バンクーバーに拠点を置くニュースサイト「日加トゥデイ」で毎月第1木曜日掲載の「カナダ“乗り鉄”の旅」(https://www.japancanadatoday.ca/category/column/noritetsu/)も執筆している。

共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。
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