(シリーズ「富士急ハイランドに無事入らん!?【第1回】」からの続き)
JR東日本と富士山麓電気鉄道を直通運転する千葉発河口湖(山梨県富士河口湖町)行きの特急「富士回遊」3号はJR中央線を快走し、併結運転していた千葉発松本(長野県松本市)行きの特急「あずさ」3号と大月駅(山梨県大月市)で切り離された。乗客の大半を占める外国人旅行者の多くが目指すのは富士山と五重塔、さらに春には桜という「和風3点セット」を愛でることができるスポットだ。その最寄り駅に、親子連れや鉄道愛好家にお薦めの穴場があることは意外と知られていない。しかも、盛夏にはうってつけの清涼感を届けてくれる音色も味わえるのだ。
【富士山麓電気鉄道】運輸やレジャー、不動産、小売業などの事業を手がける富士急行の全額出資子会社。大月駅と河口湖駅を結ぶ富士急行線(26・6キロ)と、河口湖畔の天上山(てんじょうやま)のロープウエイを運行している。本社は山梨県富士河口湖町。
2022年に設立され、23年に富士急行から富士急行線とロープウエイの事業を譲り受けた。富士山麓電気鉄道は、富士急行が設立の1926年から現社名に変更した60年まで付けていた社名だった。
▽一気に3両に短縮
富士回遊とあずさの電車「E353系」が併結運転していた12両編成の列車は、到着した大月駅の3番線で切り離されてあずさが先に出発した。3両編成へと一気に短くなった富士回遊はポイントレール(分岐器)で進路を変え、複線の中央線から単線の富士山麓電気鉄道の富士急行線へ舞台を移した。
勾配があり、曲線が続く路線でもE353系にとっては楽勝だ。3両編成全てがモーター(主電動機)を備えている。カーブでは車体を支える空気ばねの高さを調整することで車体を最大で1・5度傾け、高速で通過しても乗客が快適に過ごすことができる「空気ばね式車体傾斜制御」を備えている。
▽富士山、河口湖でもない下車駅
富士回遊は都留文科大学前駅(山梨県都留市)に停車後、周りの外国人乗客が座席から立って身支度を始めた。訪日客の多くの目当てになっている下吉田駅(山梨県富士吉田市)で下車するためだ。主要駅の富士山駅(富士吉田市)、終点の河口湖駅でもなく、かつては特急列車が素通りしていた駅が〝訪日客銀座〟になっているのはどこか滑稽だ。
下吉田駅で降りる訪日客の目当ては、富士吉田市の新倉山浅間公園(あらくらやませんげんこうえん)の展望デッキだ。春には約650本の桜の木が花を咲かせる中で、戦没者を慰霊する五重塔「忠霊塔」越しに富士山を一望できる。
「和風3点セット」を同じファインダーに収められるとあって、旅行ガイドブック「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」の表紙に写真が使われて世界に広く知られるようになった。展望デッキは新倉山の中腹にあるため398段の石段を登る必要があるが、アメリカ人の友人も「非常に美しい風景なので訪日時に是非訪れたい」と話していた。
▽昭和時代を思い起こさせる外観
下吉田駅で電車を降りる場合、新倉山浅間公園に加えて訪れるべき穴場がある。それは下吉田駅そのものだ。
旧名古屋駅舎を模して設計された1929年開業の下吉田駅舎は、昭和時代を思い起こさせるレトロな外観だ。隣接するJRの寝台列車「ブルートレイン」に使われていた客車「スハネフ14形」も、懐かしい気分を盛り上げてくれる。
駅は富士急行線の鉄道博物館の趣となっており、5000形「トーマスランド号」や、運転席を2階に設けて1階の客室から前面展望を楽しめるようにした初代「フジサン特急」2000系なども置いている。
共同通信社は2018年3月に5000形が翌19年2月に引退し、下吉田駅に保存されることを報じてその通りになったが、この記事と併用写真は私が手がけた。現行フジザン特急8000系となっている旧小田急電鉄20000形(ロマンスカーRSE)の譲渡も12年1月に報じ、13年10月に正式発表された。
▽電車に乗っていても一瞬味わえる名物
富士急ハイランドに向かうため富士回遊に乗り込んだ私は、残念ながら今回は駅舎の裏手と保存車両を眺めるしかできなかった。それでも一瞬ながら味わうことができた名物は、プラットホームと駅舎の間にある構内踏切の電鈴式の警告音だ。
電鈴式の踏切は富士急行線で唯一で、鐘を鳴らしているかのような音色は夏場の暑さを和らげる風鈴のようにさわやかだ。余韻に浸っていると、電車は富士山駅に着いた。
富士山駅は折り返し型のスイッチバック型式の駅となっており、ここからは進行方向が反対になる。大月行き各駅停車の6000系「トーマスランド25周年記念号」が滑り込んでくるのと入れ替わりに出発すると、わずか2分で富士急ハイランド駅に着いた。
(シリーズ「富士急ハイランドに無事入らん!?【第3回】」に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)