GWをはさんで、毎年展示されるのが待ち遠しい東京・港区根津美術館所蔵、尾形光琳筆の「燕子花(かきつばた)図屏風」。今年は5月12日(日)まで、「特別展 国宝・燕子花図屏風~デザインの日本美術~」が開催中です。燕子花図屛風とともに近世の作品を主にとりあげながら、デザインの観点から日本の美術をみつめるというテーマです。
江戸時代18世紀、6曲1双、総金地に咲き誇る燕子花の群生を描いた同作品は、『伊勢物語』第9段「東下り」の八橋の場面に着想を得つつ、裕福な注文主を想定させる高品質な絵具をふんだんに用いて描かれました。
燕子花の群青は近くで見ると、1枚1枚花びらの厚みや色の違いが感じられ、緑青がふんだんに使われた葉にも生気が感じられます。
今でもその絢爛さは色あせることがありませんが、完成当時はどれほど輝きを放っていたでしょう。
さて、この屏風の素晴らしさは、平面上の幾何学的なレイアウトにあり、現代のグラフィックデザインを先駆ける作品としても知られています。
説明を読んで、なるほどと思うばかりなのですが、燕子花は実際より花弁が太く、形状も整い、やや意匠化されているのだそう。さらによく見ると、花の群は何か所かに同じパターンが見られます。
衣装文様のような「型」を使ったのではないかと推測されていますが、これぞ、呉服商に生まれ育った尾形光琳のセンス!
観る場所によって、花が迫ってきたり、遠くに見晴らすことができたり、素晴らしい迫力です。これは屏風の立体的な構造が意識された構成になっているからだとか。
いくら眺めても見飽きることがありません。
同作品は和歌や物語の世界を象徴的に表現しています。
平安時代に成立した歌物語「伊勢物語」第9段「八橋」(現・愛知県三河市)で、貴族で歌人の在原業平と思しき男が都に残してきた妻を思って詠んだ「からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびしをぞおもふ」(唐衣 着つつ馴れにし 妻しあれば はるばる来ぬる 旅しを思う)からの着想。各句の頭の文字を取ると「かきつばた」となる折句です。
屏風には「橋」も人も登場しませんが、当時の人々は、燕子花の意匠を見た瞬間、「『かきつばた、きつつなれにし~』と吟じ、絵画の素晴らしさを愛でるとともに、『伊勢物語』にまでおしゃべりの話題が広がったのかもしれませんね。
今回の特別展、他にも興味深い作品が多数展示されており、説明を読んでは作品を眺めているうち、気がついたらずいぶん長い時間が経っていました。
でも、毎年、ゴールデンウィークになると開花する庭園のカキツバタの花の観賞をすることも、どうぞお忘れなく。
どこも人、人、人のにぎわいですが、この広大なお庭には、東京の真ん中にいるとは思えない爽やかな風が吹いています。
展覧会情報:
特別展
国宝・燕子花図屏風
デザインの日本美術
2024年4月13日(土)〜5月12日(日)
休館日 毎週月曜日 ただし、4月29日(月・祝)し5月6日(月・振替休)は開館し、5月7日(火)休館。
開館時間 午前10時~午後5時 ただし、5月8日(水)から5月12日(日)は午後7時まで開館(入館はいずれも閉館30分前まで)
入場料 オンライン日時指定予約
一般1500円
学生1200円
*障害者手帳提示者および同伴者は200円引き、中学生以下は無料
会場 根津美術館 展示室1・2
詳細は同美術館HPでご確認ください。https://www.nezu-muse.or.jp/
※ 展示室内の画像は特別な許可を得て撮影しています。