旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2024年4月17日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

本日決定の鉄旅日本一、3年連続的中の審査員は“乱闘”ツアー選出と予想 第13回鉄旅オブザイヤー

△東海道新幹線の「のぞみ」で運行するN700シリーズ(12年1月、筆者撮影)zoom
△東海道新幹線の「のぞみ」で運行するN700シリーズ(12年1月、筆者撮影)

 優れた鉄道旅行商品を選ぶ「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」の2023年度(第13回)の授賞式が鉄道博物館(さいたま市)で4月17日に開かれ、日本一の鉄道旅行に当たるグランプリを決定する。今回で審査員が11年目となった筆者は、授賞式当日の決戦投票でグランプリを決めるようになった2020年度以降に投票した商品が22年度まで全てグランプリを獲得して3年連続で的中した。「全勝」かつ「4連覇」がかかった23年度のグランプリには、ツアー開催当日に“乱闘”が起きた商品が勝ち上がると予想している(グランプリの結果は末尾の「追記」をご参照ください)。

△第13回鉄旅オブザイヤーの授賞式が開かれる鉄道博物館の会場(24年4月、鉄旅オブザイヤー実行委員会提供)zoom
△第13回鉄旅オブザイヤーの授賞式が開かれる鉄道博物館の会場(24年4月、鉄旅オブザイヤー実行委員会提供)

 【鉄旅オブザイヤー】国内の鉄道旅行に贈られる代表的な賞で、テレビ番組で「鉄道旅行のアカデミー賞」と紹介された。旅行業界でつくる鉄旅オブザイヤー実行委員会が主催し、2011年度から毎年実施。後援にはJR旅客6社全てと、私鉄でつくる日本民営鉄道協会、日本旅行業協会といった鉄道・旅行業界の主要企業・団体がそろう。
 旅行会社のツアーを対象にした旅行会社部門は、委員長の芦原伸・日本旅行作家協会専務理事や筆者(大塚圭一郎・共同通信社ワシントン支局次長)ら計10人の外部審査員が、旅行のプロとしての企画力が感じられるか、独創性、乗車する列車や路線の魅力度などを60点満点で採点。
 一般消費者から旅行企画を募るアマチュア部門は23年度に42件の応募があり、ベストアマチュア賞は東海大学遠藤ゼミ鉄旅FCプロジェクトチーム、矢部航平さんの企画「あなたはきっと、福井が好きになる。~雪月花(せつげっか)で行く福井横断の旅~」が受けた。

△長崎市内を走る西九州新幹線「かもめ」のN700S(23年9月、吉村元志氏提供)zoom
△長崎市内を走る西九州新幹線「かもめ」のN700S(23年9月、吉村元志氏提供)

 ▽JTBが3部門
 今回の旅行会社部門は2023年に催行または開催を決めた国内の鉄道旅行を募集し、前年度より21件減の65件の応募があった。
 映画賞「アカデミー賞」がノミネート作品を事前に公表しているように、鉄旅オブザイヤー実行委員会は旅行会社部門の四つの主要部門賞を事前に発表する方式を20年度から採用。それらの中から授賞式当日の決選投票でグランプリを決めるようになった。
 23年度の主要4部門は24年4月1日に発表され、団体旅行を対象としたエスコート部門賞、個人向けツアーに贈るパーソナル部門賞、JRグループと自治体が手がける大型観光企画「デスティネーションキャンペーン(DC)」を対象にしたDC部門賞の3部門賞をJTBが占めた。これらはいずれも筆者が各部門の最高得点を付けた商品で、筆者が最高得点を付けた商品が主要部門賞の75%となって22年度と同率だった。

△国の重要文化財に指定されている武雄温泉の楼門(19年8月、佐賀県武雄市で大塚圭一郎撮影)zoom
△国の重要文化財に指定されている武雄温泉の楼門(19年8月、佐賀県武雄市で大塚圭一郎撮影)

 ▽新幹線史上初のプロレス大会
 主要部門賞のうち、エスコート部門賞には東海道新幹線「のぞみ」の車内で開かれた新幹線史上初めてのプロレス大会「新幹線プロレス」が選ばれた。2023年9月18日午後1時9分に東京を出発した「のぞみ」371号の最後尾の16号車が会場となり、起点の東京駅から名古屋駅まで対戦するシングルマッチ一本勝負となった。
 運賃などに限定グッズを付けたプレミアシート(2万5千円)、指定席(1万7700円)の計75席を23年8月5日に売り出したところ発売開始から約30分で完売した。
 パーソナル部門に輝いたのも新幹線の旅行商品の「新感戦 西九州新幹線かもめVS九州新幹線さくら あなたはどっち?」。22年9月に武雄温泉(佐賀県武雄市)―長崎間で部分開業した西九州新幹線で佐賀県や長崎県を訪れるか、九州新幹線に乗って熊本県や鹿児島県を訪問するかを選べる旅行商品となっている。
 筆者は「西九州新幹線の利用促進と、熊本地震からの復興が進む熊本県への九州新幹線を使った観光客の送り込みを両立させて地域経済を盛り上げた好企画です」とコメントした。

△福岡県内を走行中の九州新幹線「つばめ」の800系(19年4月、大塚圭一郎撮影)zoom
△福岡県内を走行中の九州新幹線「つばめ」の800系(19年4月、大塚圭一郎撮影)

 ▽海水浴列車の雰囲気を再現
 DC部門賞に選出されたのは茨城デスティネーションキャンペーン(DC)期間中の2023年12月10日、昭和時代の海水浴シーズンに大宮駅(さいたま市)と大洗駅(茨城県大洗町)を結んでいた海水浴客向けの臨時列車「大洗エメラルド号」の雰囲気を約35年ぶりに再現した列車を走らせた「『茨城DC特別企画』 1日限りの復活運転 大洗エメラルド号で行く鹿島臨港線の旅」。
 当時の列車さながらに旧日本国有鉄道(国鉄)時代に製造されたディーゼル機関車「DE10」が12系客車を引き、通常は旅客列車が走らない貨物線の鹿島臨港線に乗り入れさせた。筆者は「往年のように夏の海水浴シーズンに復活運転することも期待しています」とのコメントを寄せた。
 一方、鉄道愛好家向けの「鉄っちゃん部門賞」を受賞したのは、鉄道ファンの子どもと家族をターゲットにした日本旅行の「北陸新幹線乗務員お仕事体験ツアー」だ。
 関西または首都圏を発着して北陸地方を訪れるツアーで、23年11月と12月の計3回に合わせて103人が参加した。子どもたちはJR西日本の北陸新幹線用車両「W7系」を疑似運転できるシミュレーターや、実物のW7系の運転台見学や車内放送などを体験した。

△鉄旅オブザイヤー審査員の大塚圭一郎・共同通信社ワシントン支局次長(23年12月、VIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」の食堂車)zoom
△鉄旅オブザイヤー審査員の大塚圭一郎・共同通信社ワシントン支局次長(23年12月、VIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」の食堂車)

 ▽筆者が予想するグランプリは…
 筆者が2023年度の鉄旅オブザイヤーのグランプリを受けると予想しているのは“乱闘”の舞台、ただし予定調和でそうなった「新幹線プロレス」だ。アメリカに駐在中のため授賞式に残念ながら出席できない筆者は、いわば選挙の「不在者投票」に当たる事前投票でこの商品に1票を入れた。
 部門賞を選出する採点で筆者が60点満点中54点と全体の最高得点を付けたのは、新型コロナウイルス流行で日本の大動脈である東海道新幹線の利用者数まで落ち込んだ中で新たな用途開拓を評価したからだ。運行するJR東海によると、東海道新幹線の利用者はコロナ禍から徐々に回復した22年度で約1億3100万人と、影響が限られていた19年度(1億6800万人)を約22%下回っている。
 JR東海は挽回に向け、東海道新幹線の「のぞみ」の車両を1両単位で貸してイベントなどに使ってもらう商品「貸切車両パッケージ」を22年12月に売り出した。新幹線プロレスはこの商品を活用しており、わずか30分で予約受付が「満員御礼」となり、テレビ番組や新聞、ニュースサイトなどが飛びついて大きく紹介された。
 新幹線プロレスは貸切車両パッケージの成功例となったのにとどまらず、鉄道旅行と異業種コンテンツとの“マリアージュ”が経済効果を生むというポテンシャルを示した。鉄道旅行の新たな方向性を開拓する道筋にもなり、「これぞグランプリにふさわしい商品だ」と筆者は確信している。
 さて、本日の決選投票の行方は―。
 【授賞式後の追記】グランプリには日本旅行の「北陸新幹線乗務員お仕事体験ツアー」が決まりました。おめでとうございました。主要部門賞を事前発表するようになった2020年度以降で筆者の予想が初の「黒星」となった理由は、別の記事で考察します。
 末筆ながら鉄旅オブザイヤーに参加された皆様のご健闘をたたえるとともに、今後も参加者がわくわくし、地域経済に貢献する旅行商品が“発車”していくことへの強いのぞみを抱いています。
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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