旅の扉

  • 【連載コラム】こだわり×オタク心
  • 2023年7月23日更新
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コラムニスト:Tomoko Nishio

「ノルウェーと日本の架け橋に」バレエダンサー西野麻衣子が故郷で舞う「SWAN SONG 新たな羽ばたき」

オスロのオペラハウス。屋根の上は市民の憩いの場zoom
オスロのオペラハウス。屋根の上は市民の憩いの場
ノルウェー国立バレエ団で東洋人初のプリンシパル(最高位ダンサー)として活躍し、2021年に引退した西野麻衣子が、故郷大阪でノルウェー国立バレエ団の仲間たちとガラ公演「SWAN SONG 新たな羽ばたき」を行う。22年間にわたるノルウェーでの彼女の活躍の一部はドキュメンタリー映画『Maiko ふたたびの白鳥』として日本でも2016年に公開されたほか、ノルウェー国立バレエ団を代表してノーベル平和賞の式典で踊りを披露するなど、「芸術家」として国内でも高く評価されている。今回の公演は、実質「引退公演」となるが、その次の目標の一つには「日本とノルウェーの架け橋になる」ことがある。西野に公演への思いと、ノルウェーの魅力を聞いた。(文章中敬称略)
西野麻衣子 ©victoria franciscazoom
西野麻衣子 ©victoria francisca
■「誰もがノルウェー人になれる」オープンマインドな国のバレエ

西野麻衣子は自身のキャリアを培ったノルウェーを「男女平等、性別関係なく個人は個人として認めてくれる土壌がある。それが私を育み、母にもしてくれた」と振り返る。
西野は19歳でノルウェー国立バレエ団に入団し、2005年には『白鳥の湖』で初めての全幕主演を踊りプリンシパルとなる。同年、「ノルウェー評論文化賞」を受賞し、2021年の引退まで、最高位ダンサーとして舞台を勤め上げた。西野がバレエで切り拓いた「ノルウェーへの道」には現在6人の日本人ダンサーが続き、現地の舞台で切磋琢磨しながら活躍中だ。今回の公演にはそうした後輩にあたる若手日本人ダンサーらも出演。「私のキャリアのシェアをしたい」という西野がバレエ団で踊った作品を、自ら指導する。


そして西野自身は引退公演でありながら、彼女のレパートリーになかった2作品に新しく挑戦する。1つは今回の公演の主催者であり振付家、そして西野の英国ロイヤル・バレエ・スクール時代のフラットメイトでもある山本康介振付による『椿姫』だ。そしてもうひとつが『Le Cygne(瀕死の白鳥)』。この作品はノルウェー国立バレエ団のパートナーであるルカス・リマ振付によるもの。西野が初めて主演を務め、そして出産を経て再び舞台に戻ってきたときに踊った作品が『白鳥の湖』であることにより、女性としての人生、命の繋がり、踊ることに対する永遠の思いが込められている。「ノルウェーに来たら誰もがノルウェー人になれるという、この国はそんなオープンマインドがあり、その自由さがこの国のバレエの魅力になっている。今度の公演で私や、私のキャリアをシェアした後輩たちの踊りを通してぜひ、ノルウェーを感じてほしい」と西野は語る。
中央はオペラパレス。右が新ムンク美術館 ⒸVisitOslozoom
中央はオペラパレス。右が新ムンク美術館 ⒸVisitOslo
■青い海に浮かぶ白亜のオペラハウスは「私の家」

そんな西野がキャリアを重ねたノルウェー、オスロという街の魅力とは。まずはバレエダンサー西野が活躍したノルウェー国立バレエとオペラが本拠地とする、オペラハウスからみてみよう。

オスロフィヨルドの奥に立ち、海を臨む街のシンボルとなっているオペラハウスは、2008年にオープンした新しい劇場。外壁はイタリアから取り寄せた大理石で「真っ白な建物が海に浮かんでいるように見え、青空と海岸線と建物のコントラストが素晴らしい」と西野。内部はオーク材で、設計はノルウェーの船会社というのも、ヴァイキングの歴史を刻む海洋国家ノルウェーらしい。「木材が素朴で温かみのある曲線をつくり、洗練された北欧デザインの代表格だと思う。私は公園の森や海、この建物の風景を眺めながら徒歩で通っていたが、『これが私の家なんだ』と思うととても誇らしかった」という。

またこのオペラハウス、屋上へは誰もが外から昇れ、そこで本を読んだり日光浴をしたりするなど、市民がくつろげる場所にもなっている。車椅子でアクセスできるのも、福祉国家ノルウェーらしい。このオペラハウスの対岸には2021年に開館した新ムンク美術館が立ち、ノルウェー芸術の新たな拠点となっている。
オスロ最古のカフェ ⒸVisitOslozoom
オスロ最古のカフェ ⒸVisitOslo
■自然の中でのんびり過ごしながら徒歩で散策を

街中に自然が多いのもオスロの特徴の一つだ。「ノルウェー人は自然が大好きで、生活の中に必ず自然を取り込んでいる。手の届くところに公園や森があり、週末はそこでのんびりと過ごしてリセットし、月曜からまた仕事に励むのがノルウェー人のライフスタイル」なのだとか。
また実はオスロはカフェの街。統計によると国民一人当たりのコーヒー豆の消費量は世界3位でその量は日本の3倍以上という。歴史的なカフェをはじめ、現代の個性的なカフェなどが街中の至る所にあり「大抵の店がテイクアウト可能。オスロはコンパクトなので、ぜひコーヒーを片手に徒歩で散策し、街の空気を感じてほしい。そして公園でぼーっと過ごし緑を満喫する。それがオスロ流」
世界自然遺産に登録されているガイランゲルフィヨルド ⒸVisitNorwayzoom
世界自然遺産に登録されているガイランゲルフィヨルド ⒸVisitNorway
■フィヨルドや白夜、海や味覚。ノルウェー流のヴァカンス

ノルウェー郊外の魅力は「豊かな自然。冬はクロスカントリーをしながら近郊の森の散歩がおすすめ。ハダンゲルやソグネフィヨルドでは、海岸沿いの別荘やキッチン付きの小さなボートに泊って泳いだり、釣った魚を料理して楽しんだ。こうした過ごし方はノルウェー流のヴァカンスで、機会があったらぜひ楽しんでみていただきたい。トロムソで見たオーロラ、白夜のノールカップはエキゾチック。ロフォーテン諸島の村や、ベルゲンの風景はほんとうにかわいらしい」。ちなみにクロスカントリー用のスキーなどは無料でレンタル可能ということだ。

味覚の代表の一つが冬のトナカイ料理。北欧ではトナカイは家畜の一種で「日本人は『えっ?』と思うかもしれないが、実は脂肪が少なくてヘルシー」。春から初夏の旬は北海の小エビで、ディルとバターとマヨネーズのソースで和えたサラダやカクテルがおすすめ。初夏にはオレンジ色のクラウドベリーなどが旬の人気で、秋はキノコ。「採れたてをバター醤油で食べると、たまらなく美味しい」そうだ。

「いろいろたくさんの観光名所を見たいと思われるが、ノルウェー人のように、自然を感じながらゆっくりと、何もしない時間を過ごすのもこの国の魅力」と西野が語るように、ノルウェーでは自然を上手に生活に取り入れ、のんびりと暮らしている様子がうかがえる。そういえば絵本『三びきのやぎのがらがらどん』や、のどかな生活が感じられた『小さなスプーンおばさん』もノルウェーのお話だったなと思いをはせつつ、ぜひ「SWAN SONG 新たな羽ばたき」を通して、この国の魅力を感じてみてはどうだろう。
ロフォーテン諸島はオーロラの季節も人気 ⒸVisitNorwayzoom
ロフォーテン諸島はオーロラの季節も人気 ⒸVisitNorway
「SWAN SONG 新たな羽ばたき」
~西野麻衣子(元ノルウェー国立バレエ団プリンシパル)With Friends~


■日時:2023年7月28日(金) 18時開演
■会場:東大阪市文化創造大ホール (大阪府東大阪市)
■出演
西野麻衣子 ( 元ノルウェー国立バレエ団プリンシパル )
厚地康雄(元英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシパル)
ルカス・リマ(ノルウェー国立バレエ団プリンシパル )
ジョナサン・オロフソン、槇 美晴、氏家怜奈、西村奈恵 (ノルウェー国立バレエ団 )
長岡丈周、田中月乃(ノルウェー国立バレエ団2)
ピアノ:佐藤美和、ハープ:福井麻衣
■演目
「Le Cygne(瀕死の白鳥)」
振付:ルカス・リマ 音楽:カミーユ・サン・サーンス
出演:西野麻衣子
「MASK」
振付:ダグラス・リー 音楽:アントニオ・ヴィヴァルディ
出演:西野麻衣子 & ジョナサン・オロフソン
「椿姫」
振付:山本康介 音楽:フランツ・リスト
出演:西野麻衣子 & ジョナサン・オロフソン
「Christening Suite」よりパ・ド・ドゥ
振付:クリストファー・ウィルドン 音楽:エドヴァルド・グリーグ
「Concerto Con Brio」より
振付:ヤニック・ブカン 音楽:ドミートリイ・ショスタコーヴィチ
「ロミオとジュリエット」よりパ・ド・ドゥ
振付:マイケル・コーダ 音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
「ライモンダ」より
振付:マリウス・プティパ 音楽:アレクサンドル・グラズノフ
「ラ・シルフィード」より
振付:オーギュスト・ブルノンヴィル 音楽:レーヴェンショルド
「白鳥の湖」より
振付:マリウス・プティパ、レフ・イワノフ 
音楽:ピョートル I チャイコフスキー
「Ghost Of A Child」
振付:ギャレット・スミス 音楽:ニルス・フラーム


https://higashiosaka.hall-info.jp/event-guide/schedule/event1392.html

https://kyodo-osaka.co.jp/search/detail/6673
コラムニスト:Tomoko Nishio
旅行業界・旅&芸術文化ライター、動物好き。旅行業界誌記者・編集者を経てフリーの旅行ライターに。南仏中世と「三銃士」オタク。歴史とアートに軸を置きつつ、絵画、バレエ、音楽、物語、映画、漫画のロケ地・聖地巡り、海外旅行や小さなお散歩まで、様々な視点で旅を発信。「旅」は生活のなかにもあり。

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