旅の扉

  • 【連載コラム】こだわり×オタク心
  • 2023年4月9日更新
arT'vel -annex-
コラムニスト:Tomoko Nishio

アメリカ大自然の魅力を凝縮した映画『イントゥ・ザ・ネイチャー 自然が教えてくれること』

ユタ州モアブのウィルソン・アーチzoom
ユタ州モアブのウィルソン・アーチ
アメリカの旅の魅力の一つがアリゾナ州、ユタ州にまたがるグランドサークルはグランドキャニオンやセドナ、モニュメントバレーなどに代表される「大自然」だ。このほど公開された映画『イントゥ・ザ・ネイチャー 自然が教えてくれること』は、アメリカの魅力ある大自然28カ所を40分に凝縮したドキュメンタリー映画。日本語版のナビゲーションは宇宙飛行士の野口聡一氏。宇宙から地球という一つの「命」を眺めた人物の目を通して語られるアメリカの大地は、多様な色彩に満ち溢れ、この風景に身を置いてみたいと思わせてくれる。

アリゾナ州ページ近郊 アンテロープキャニオンの砂岩層zoom
アリゾナ州ページ近郊 アンテロープキャニオンの砂岩層
■北米最初の人類の足跡から始まる映画

アメリカの大自然は地球誕生46億年というスケールでその自然造形の営みにふれることができるのが魅力の一つ。例えばグランドキャニオンで見られるのは20億年から2億5千万年前の地層であったり、風雪や川の浸食が始まったのは約7000万年前であったり、現在の姿となったのはおよそ200万年前などという、人類の数千年の歴史など、軽く凌駕する時間感覚だ。

そんなアメリカの大地に人類が到達したのはわずか2万年前。いわゆるネイティブアメリカンと言われる人たちは、葦船に乗ってアラスカ付近にたどり着き、そこから海岸沿いに南下していったという。今でいう「ケルプハイウェイ」だ。彼等のなかにはその途上で上陸し、アメリカ内陸部へと旅をしていった者たちもいただろう。植物や動物、海や川など自然とともに暮らし、大地にそびえるモニュメントのような岩々に神を見て、聖地としたのも彼等だ。
オレゴン州南部のサミュエル・H・ボードマン景観回廊。太平洋岸に沿った「ケルプ・ハイウェイ」をカヤックでゆくzoom
オレゴン州南部のサミュエル・H・ボードマン景観回廊。太平洋岸に沿った「ケルプ・ハイウェイ」をカヤックでゆく
この映画はまず、アメリカ精神文化の土台を築いた先住民らに敬意を表し、その旅を「ケルプハイウェイ」から始めている。東から街を築いた入植者らによるフロンティア消滅の歴史をたどる「Go West」の視点とは逆のルートだ。
ケルプハイウェイのロケが行われたのはオレゴン州のパシフィックコースト沿いの国立公園。ミルクを溶かしたような青い海やそこに生える巨大なケルプの群生はもちろん、雪の白、黄金色の森やエメラルドグリーンの川、赤や桃色に輝く大地など、次々と映し出される多様な色彩に圧倒される。
ユタ州のパンド、ポプラの木立の前でカメラを見つめるワシミミズクzoom
ユタ州のパンド、ポプラの木立の前でカメラを見つめるワシミミズク
■ネイティブアメリカンの足跡

この映画では自然だけでなく、自然を通して生きてきた先住民の、埋もれた歴史にもスポットを当てる。そのエピソードのひとつが「サカガウィア・オン・ザ・トレイル」だ。

サカガウィアは実在したネイティブアメリカンの女性で、12歳のときに白人達とともに暮らすことを余儀なくされる。その後彼女は入植者たちの探検隊の任務に同行するのだが、そのときに彼女の自然に対する知識が彼らを大いに助けたという。サカガウィアの足跡を掘り起こすことは「ネイティブアメリカンと自然とのつながりがアメリカの歴史にとって重要であり、改めて敬意を払うことでもあった」とは、この映画の脚本家兼編集者であるスティーヴン・ジャドソンの弁。アメリカ建国の歴史のなかで、入植者とネイティブアメリカンの関係には不幸な出来事もあったが、彼女ら先住民が伝えてきた知識や精神文化は、時を超えて「アメリカ」の大地で呼吸をしていると思うと感慨深い。
コロラド州モラス湖畔でのサカガウィア・オン・ザ・トレイルのロケzoom
コロラド州モラス湖畔でのサカガウィア・オン・ザ・トレイルのロケ
■自然との付き合い方を通して感じられるもの

この映画は単に自然の絶景美を映し出すだけではない。熱気球やカヌー、トレッキングなどを通し、いかに自然にアプローチして行くかという点にも触れている。

そのなかのひとつ、アパラチアン・トレイルはアメリカ三大トレイルの一つで、アメリカ東部のメイン州アパラチア山脈から14州を経てジョージア州に至る3200キロのルートだ(参考までに、北海道の網走市から九州の鹿児島市までが約2800キロ)。しかもこのトレイルへはニューヨーク市から1時間ほどでアクセスが可能。このトレイルで登場するナビゲーター、ジェニファー・ファー・デイビスは平均165日をかけて進むこのトレイルを46日11時間20分で踏破した記録の持ち主なのだが、大切なのはジェニファーの「ハイキングをしている時、これほどの美を感じたことはないと思った」という、自然の中に身を置くことで五感に響く「何か」を感じ取ることだろう。それはすなわち自然との対話であり、もしかしたら数億年単位で語りかけてくる、地球の言葉かもしれない。

ナレーターの野口氏の言葉は、宇宙というはるか天空から地球を温かく見守るような温もりも感じられる。アメリカ大自然の旅であると同時に、宇宙の旅もしているような、そんな感覚も楽しんでいただきたい。
ジェニファー・ファー・デイビスzoom
ジェニファー・ファー・デイビス
■上映情報

『イントゥ・ザ・ネイチャーイントゥ・ザ・ネイチャー 自然が教えてくれること自然が教えてくれること』


【監督】グレッグ・マクギリブレイ/【脚本】スティーヴン・ジャドソンレイ
【出演】ジョン・ヘリントン、アリエル・トウェト、ジェニファー・ファー・デイビス
【ナレーション】野口聡一(宇宙飛行士)
2020年制作/アメリカ映画/日本語吹替/40分/
原題:Into NatureInto Nature’s WILD
【提供】エクスペディア、ユナイテッド航空
【製作】ブランドUSA、マクギリブレイ・フリーマン・フィルムズ、
【配給】さらい

公式サイト
https://intothenature.jp/
コラムニスト:Tomoko Nishio
旅行業界・旅&芸術文化ライター、動物好き。旅行業界誌記者・編集者を経てフリーの旅行ライターに。南仏中世と「三銃士」オタク。歴史とアートに軸を置きつつ、絵画、バレエ、音楽、物語、映画、漫画のロケ地・聖地巡り、海外旅行や小さなお散歩まで、様々な視点で旅を発信。「旅」は生活のなかにもあり。

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