旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2022年10月22日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

日本など39カ国の大使館が美食で火花 米国首都ワシントン、優勝国は筆者予想的中

△エンバシー・シェフ・チャレンジに参加したシェフたち(いずれも2022年10月13日夜、米国首都ワシントンで筆者撮影)zoom
△エンバシー・シェフ・チャレンジに参加したシェフたち(いずれも2022年10月13日夜、米国首都ワシントンで筆者撮影)

 日本を含めた39カ国の大使館の料理人が自慢の料理を振る舞い、腕を競うイベント「エンバシー・シェフ・チャレンジ」が10月13日夜、アメリカ(米国)の首都ワシントンで開かれた。賓客をもてなす機会が多い料理人だけにレベルの高さは折り紙付きで、自国のメンツを懸けた“頂上決戦”になるのは請け合いだ。筆者も世界のさまざまな国の美食に舌鼓を打ち、審査員部門の優勝国は予想が的中した。

△中東の民族舞踊zoom
△中東の民族舞踊

 ▽コロナ禍で3年ぶり
 エンバシー・シェフ・チャレンジは2009年から19年までは毎年開催していたが、新型コロナウイルス流行で20、21両年は中止に追い込まれた。今回は3年ぶりとなり、スミソニアン・アメリカ美術館を借り切って盛大に催された。
 入場券は1人当たり75~90ドル(約1万1千~1万3300円)とかなりの高額。だが、「世界旅行をしないで世界中の美食を楽しめる」(参加した女性)と好評で、開催前に売り切れていた。

△フィリピンのバンブーダンスzoom
△フィリピンのバンブーダンス

 ▽花より団子?
 美術館にある3階部分まで吹き抜けになったホールは、プロジェクターを使って映像を投影して視覚効果を与えるプロジェクションマッピングで壁面に草花などの模様をあしらって幻想的な雰囲気だ。
 中央の舞台では司会者があいさつした後に中東の民族舞踊、フィリピンの長い棒を使った踊り「バンブーダンス」などが披露され、見物客は声援を送ったり、手拍子をしたりして盛り上げていた。しかし、ほとんどの参加者は「花より団子」とばかりに舞台の周囲にあるさまざまな国のブースを品定めしていた。参加者は関心のあるブースに行けば料理や飲み物をいくらでも振る舞ってもらえるからだ。

△中国のブースzoom
△中国のブース

 ▽行列の先に待ち受けていたのは…
 参加者同士で「それはどの国のブースでもらったの?」と質問したり、もらってきたばかりの紙皿に載った料理を近くの人に見せて「サウジアラビアが出している料理はお薦めよ」と教えたりして盛り上がっていた。
 中でも長蛇の列ができていたブースは味に間違いないだろうと確信し、最後尾に付いたところ5分ほどでたどり着いたのは中国のブースだった。麻婆豆腐が盛られた皿を受け取り、食したところ香辛料が程よくきいた美味だった。
 となると、選ばなかったほうの料理である魚介類のソースであえたエビもおいしいに違いない。再び行列に加わって受け取ったところ、エビの素材の良さも含めて高級中華料理店のようなレベルの仕上がりだった。司会者が「最後に審査員と、参加者の皆さんのそれぞれの投票で優勝を決めます」と言っていたのを念頭に「これは優勝候補だな」と確信した。

△日本のブースで振る舞われたタコライスzoom
△日本のブースで振る舞われたタコライス

 ▽沖縄返還50年で日本が振る舞ったのは…
 早速当たりくじを引いたような満足感を覚えたものの、ホールには目当ての日本のブースが見当たらない。辺りを見渡していると誘導係の方から「上の3階へ行くと他にも多くのブースがありますよ」と教えられ、階段で3階へ向かった。
 ひときわ長い行列ができていた先に日本のブースがあった。事前に駐米日本大使館の方から「今年は1972年の沖縄返還50年の節目なので沖縄料理を振る舞う」と聴いていたため、2019年に沖縄県を訪れた時に味わった豚のスペアリブ(ソーキ)を載せた沖縄そば「ソーキそば」が待ち受けていると予想していた。
 順番が来て渡された料理はタコライスだった。タコスの具材を米飯の上に盛り付けた沖縄料理で、メキシコ料理の人気が高い米国人に受け入れられやすい面があるのは確かだ。もちろん良い味付けで、コーヒーで割ったのがユニークな泡盛とともに完食した。ただ、ソーキそばを約3年ぶりに食することができるという身勝手な期待は玉砕した…。

△審査員部門の表彰式。右端から3人が中国大使館のシェフzoom
△審査員部門の表彰式。右端から3人が中国大使館のシェフ

 ▽大使館の頂点は…
 その後もブース巡りを続けてタンドリーチキン、タピオカの原料にもなっているキャッサバの料理など幅広いメニューを味わったが、大使館の頂点に輝く国の予想は揺るがなかった。開始の2時間半後の表彰式で司会者が「審査員部門の首位は中国です!」と声を張り上げるのを聞いて納得した。参加者投票の優勝はバーベキュー味の鶏肉「チキン・イナサル」などを振る舞ったフィリピンとなり、私も1票投じた日本は上位3カ国に食い込むことはできなかった。
 今年の日本にとっては沖縄返還50年というお題目があったが、もしも優勝を目指すのならば“特効薬”はあるのだろうか?
 米国でも人気が高い寿司を振る舞えば、審査員または参加者の心に刺さるのは間違いない。もちろん個人的には歓迎するものの、トロやいくら、ウニといった高級食材を用意するのは予算上難しいだろう。よって現実的なメニューとして、米国風にアレンジされた「カリフォルニアロール」を含めた巻き寿司を出すことを提案したい。
 外交を使命とする大使館だけに、各国のシェフの腕の見せ所となるのは自国の食文化に関心と親しみをもってもらい、国際親善の一翼を担うことであろう。優勝するかどうかは二の次でも良いのかもしれない。それでも23年は和食が国連教育科学文化機関(ユネスコ)のユネスコ無形文化遺産に登録されて10年の節目なのを踏まえると、来年は「巻き寿司で巻き返し」の健闘ぶりを米国に駐在する日本人の1人として目の当たりにしたい気もしている。
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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