旅の扉

  • 【連載コラム】空旅のススメ
  • 2022年8月15日更新
あびあんうぃんぐ
航空ライター:Koji Kitajima

シカゴで航空歴史遺産に触れることができる産業科学博物館へ

Take Flight ボーイング727で飛ぼうという展示zoom
Take Flight ボーイング727で飛ぼうという展示

シカゴには交通をテーマとした展示のあるシカゴ産業科学博物館(MSI)があります。本コラムでは筆者のシカゴ観光案内の記事でも触れたのですが、素晴らしい展示品をもう少し詳しく説明します。

建物は万博の遺産
建物のルーツは1893年シカゴ博覧会にさかのぼります。コロンブスのアメリカ発見400年を記念して開催されました。会場内が白い建物で統一され、ホワイト・シティと呼ばれていました。グレコローマン風で、パレス・オブ・ファイン・アーツという美術品展示場として建てられたものが、1933年に産業科学博物館として開館しました。

シカゴ市街中心部から南のミシガン湖畔に沿って広がるジャクソンパーク内にあり、広さは37,000㎡の3階建てで一部5階建てのドーム映画館を備えます。展示品は35,000点にのぼり、西半球で最大の博物館と言われます。

建物に向かうとその重厚感に圧倒されます。公園の中だけあり、周囲の緑の中に荘厳とたたずみます。12歳以上21.95ドルのチケットを買うと、まずは地下に誘導されます。

パイオニア・ゼファー
薄暗いロビーの横にはトンネル内を疾走するようにも見えて、目に入るのは流線形の鉄道車両のパイオニア・ゼファー。1934年5月26日にデンバーからシカゴまで当時のスピード記録を作った列車です。アールデコ調のデザインのこの列車は当時のスピード記録になったことからギリシャの風の神にちなんで名づけられました。

パイオニア・ゼファーの見事な造形の先頭車zoom
パイオニア・ゼファーの見事な造形の先頭車

この列車の特徴は、電気ディーゼルエンジンを装備した低重心の車体です。蒸気機関車が主流の時代に、大いに刺激となったことでしょう。

先頭車はほれぼれする造形です。最後尾車両は展望室になっており、他の客車とともに内部が公開されています。当時、先端を行く列車に乗った人々は着飾って展望室で余裕の時間を過ごしたことでしょう。

当時はラウンジで豪華な移動ができていましたzoom
当時はラウンジで豪華な移動ができていました

ボーイング727へ
エントランスからエスカレーターを昇って3階展示室に向かいます。見たいと思っていたのはユナイテッド航空が使用していたボーイング727-100型で機体番号はN7017Uです。ここは「Take Flight」とのテーマがあり、実際にこの機体に乗って旅に出るといった内容の展示になっています。

胴体の一部が展示室の床に、右主翼がワイヤーで支えられ空中に浮かぶように支えられています。

宙に浮いたように見える727 階下は鉄道ジオラマが走るzoom
宙に浮いたように見える727 階下は鉄道ジオラマが走る

シカゴはボーイングとユナイテッド航空の本社のある場所。(ボーイングは今後ワシントンD.C.へ移転を発表)両社のサポートを受けて、博物館のメインの展示物のひとつになっています。

機内は一部座席とコックピット、ギャレー、ラバトリーが残されています。床や隔壁の内部がクリア板を通して見えるようになっており、主輪が上下する様子も機内から眺めることができます。航空機の稼働システムで機械、電子、油圧が使われる場所が理解できます。

コックピットはクリア板でふさがれていますが、綺麗に保たれており、当時3人目の運航乗務員として航空機関士が作業する計器が手前にあり、改めて見ると新鮮です。

航空機関士のテーブルには航空日誌が残されており、ここに操縦士が揃えば飛び立っていきそうなリアルな展示です。

機体後部に向かうと、ボーイング727で特徴的だった自蔵収納式のリアタラップの構造がわかる展示になっていました。

このボーイング727の見学にあたって、ファシリテーターのスコット・ハナダさんに案内をして貰いました。彼が語ったのは、インタラクティブとしての航空機展示です。見て乗って、触って航空機の運航を知ることができます。多くの部分で内部構造を見ることができて、動きのある展示がMSIの自慢です。

1992年10月にこの機体は博物館にやってきたので、まもなく30年を迎えると教えてくれました。2020年10月から2021年5月まで改装の為に閉鎖していたとのことで、現在の新しい展示はこの先も長く公開されていくことでしょう。

彼がおもむろに取り出したリモコンでは、スイッチ一つで主輪のアップダウンを操作することができます。他にも、フラップやラダーの操作もすることができました。自慢の稼働展示だと言います。

階下から見た展示(上)、727の後部自蔵ステア(中左)と客席(中右)、コックピット(下)zoom
階下から見た展示(上)、727の後部自蔵ステア(中左)と客席(中右)、コックピット(下)

航空黎明期からの機体の数々
同じ階には、更に古い機体も空中に浮かびます。ライトフライヤーに始まり、1917年のカーチスJN-4D機が使われたのは米国で流行ったバーンストーミングです。スタントパイロットがフライングサーカスという曲技飛行を披露していたことをそのように呼びます。当時使用された「ジェニー」複葉機が展示されます。

1927年に飛んだのは、ユナイテッド航空のボーイング40B-2輸送機で郵便と旅客を運びました。1930年のテキサコ トラベルエアモデルRレーサーはエアレース全盛期の機体で、都市間速度記録を数々打ち立てました。

第二次世界大戦の急降下爆撃機ストゥーカや、イギリス空軍のスピットファイヤーも近くで見ることができました。

ホワイトキャッスルと言われる美しいMSIの建物zoom
ホワイトキャッスルと言われる美しいMSIの建物

その他の交通展示
3階から吹き抜けになっている階下を見下ろすと、鉄道模型のジオラマや、ニューヨークセントラル鉄道でエンパイヤステートエクスプレスをけん引する1893年製造999機関車が見えています。

他のフロアに移ると、アポロ11号月着陸船やスペースシャトル「アトランティス」も見ることができます。

第二次世界大戦時のドイツ潜水艦U-505や、炭鉱作業に向かう為の作業列車に乗ることもできます。一風変わった今までに経験したことのない交通の歴史を知るにはうってつけの場所です。

協力:Choose Chicago ⇒ https://www.choosechicago.com/

航空ライター:Koji Kitajima
大阪府出身。幼少期より空への憧憬の念を持ったまま大人になった、今や中年の航空少年。
本業のかたわら情報を発信しています。週末は航空ライター兼ブロガーとして活動中。
旅のモットーは、「航空旅行を楽しまないと旅の魅力は半減です。旅の楽しみは空港から始まる」です。

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