旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2022年5月16日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

今はなきリンカーン・コンチネンタル「1千万円ほどで売れる」?

△フォード・モーターの「リンカーン・コンチネンタル」4代目(米メリーランド州で筆者撮影)zoom
△フォード・モーターの「リンカーン・コンチネンタル」4代目(米メリーランド州で筆者撮影)

 「これを修理して元の形を再現すれば、中古車として7万~8万ドル(約900万~1030万円)ほどで売れるのではないか」。アメリカ(米国)のレトロ車が止まっているのを首都ワシントン近郊のメリーランド州の中古車ディーラーの屋外駐車場で、店主が指をさしながらそう語ったのが米国フォード・モーターの今はなきモデル「リンカーン・コンチネンタル」の1970年代に販売されていた5代目の高級グレード「タウンカー」のセダンだ。

△リンカーン・コンチネンタルの5代目タウンカー(米メリーランド州で筆者撮影)zoom
△リンカーン・コンチネンタルの5代目タウンカー(米メリーランド州で筆者撮影)

 ▽まるで「緊急車両」に?
 この車は後ろ半分の屋根をビニールで覆い、「Cピラー」と呼ばれる最後部の柱にはリンカーンのロゴが記された楕円形の窓「オペラウインドー」を備えている。黒い塗装も手伝い、往年のアメ車らしい風格が漂う。
 秋本治さんの漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」に登場する御所河原組の御所河原金五郎之助左エ門太郎組長が乗っているモデルでもある。もしも日本の高速道路で追い越し車線を突っ走れば、まるで「緊急車両」のように先行車が次々と左の一般車線へよけ、道を譲ってくれる展開になるかもしれない。

△リンカーン・コンチネンタル4代目は観音開きの扉が印象的(米メリーランド州で筆者撮影)zoom
△リンカーン・コンチネンタル4代目は観音開きの扉が印象的(米メリーランド州で筆者撮影)

 ▽前照灯カバーは故障か
 ただ、店主が「修理すれば」と前置きしたように所々の塗装がはげたり、さびが出ていたりするのが惜しい。5代目は格納式前照灯を備えているが、置かれていた車はカバーの開閉機能が故障している可能性がある。
 というのも左右二つずつの円形ヘッドライトがむき出しているからだ。5代目リンカーン・コンチネンタルは前照灯カバーが開かずに前照灯を作動できない事態を防ぐため、カバーの開閉機能が壊れた場合は開けた状態にできるフェールセーフ機能を設けている。

△リンカーン・コンチネンタル4代目の車内(米メリーランド州で筆者撮影)zoom
△リンカーン・コンチネンタル4代目の車内(米メリーランド州で筆者撮影)

 ▽車好きの米国人も見間違えた外観
 続いて店内の緑色の車を一瞥して「ここにもリンカーン・コンチネンタルがあるね」と話しかけると、店主は「そうだ。(扉が観音開きの)スーサイドドアの1967年型だ」と教えてくれた。
 この車の写真を車好きの米国人の友人にメッセンジャーで送ったところ、「君のトヨタ(自動車の車)を下取りに出してそのキャデラックを買えばいいのではないか」と米国ゼネラル・モーターズ(GM)の高級車ブランド「キャデラック」の車と見間違えての返信が届いた。
 「君のトヨタ」と記されていたのも違っており、正しくは「君のホンダ」だ。ホンダ車を下取りに出してリンカーン・コンチネンタルのレトロ車を手に入れることは絶対にない。より正確に説明すれば、故障知らずのホンダ車を故障リスクがつきまとうレトロ車に交換することは、ハンドルを握る機会が多い私の妻が絶対に許さない(苦笑)。

△リンカーン・コンチネンタル4代目の後部デザイン(米メリーランド州で筆者撮影)zoom
△リンカーン・コンチネンタル4代目の後部デザイン(米メリーランド州で筆者撮影)

 ▽ケネディ元大統領暗殺前にはねつけられた進言
 4代目のリンカーン・コンチネンタルは、ジョン・F・ケネディ大統領(当時)が1963年11月に米国南部テキサス州ダラスでパレード中に暗殺された際に乗っていたオープンカーに改造された車でもある。米国の政界に詳しい人から聞いたのは「暗殺事件前に不穏な情報があったため、側近はケネディ氏に『パレード中は防弾ガラスで覆ったほうがいいのではないか』と進言した」という話だ。
 しかし、翌64年11月に再選をかけた大統領選を控えていたケネディ氏はパレードで「強い大統領」を誇示したがり、防弾ガラスで覆った車に乗れば気弱なイメージを持たれかねないと反対。協議の末、当日が降雨の場合は「雨よけ」が理由になるため防弾ガラスのカバーを取り付けるものの、晴れた場合にはオープンカーに乗ることで決着した。もしも当日雨が降っていれば、米国史が塗り変わっていた公算が大きい。

△フォードの「ブロンコ」初代型(米メリーランド州で筆者撮影)zoom
△フォードの「ブロンコ」初代型(米メリーランド州で筆者撮影)

 ▽相次ぐ車名復活
 リンカーン・コンチネンタルは惜しまれながら2020年型を最後に消滅したが、脇にはフォードが21年型で24年ぶりに復活させたスポーツタイプ多目的車(SUV)の「ブロンコ」があった。左右に一つずつの円形ヘッドライトがあり、それらの間のフロントグリルに方向指示器を設けた愛らしい外観が特徴的な1966年登場の初代型だ。
 近年はブロンコに限らず、米国で懐かしい名前の車が相次いで復活している。クロスエフエム(福岡県)の番組「Urban Dusk」に5月17日火曜日午後6時15分ごろから生出演して背景などをお話ししますので、よろしければ聴いていただければ幸いです。
 (次号へ続く)
 (連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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