旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2021年7月4日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

沖縄・離島ホッピングの旅  #05 シェーブルの美味しさに目覚める、「星のや竹富島」の琉球ヌーヴェル

沖縄の海を思わせる力強いブルーに、島食材をふんだんに使った料理が映える琉球ヌーヴェル。zoom
沖縄の海を思わせる力強いブルーに、島食材をふんだんに使った料理が映える琉球ヌーヴェル。
シェーブルチーズは、好き!
ヤギ汁は……というと、克服している自負はあるものの、体調によって受け付けないことがあります。

その私が、シェーブル(つまり、ヤギ肉)を食べ、ヤギの魅力に取りつかれました。「沖縄・離島ホッピングの旅」第5回は、西表島から竹富島へ。沖縄の郷土食の一つでもある、ヤギの料理に魅せられた「星のや竹富島」の琉球ヌーヴェルをご紹介します。

沖縄の食に対するイメージが変わる“琉球ヌーヴェル”

南国のフルーツをはじめ、野性味あふれる肉類、本土のものとは姿も色も少しずつ異なる魚介、太陽をいっぱい浴びて育った野菜やハーブ。それらパワーあふれる沖縄の食材を使い、フレンチの技で仕上げるのが“琉球ヌーヴェル”です。
開放的なダイニング。夕暮れとともに変わる、外の景色を眺めながらディナータイムを。zoom
開放的なダイニング。夕暮れとともに変わる、外の景色を眺めながらディナータイムを。
琉球ヌーヴェルを味わうことができるのは、「星のや竹富島」のダイニングルーム。シンプルなインテリアですが、窓の外に広がるプールと、遮るものがない空を眺められるとても開放的な空間です。使われている器は、現代やちむんの第一人者・大嶺實清(おおみね じっせい)さんのもの。「やちむん」とは、沖縄の言葉で焼き物のことをいいます。

島の食材と、素朴さと力強さがもち味のやちむん、そこにフレンチの技法が加わって、どんな料理が登場するのか、わくわくしながらその時を待ちます。東京に比べ、日没時間が30分以上遅い竹富島。夕暮れのうっすら色づく空を映すプールを眺めながら、デイナータイムがスタートしました。

“カチューユ”って、フレンチの技法?

一皿目の小さな前菜は、「カツオのタルティーヌ カチューユを添えて」。マグロとともにカツオは、沖縄近海で捕れることもあり、よく食べられている魚のひとつ。このタルティーヌを軽く燻製にしたものです。

カップの中でスモークに覆われたタルティーヌとメニューを見比べながら、
「カチューユって、フレンチの技法の一つかしら?」
と思ったら、まったくの的外れ。
沖縄の食習慣も体験できる「カツオのタルティーヌ」。この後カップにカツオのコンソメが注がれる。zoom
沖縄の食習慣も体験できる「カツオのタルティーヌ」。この後カップにカツオのコンソメが注がれる。
“カチュー”は、沖縄の言葉でカツオを、“ユ”はお湯で、カツオ出汁のことをこう呼ぶのだそうです。沖縄では風邪を引いたり胃腸が弱った時などに飲む習慣があるのだとか。スモークを終えたカップにはカツオのコンソメが注がれ、これを飲んでから食事を始めます。カツオ出汁で胃腸の働きをよくするという、琉球流・医食同源を取り入れた一皿です。

衝撃的な美味しさの、シェーブルのタルタル

沖縄の海を思わせる、鮮やかな青色の器で登場したのは、「シェーブルのクスクス サラダ仕立て」。
シェーブル、そう!ヤギです。
ヤギの、あの独特のクセが得意でないという人も少なくないでしょう。
そういう私も、シェーブルチーズは好きだけど、ヤギ汁のあの匂いは微妙です。これを島の人たちは、お酒を飲んだ後に食べたり(スナックで出す店もある)、ヤギ汁ベースのおでんまであるのだから、伝統食というのはなかなか手ごわい!

そのヤギがフレンチのシェフの手に掛かると、果たしてどんな料理になるのでしょう。
「シェーブルのクスクス サラダ仕立て」は、今年の春からの新メニュー。ヤギ肉のタルタルとクスクスを混ぜ合わせながら食べる。zoom
「シェーブルのクスクス サラダ仕立て」は、今年の春からの新メニュー。ヤギ肉のタルタルとクスクスを混ぜ合わせながら食べる。
生のヤギ肉を軽く叩いてタルタル状にしてあり、その上にフーチバー(沖縄のヨモギ)風味のクスクスを重ねた料理が、「シェーブルのクスクス サラダ仕立て」。ソースは甘酸っぱいパッションフルーツです。

ひと口食べると、まず赤身肉の上品な甘みが広がります。食感は鹿肉にも似ていますが、もっと野性味を感じます。そこに、フーチバーの爽やかな苦みとパッションフルーツの甘酸っぱが加わり、肉の旨みをぐいぐい引き出しています。

無意識のうちに舌の上で、ヤギ独特の匂いを探している自分に気づきました。ペアリングでお願いしたソーヴィニヨンブランを合わせたら、シェーブルチーズを食べたときのような後味が蘇えってきます。これが、組み合わせの妙というものでしょう。料理におけるワインの存在の重要さも、再認識しました。

島食材のパワーを見せつけられる料理の数々

次に運ばれてきたのが、「島人参のパイ包み焼き 車エビのポワレと共に」。パイ生地の中でじっくり火を通された島人参は、安納芋かと思うほどの甘さ。竹富島で養殖している車エビのプリッとした食感と濃厚な甘さも、負けてはいません。白いソースは、車エビの味噌に酸味を利かせたもので、人参と車エビの甘さに奥行きを出しています。
左上/「島人参のパイ包み焼き」の車エビは竹富島産。天然海老にも勝る味と食感が自慢。右上/「青豆のブルーテ」は、サザエのスープ。下/白身魚のハタを使った「ミーバイのコトリヤード」。一皿に使われている食材の多彩なこと!zoom
左上/「島人参のパイ包み焼き」の車エビは竹富島産。天然海老にも勝る味と食感が自慢。右上/「青豆のブルーテ」は、サザエのスープ。下/白身魚のハタを使った「ミーバイのコトリヤード」。一皿に使われている食材の多彩なこと!
「青豆のブルーテ サザエと四角豆のフリカッセ」、「シークヮーサー香る ミーバイのコトリヤード」と料理が続きます。メニュー名だけを見ても、一皿一皿に沖縄の食材がふんだんに使われていることがわかるでしょう。

スープは、春から初夏に旬を迎えるサザエを使ったもの。さっと熱を通した肝がカップの底に忍ばせてあり、その苦みと青豆の若草のような香りがよく合います。
魚料理の“ミーバイ”とはハタのこと。あっさりとした白身魚ですが、しっかりとした弾力があり、かみしめるとどんどん旨みが出てきます。磯の香りを感じさせるウミブドウの塩味、さらに仕上げにすりおろしてかけるシークヮーサーの酸味が加わって、沖縄の海と大地を存分に味わっている気分になりました。

和牛と泡盛の個性が見事に融合した肉料理

ポークとビーフから選べる肉料理は、「牛肉の泡盛酒粕のクルート包み焼き」をチョイス。和牛赤身を包み焼きにし、ベアルネーズソースという卵黄のソースを添えたもの。包み焼きの生地(クルート)に泡盛酒粕を使い、お肉にほんのりと甘い香りをまとわせています。白い粒状に見るのが、酒粕ピュレ。これをお肉にのせながら食べると、フレンチに泡盛という組み合わせが想像以上にまとまりがよく、繊細な料理として完成させたシェフの腕前に脱帽です。
左上/泡盛酒粕を使ったクルートで包み焼きにした「牛肉の泡盛酒粕のクルート包み焼き」。左下/デザートはメレンゲを珊瑚に見立てた「パイナップルのバシュラン仕立て ピパーツのアクセント」。ピパーツとは八重山地方で育つ島胡椒。右/料理長の青木優司さん。zoom
左上/泡盛酒粕を使ったクルートで包み焼きにした「牛肉の泡盛酒粕のクルート包み焼き」。左下/デザートはメレンゲを珊瑚に見立てた「パイナップルのバシュラン仕立て ピパーツのアクセント」。ピパーツとは八重山地方で育つ島胡椒。右/料理長の青木優司さん。
翌日、料理長の青木優司さんにお話を聞くことができました。
一番印象に残ったのはやはり、「シェーブルのクスクス サラダ仕立て」。
「ヤギはクセが強く、苦手とされる方が多いのですが、そのイメージが変わるような料理をお出ししたかったのです」と青木さん。とてもいい肉を提供する飼育農家さんに出会えたことも、メニューの後押しになったそうです。

今回、一皿一皿に使われている島食材の多彩さに驚かされました。また、メニューのネーミングや食材、調理法から伝わってくる島言葉や沖縄の食習慣も興味深く、沖縄の食についてもっと深く知りたくなりました。ヤギ肉に対するイメージも変わり、次なるシェーブルの新作がとても楽しみになっています。

星のや竹富島
沖縄県八重山郡竹富町竹富
TEL 0570-073-066(星のや総合予約)
URL:https://hoshinoya.com/
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
risvel facebook